表現活動のクロスオーバー化が著しい昨今では、ミュージシャンによる小説執筆もそれほど珍しいものではなくなってきました。そんな中にあって、音楽表現と文章表現を密接にリンクさせるアプローチで、より立体的なイメージをもったエンタテインメントとして届けてくれているのが「三月のパンタシア」です。
「終わりと始まりの物語を空想する」ボーカリスト・みあによる音楽ユニットである三月のパンタシアは、みあさんの書き下ろす小説を軸として、それに連動する音楽を発表する活動で人気を集め、いま最も注目を集める音楽ユニットのひとつとなっています。
そのみあさんの初めての長編小説書籍『さよならの空はあの青い花の輝きとよく似ていた』(幻冬舎)が、この7月に刊行されました。
同時に、TVアニメ『魔法科高校の優等生』OPテーマ「101」を含むシングル「101 / 夜光」にて、同小説の主題歌「夜光」を発表。
今回はその最新小説についてのお話を、歌人・小説家の加藤千恵(かとう・ちえ)さんと、小説家であり、またみあさんの短編作品を掲載する小説サイト「ステキブンゲイ」を主宰する中村航(なかむら・こう)さんをダブル・インタビュアーとした鼎談形式でお伺いしました。
(聞き手:加藤千恵、中村航)
中学生の自分にとっては、自分が知らないことが小説の中に全部書いてあるようで(みあ)
中村航(以下:中村):三月のパンタシアでは、みあさんがまず小説を書いて、それを読んだクリエイターの方が楽曲を書く、というようにお聞きしたのですが。
みあ(三月のパンタシア):三月のパンタシア自体は、2015年からYouTube上で活動しながら、インディーズで楽曲を発表してきたんですけど、そういうスタイルで楽曲制作をはじめたのは2018年の夏ごろからです。
中村:なにかきっかけがあったんですか?
みあ:もともと活動当初から、歌詞の世界観だとかライブの世界観で「物語性」を大切にしてきたユニットで、たとえばライブ中に朗読を挟んで、ライブをひとつの物語としてお客さんに届けたり、そういう形をファーストライブのときから続けてきていたんですね。だから「もしかしたら小説との相性はいいんじゃないか」っていう話になったんです。それで2018年の夏ごろ「なにか新曲を作ろう」ってなったときに、ただ楽曲作って、MV作って、YouTubeにアップするだけだとちょっと味気ないし、せっかくだからなにかストーリーと結びつけるような、三月のパンタシアの夏企画みたいなものを自分たちではじめてみようということになって。「ストーリーになる夏の物語を、ざっくりとでいいんで考えてきてください」とスタッフさんが言ってくださったんです。
中村:最初はひとつの企画だったんですね。
みあ:そこから、私が考える“夏の終わりのエモ”ってなんだろうってバーッといっぱい書き出して。「こういうキャラクターが、こういう人と出会って、こういうふうになる」っていうのをチームに持って行って、「これを曲にしたい」ってプレゼンしたときに、「そこまで考えているなら自分で書きなさい」って言ってもらったのがきっかけです。それまでは私も、「小説は他の方が書くんだろうな」って、自分が書くとは思ってなかったんですけど(笑)。
加藤千恵(以下:加藤):意外な展開になったんですね(笑)。
みあ:でもせっかくそう言ってもらったので、自己表現のひとつとして、それに“言葉”を伝える立場としてもやってみたいなと思いました。もちろん難しいことだらけだったんですけど。そこから、自分が書いたものをWeb上で公開して、それに連動させた楽曲を発表していくスタイルをとるようになりました。
加藤:小説を書き上げたのは、その2018年が最初なんですか?
みあ:そうですね。最初に書いたものは、ちょっともうお恥ずかしいんですが。
中村:「ステキブンゲイ」にアップされている「サマーズスプリンター・ブルー」なども、その流れの作品なんですか?
みあ:あ、そうですね。
加藤:ああ、陸上部の女の子と書道部の男の子のお話ですね。私も読ませていただきました。青春感がふんだんに詰まった作品ですよね。
みあ:ありがとうございます! あれは去年のものなんですけど。
中村:第6話の「興奮してまいりました」ってタイトルが面白くて(笑)。なんだか“溢れだすものがある”なあと感じられて、大好きだったんですけど。
みあ:ありがとうございます。
中村:もともと小説はよく読まれるほうだったんですか?
みあ:書いたことはなかったんですけど読むのは好きで、学生時代からよく読んでいました。でも三月のパンタシアは“十代の青春感”みたいなものをテーマにしてるんですけど、最近こうやってインタビューをしていただいたりいろんな方とお話をする中で、自分が実際十代だったころにどんなものを読んでたかなって思い返してみると……唯川恵さんとか江國香織さんのような都会的で洗練された大人の恋愛小説を選んで読んでたなって思って(笑)。読んで、「なんでこの人は、好きじゃない人ともキスができるんだろう?」って思ったり(笑)。
加藤・中村:(爆笑)
みあ:中学生の自分にとっては、自分が知らないことが小説の中に全部書いてあるようで。私は恵まれた環境で育った普通の子だなって思うんです。それで、たとえばその当時も「不倫」っていう言葉の意味自体は知っていたと思うんですけど、それは“自分の現実”に介入してこないことだったんですね。それを小説の中で“こんなふうな愛もあるんだ”みたいなことを知ったり。だから、知らないことを背伸びして覗かせてもらってるみたいな気持ちで、大人の恋愛小説をよく読んでたなあって思ったんです。逆に青春小説……たとえば、田舎を舞台にした、都会に憧れる女の子男の子たちの物語みたいなものに惹かれるようになったのは、けっこう大人になってからですね。
中村:悪いことはすべて小説から教わった、ってことですね(笑)。
みあ:そうかもしれませんね(笑)。十代のころは、言ってしまえばそういうジャンルのものばかり読んでたんですけど、大学進学で上京して、いろいろなカルチャーにいっぱい触れられるようになってからは、小説もそうだし映画なども、いろんなものを見たり聞いたり読んだりするようになりました。
「ああ、心音ちゃんが歌ってる!」って(加藤)
加藤:今回の小説『さよならの空はあの青い花の輝きとよく似ていた』でも、お父さんと映画を観るシーンが出てきますが、実際にみあさんがご覧になったものを書いたんですか?
みあ:そうですね。映画だったり音楽だったり。
加藤:音楽、素敵ですよね! リアルタイムのものが出てきて、読んでて楽しかったです。これ、読んだ子たちはみんなバンドやりたくなるんじゃないかなあ。
みあ:あー、ホントですか!? なんか嬉しい。映画も楽曲も、リスペクトの想いを込めて書いているところもありましたから。あと、音楽を通じて成長していく十代の女の子の姿を書きたいっていう想いも。すごく恵まれたことに、この小説をたぶん最初に手に取ってくれるのは自分のリスナーだろうなっていう、読者の姿が見えていたんですね。年代は十代から大人の方まで幅広いんですけど、SNSなどを通じてよく聞こえてくる悩みとして、「音楽に興味があるけど、始め方がわからない」「音楽の道に進みたいけど、このまま自分を信じていいのかわからない」っていう、音楽をやりたいけど迷っていたり、純粋に将来についての不安を抱えている子たちが多いのかなっていう実感があって。そういう子たちに、自分が書けるものがあったら書いて物語にして届けたいなっていう想いがあったので、もし「バンドやってみようかな」っていう後押しになれたらものすごく嬉しいです。
加藤:実際にやりたくなる子がめちゃめちゃいると思います。みあさんもさっきおっしゃってたけど、青春真っただ中のときに青春小説よりも背伸びした恋愛小説を読んだりっていうのも「あるある」な気はするんだけど、『さよならの空は~』はたしかに十代の子たちがリアルタイムで読んで、いろんなことを思う小説だろうなあと感じました。もちろん大人が読んでもいいんだけど、十代の子たちが読んで、行動に影響を与えるというか。それこそ「バンドやろう」とか、なにか好きなことを思う小説だなあって。
みあ:ありがとうございます。
中村:僕は、読んだときに……十代の読者がこの小説を読んで、作中で喧嘩したりドキドキしたりしてる気持ちに共感して読む気持ちに共感を……説明が難しいなあ(笑)。
加藤:読者側の気持ちにってこと?
中村:そうそうそう。自分より若い読者が感じているであろう気持ちに共感しながら読みましたね。なんと言うか、多分、瀬戸(せと)君とかもう、ちょっと俺にはキラキラしすぎているのかもしれない(笑)。
加藤:まぶしくて見えない(笑)?
中村:そう。だけど何故か、この物語に共感する人たちの気持ちに共感してる、っていう、不思議な感覚になりました。
加藤:主人公もですが、ほかのキャラクターもそれぞれに魅力的だなと思いました。わたしは特にうみちゃんが好きです。キャラクター設定とかはどういうふうにしてるんですか? というか、小説の書き方を伺いたいなと思うんですが。先に単語みたいなものを書き出すんでしょうか。
みあ:いちおうプロットみたいなものは最初に作って、その時点でキャラクターの名前とけっこう詳細な設定まで決めてから書きはじめた気がします。たとえばうみちゃんだったら、「彼氏とおそろいのタトゥーが入ってる」とかまで決めて。
加藤:あ、書く前からもうそんなに細かく。
みあ:主人公の心音(ここね)がすごく純真で、真っすぐな無垢なキャラクターだったので、うみちゃんはすごく大人びててしっかり者に見えるけど、でもなんか危うさのようなものも持ち合わせている感じの子にしたかったので、「タトゥーがちらっと見えたらドキッとするかな」って(笑)、最初にそういうところまでイメージして書いて。あと、一人だけ後輩の唯ちゃんは、あの中でいちばん真面目な、でも斬り込み隊長的な明るいキャラクターにしようと思って。一応、キャラクターの役割分担の振り分けみたいなものは最初に決めてから書きはじめました。
加藤:ストーリー面では、ラストまで全部決めてたんですか?
みあ:大まかな最後の結び方は。アタマと結びだけは決めていて、間はそんなにガッツリ決め込んではいなくて。でも「これは書けたら書きたい」みたいなものは箇条書きでリストアップして、その中から、書きながら「あ、ここでコレいける!」っていうものを差し込んでいって。
中村:告白はしようって決めてたんですか?
みあ:それもどの段階でするのかとか、返事までするのか、結ばれたっていう描写を描くのかは最初には決めていなくて。書きながら「ここではまだ言えないな」とか「ここだったら絶対言うな」とか決めていきました。
加藤:唯ちゃんのパインアメなんかもいい設定だなと思って、小道具が効いてるなって思いました。
みあ:あ、嬉しいです!
加藤:すごく浮かんでくるし、イメージしやすかった感じがします。
中村:場所でも、給水塔とかね。
みあ:給水塔って、すごく性癖で書きたくなるというか……なんかエモくなれる(笑)。
加藤:村上春樹さんが井戸を書くのが好きだったり、それぞれの好きな場所があるんだよね、やっぱり。でもじゃあ、あらかじめ多くを決めて書いているんですね。キャラクターも多く登場するし、構成などはどうしているんだろうって聞いてみたかったんです。
みあ:こういう群像劇を書いたのが初めてだったので、私の性格上、最初にちゃんと整理をしておかないと途中でとっちらかるのが怖くて。だから特に今回は最初にガッツリ決めていたところはあるかもしれません。
中村:どれくらいの期間で書いたんですか?
みあ:それこそ出版できるかどうかもわからないまま、書きたいから書いてみようっていう気持ちではじめたんですけど。去年の9月あたりから書きはじめて……いったん書き終わったのが今年の春くらいで。
加藤:タイトルはどの時点で決めてたんですか?
みあ:タイトルは途中です。最初は具体的な花の名前とかを入れてみたりしたんですけど……。
加藤:主人公たちのバンド名のアヤメ(表記は「ayame.」)を入れたり?
みあ:はい。
中村:あ、僕は「ayame.」というバンド名がすごくいいなって思ったんですけど、小説の中でバンド名を出すのってけっこう勇気がいるじゃないですか。
みあ:あの……センス的に?
中村:そう(笑)。
みあ:そうなんですよね(笑)。だから「ayame.」に至るまで10回……はちょっと盛ってるけど(笑)、何回か会議がありました。
中村:脳内会議?
みあ:脳内もあるし、実際にスタッフに「この中だったらどれがいい?」って選んでもらって、その中から「やっぱりこれじゃない、これだ!」とか自分で取捨選択をしながら。
中村:でも重要な、物語にかかわってくる名前ですもんね。
加藤:登場する曲が、実際に楽曲になっているのもすごいことですよね。『夜光』を実際に聴たら「ああ、心音ちゃんが歌ってる!」ってなりますもんね。
みあ:ああ~、嬉しいです!
中村:最初のブレスの部分から小説とリンクしてる。
加藤:「あ、よかった! 歌えた! 心音ちゃんが歌ってる!」って。そこの、結果として仕掛けになってるところが、プロのミュージシャンの方にはそういうことができるんだって、うらやましかったです。
中村:面白いですよね。最初にブレスが出てきたときにズキューンって撃ち抜かれる感覚があった(笑)。
みあ:私も、今回は高校生のバンドがテーマになっているということもあって、ストレイテナーというロックバンドのホリエアツシさんと共作させてもらったんですけど、ホリエさんにも小説を読んでもらったうえで楽曲制作をはじめて。小説の中には曲のテンポ感とか、「こういう歌です」ってわかる細かい描写があったんですけど、それはあまり自分からは伝えていなかったんです。
中村:それはどうして?
みあ:ホリエさんが受け取ったまま作ってもらえたらいいかなって思っていたからなんですけど。でも実際デモが届いたら、イントロのない歌からはじまる曲で、小説の描写と一致してたので「ああ、ここ合わせてくれたのかな」って思っていたら、ホリエさんは小説を読む前にあらすじを聞いた時点で曲を作りはじめていたらしくて。
加藤:へえ~! ものすごい偶然なんですね!
みあ:その時点でもう歌はじまりの曲を作ってたので、小説を読んだときにホリエさん自身も「あ、歌はじまりだ」ってちょっとハッとしたって仰ってて。その奇妙なシンクロみたいなものが、制作してても面白かったです。
加藤:それは本当に、運命的な感じがしますね。
みあ:なのでレコーディングでも最初のブレスは、めちゃくちゃマイクに近づいて「このブレス、絶対使ってくれよ!」っていう気持ちで歌いました(笑)。
中村:あ、そうか。使われるかどうかわからない状況だったんだ?
みあ:そうですね。
加藤:でも結果として、「ああ、心音ちゃんだ!」ってなってますもんね。
みあ:よかったです!