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第8話 「日帰り旅、再び。」

★再び仕事で上京する新幹線の中。椹野先生の「定番」を語ってくれました

鬼瓦椹野先生は好きなもの食べ続けるという。例えばイギリスのルーティン、ちょっと教えていただいてもいいですか?
椹野:イギリスのルーティンは、ずっと昼ご飯がハムサンドです。同じパン屋のハムサンドを食べ続け……。
鬼瓦:オレンジジュースですよね?
椹野:オレンジジュースも同じスーパーのオレンジジュースを飲み続けて。
鬼瓦:航さんはあります、こういうの? とにかくルーティン、とか(笑)。
中村:それはでも、わかりますよね。とにかく同じことをすることが……快感なんですかねえ?
椹野:安心感なのか……。なんかね、冒険して外すの嫌なんですよ。
                     *  *  *
中村:……あ、ひとつだけあったなあ。
鬼瓦:なんですか? なに?
中村:ひとつだけ、めちゃめちゃ続いたのは、サラリーマンやってるときに、毎日、昼はカレーライスだったんですよ。
鬼瓦:マツコ(・デラックス)の、アレ(『マツコの知らない世界』)に出そうですね(笑)。
椹野:ねえ。「年間何百食カレーを食った男」
鬼瓦:こだわりはあるんですか?
中村:社食のために並ぶ、ってのがとにかく絶対に嫌だったんです。カレーだけは、サッと買えたから。
鬼瓦:外で食べたんですか? でも、おいしかったんでしょう?
中村:そうなんですよ。あ、あとメニューも少しずつ変わってました。今日はインドカレーで今日はチキンカレーで、って。
鬼瓦:ああ、いいですね。それはいいかもしれない。
椹野:それはバリエーションですよね、ちゃんとね。
鬼瓦カレー愛、ですよね。
中村:それくらいかなあ。
鬼瓦:で、そこ(第8話)ではくら寿司……回転寿司ではくら寿司が大好きっていう話がありますが、ちょっと時間がないので、次……。
椹野飛ばされた!
中村:くら寿司、なんか原宿になんかすごい……。
鬼瓦:戻そうとしてる人がいる(笑)!
椹野:おしゃれなくら寿司?
中村:おもしろいくら寿司があるみたいですよ。
椹野:原宿かあ……。
鬼瓦CEOに連れてってもらいましょう

第10話 「ルーティンワーク。」

★幼少期の思い出。椹野先生曰く、「ワイルドだったころのニッポン」!

椹野:(中村先生に向かって)光化学スモッグってありました?
中村:光化学スモッグは、埼玉に引っ越してから、ときどき「光化学スモッグ注意報が出ております」っていう放送が、いきなり外のスピーカーからかかって驚きました。
椹野:そう。あれがでるとねえ、小学校のころは校庭に出てた子がみんな集められて。
中村:あ、そうなんですね!
椹野:「教室に入りなさーい!」って言って。ふだんはね、なんか「外で遊びなさーい!」って言われるのと逆になるのが、すごい楽しくて
中村:僕らの頃はなかったですけど、なんかちょっとすごい話ですね。
椹野:なんかちょっとね、昭和50年代くらいの日本って、ワイルドなとこありますよね。
鬼瓦:あれも、毛虫をやるから……「散布するから中に入れ」とか……。
椹野:そうそう、「農薬散布するから中に入れ」とか、ありましたありました。
鬼瓦:ありましたよね、農薬散布。
中村逆に近未来の話みたいですね。
椹野:いまコロナが流行っちゃったから、なんとなく親しめる話だけど、小学校で赤痢が流行ったことがあったんです。
中村:赤痢が流行った(笑)。
椹野:ビックリするでしょ? で、いま私がイギリスのこと「おい、イギリス」って言ってるんだけど、当時の日本もおんなじようなことしてたんですけど。昔の診療所にあるお医者さんが手を洗う、ホーロー引きの洗面器があるじゃないですか、あれにヒビテンっていうピンク色の消毒液を入れて、教室の入り口に置いておいて1日中みんな、47人がそこで手を洗い続けるんですよね。
中村:ええ~っ!?
椹野:夕方になったら、ドロッドロになるんですよ。それで衛生を守ろうとしてたっていう恐ろしい時代に、帰りに2本ヤクルトが配られて、「赤痢は腸にくるから、腸を強くしよう」って(笑)。
鬼瓦:それはうれしいですよね。
椹野:ヤクルトもらって帰るのがすっごいうれしかったですね。まあまあ、腸が鍛えられたかどうかは知らないですけどね。でもまあ、悪いもんじゃないから。

第11話 「ぐつぐつな話。」

★冬が深まり、寒さも厳しくなってきたら……鍋料理が恋しくなる話。

椹野:家のね、鍋は2種類しかないっていう。
鬼瓦:すき焼きと味噌。味噌鍋がこだわりがある。先生のところのすき焼きとかの鍋ってわりと……。
椹野:いや、うち関西なんで、しょうゆと砂糖で味をつけるっていうのが基本だったんですよ。それもあの、いちばん最初の肉って「犠牲肉」なんですよ。ビローンって焼いて、砂糖としょうゆをまとって、カリカリになっちゃう肉。
中村:犠牲肉って言うんですか、それ。
椹野:犠牲肉って言うんですよ。鍋をおいしくするために、1枚、身を挺する肉がいるんですけど(笑)。父はそれで一所懸命やってたんですけど、とにかく汚すので、「もう代わるわ」って言って。で、自分がやりはじめると、もう面倒くさいから割りした買ってきて作るようになったっていう。やっぱり割りしたですか?
中村:いや、昔はしょうゆと砂糖でやってましたね。岐阜なんですけど、僕。
椹野:じゃあちょっと西なのか。
中村:だから割りしたっていうものがあるんだって知ったのは、大人になってからですね。
椹野:私もです。浅草とか行って、『今半』とかですき焼き食べて、「ええっ、便利」って思って。
中村:福岡ですき焼き食べたことがあるんですけど、その店だけかもしれないですけど、湯呑みに入ってる砂糖をこうやって(鍋に入れる動作)。めまいがするくらい甘かったですよ。
鬼瓦:甘いんだ、でもやっぱり。
中村:砂糖をほんとに湯呑み分くらい使うから。
椹野:わかります。
中村:も、もう、いやんなるくらい甘いんですけど(笑)、でもおいしいんですよ。でも、おいしいんですよ!
鬼瓦:そうなんですね!
椹野:甘いものはおいしいんですよ。だってほら、名古屋の味噌ダレだって想像を絶するような砂糖入ってるじゃないですか。
中村:あ、そうなんですね!?
椹野:うん。「うーわぁーっ!」ってくらい入りますよ、あれ。甘いタレはおいしいんだと思って。
                     *  *  *
鬼瓦:あの、味噌鍋はどうなんですか? 白味噌ですか?
椹野:味噌鍋はね、基本合わせ味噌。でもそのへんにある味噌を適当に使うんです。
鬼瓦:なるほどなるほど。なにを入れるんですか?
椹野:豚肉と野菜。
鬼瓦:ああ、おいしいですよね。航さん、鍋は?
中村:いやまあでも、鍋は最強の調理法なんじゃないですか?
鬼瓦:そうですよね。いまはなにが、おすすめします?
中村:最近やらないですねえ。
鬼瓦:あ、やってないんですか? いまの時期めちゃくちゃ鍋じゃないですか。簡単だし。
椹野:ねえ。めちゃめちゃ鍋ヘビロテですよ(笑)。
中村:一時期、7、8人くらいの大学生に週に1回鍋を食べさせる、ってことしてた時期があって、あれはほんとに楽しかったですね。ホームセンターで「とにかく、いちばんでっかい鍋を買ってこい」って言って、相撲部屋で使うような、あの……。
椹野:アルマイトの鍋ですね。
中村:それで、ちゃんこ鍋を作るっていう。おもしろいですよ。量が多ければ多いほど、結局炊き出しみたいになっておもしろいんですよ。ガーッて切って、バーッて放り込んで(笑)。
椹野:闇鍋みたいに入れてるの(笑)。
中村:楽しかったですね、作るのが。
椹野:それは楽しそう。

第12話 「年越しの思い出。」

★年越し家族旅行は夢のハワイ! そこで少女時代の椹野先生を襲った悲劇とは!?

椹野:当時、やっぱり海外旅行がまだレアだったので……。
鬼瓦:すごいお金持ちですよね。
椹野:いや、だからもうね、両親にとっても宿願だったわけですよ、ハワイが。家族で「うぉーっ!!」って盛り上がって、行くのに予習をしまくって、パンナムエアっていう、昔あったアメリカの航空会社だったんですけど。機内食は「ビーフorチキン」。ビーフだったらステーキ、チキンだったらチキンのなにかが出てくる。絶対ビーフじゃないですか。ずっとこう、「ビーフ!」って言ってみたり、「あ、ビーフって言ったら失礼かな。ビーフ・プリーズか」って、練習をすごく、イメトレを……。
鬼瓦:小学校何年生くらい?
椹野:5年ですね。(練習を)してたのに、私の隣のおじさんでビーフ品切れたんです。で、CAさんがなにも聞いてくれずに、チキンをゴンッ! って置いて去られて
中村:え!? ひどいっすね。
椹野:私、それで絶望しすぎて、ハワイでず~っと体調崩してしまって(笑)。
中村:(笑)。
鬼瓦:(笑)。そのチキンがパサパサだったっていう悲しい思い出が……。
椹野:もぉ~パサパサなうえに、胸肉だったんでしょうね、胸肉を謎加熱してカレー味をつけてあったから、もうカールみたいな味がするんですよ。だからカールはおいしいですけど、あれが鶏肉になるとちょっと。あっちの人は胸肉のほうが高級なんですよ。イギリスもそうなんですけど。もも肉めっちゃ安いんですよ。
中村:へえ~!!
椹野:だから、胸肉がどっちかっていうと上品なんですよ。
中村:あ、そうなんですね。
椹野:っていう扱い。だからいいものを出してるつもりだったんだと思うんですけど。とりあえず悲しかったですね、あれは。
鬼瓦:すごくかわいそうで、ねえ。「当時から、先生はやっぱり、食べ物にこだわりがあるんだ」って思って。でも子供は、ねえ……しかも練習してたんですよね
椹野:すっごい練習しました(笑)。
鬼瓦:子供のころに食べて、いまも覚えてるとかって、なにか?
中村:んー、……ホットドッグをはじめて食べたときに、「こんなうまいものがあるのか!」って思いましたね。
鬼瓦:「毎日食べてもいい!」みたいなのがありましたよね。
椹野:ああ~、ホットドッグ(頭を抱える)!
鬼瓦:なに?
椹野:私ね、ホットドッグはじめて食べたの大阪城だったんですよ。大阪城にホットドッグの屋台があって。ふだん屋台ダメだったんですけど、(そのとき)母がいなくて父だけだったので、買ってくれたんですよ。「やったー!」って思って食べようとした瞬間に、ハトにソーセージだけヒューッて奪われて
鬼瓦中村:(爆笑)。
椹野:で、ヒューッて奪われてソーセージだけシューッて抜けて、足もとにポローンて落ちたんですよ。で、落ちたソーセージを、マンガみたいにハト2羽が並んで、コロンコロンコロンコロンッてつつきながらブォーッて転がしていって(笑)。
鬼瓦:残ったの、パンじゃん。パンだけ。
椹野:そう、それを茫然と見守るっていう(笑)。
鬼瓦:なんで椹野先生っておもしろいんでしょうね(笑)。持ってるよねえ。
椹野:大阪のホットドッグは、キャベツがカレー炒めなんですよ。カレー味なんですよ。
中村:またカレー味!
椹野:だからカレー味のキャベツを挟んだパンを食べたっていうのが、私の初ホットドッグです。なんかちょっと、ソーセージの残り香みたいなのを嗅ぎながら。
鬼瓦:悲しい(笑)。
椹野:だって拾おうにも、もう穴だらけなわけですよ。ハトがつつきまわして(笑)。

第13話 「お雑煮の話。」

★新年最初は「お雑煮」の話。椹野家(仮)のお雑煮は父方・母方の2種類があって……?

椹野:母方はね、トラディショナルに西のほうの、大根とニンジンだけで白味噌のヤツで。それはすごくシンプルで大好きなんだけど。
鬼瓦:白味噌は、味つけはどんな感じですか。結構ポピュラーなんですか?
椹野:いやもう、白味噌を親の仇みたいに入れるんです。ふつうに出汁取って、そこに白味噌をドンドコドンドコと。
中村:味噌汁にもち入れる、みたいなことですよね?
椹野:まあ、そうです。
鬼瓦:うちは、味噌汁に入れてましたけど。鹿児島なんですけど。
椹野:でもねえ、あの、味噌汁なんだけど、パネェ濃度なんですよ。味噌ポタ、くらいの勢いで。黙って出されたらカリフラワーのポタージュかなにかかと思うくらいの濃度で味噌を溶くんですよ。
鬼瓦:でも甘いからおいしいんですよね。
椹野:おいしいの。
鬼瓦:逆におすましが、ちくわが入ってシンプルなんですよね?
椹野:そうなんですよ。父方のおすましは、我々は「貧乏雑煮」って呼んでたんですけど。
鬼瓦:ひどい(笑)。
椹野:ちくわを輪切りにしたものと水菜だけがヒョ~ンって入ってる、すごくストイックな。
鬼瓦:あの、鯛で出汁を取るって。
椹野:そうなんです。本当はね、「米正月」って言って……。
中村:米正月?
椹野:そういうお魚を、「睨み鯛」とかのね、お魚を食べ続けて食べ続けて食べ続けて、最後に骨だけになるのが1月20日くらいっていう。その骨でお出汁を取って、みたいな文化が西のほうにあるんですけど。でもうちの家はそれを待たずに、元日に解体してしまって。しかも父方は医者の家系なんで、みんなむちゃくちゃムキになるんですよ。そういうね、解体方面。だからすごいきれいに洗いになったヤツでお出汁取って、おすましにするわけです。

                     *  *  *
椹野:おもちはねえ、だっておいしいヤツ買いたいじゃないですか。あのねえ、山形県に「女鶴(めづる)もち」っていうおもちがあるんですよ。ちょっと珍しいもち米を使ってて。それを年に1回だけ売り出すので。12月くらいに予約をはじめるときにうわーっと予約をするんです。
鬼瓦:人気なんですね。
椹野:うん。もうひとつ、単純に、京都の、私が大昔に住んでいた辺りに、和菓子屋さんが作るもちがあって大好きで。
鬼瓦:と、まあ、エッセイ読んだらおわかりになると思うんですけど、やっぱり食に対して貪欲な方だと……。
中村:貪欲ですねえ、はい。でもルーティンで同じもの食べるっていうのも好きなんですよねえ?
椹野:好きです!(大きく頷く)食パンとか、ず~っとダブルソフトを食べていて。もう、イギリスにいたときいちばん恋しかったのはダブルソフトだったので(笑)。
鬼瓦:ああ。安定のおいしさですよね、ダブルソフトは。大発見です。
椹野縦に裂けるのがいいんですよ。

■【PART5】(7月更新予定)につづく

鼎談の模様はこちら:【特別企画】椹野道流・中村航・鬼瓦レッドが鼎談!『晴耕雨読に猫とめし』を語ります!

★椹野道流さんの最新作、大好評発売中!!

椹野道流(ふしの・みちる)プロフィール

兵庫県生まれ。1996年、『人買奇談』で講談社の「第3回ホワイトハート大賞」のエンタテインメント小説部門で佳作を受賞し、翌年1997年に同作品でデビュー。同作に始まる「奇談」シリーズは、人気を集めロングシリーズとなった。1999年に『暁天の星 鬼籍通覧』でスタートした「鬼籍通覧」シリーズや、2005年にスタートした「貴族探偵エドワード」シリーズなど、多くのロングセラーを持ち、魅力的なキャラクター描写で読者の支持を集めている。2014年にスタートした、料理がテーマの青春小説でファンタジックストーリーが魅力の「最後の晩ごはん」シリーズは、芦屋市が主な舞台の人気作品。2017年にはシリーズ累計発行部数60万部を突破し、2018年にドラマ化もされた。近著に『ハケン飯友 僕と猫の、食べて喋って笑う日々』『モンスターと食卓を 3』など。また小説家として活躍する一方で、医師としても活動し、医療系専門学校で教鞭も取っている。
Twitter: https://twitter.com/MichiruF
ステキブンゲイ連載『晴耕雨読に猫とめし』(毎週水曜更新)

鬼瓦レッド(おにがわら・れっど)プロフィール

東京・明正堂書店上野店(アトレ上野内)に勤務するカリスマ書店員。明正堂書店のYouTubeチャンネルではお薦めの小説情報を語る「吼えろ!鬼瓦道場」の配信も行なっており、同番組は不定期で「ナニヨモ」にも再録されている。
明正堂書店HP:https://www.meishodo.co.jp/
明正堂書店YouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/channel/UCSZgp6MBq44xP-zR03fxPrQ
Twitter(明正堂書店アトレ上野@お知らせアカウント):https://twitter.com/K92style

中村航(なかむら・こう)プロフィール

1969年生まれ。2002年『リレキショ』にて「第39回文藝賞」を受賞し小説家デビュー。続く『夏休み』『ぐるぐるまわるすべり台』は芥川賞候補となる。ベストセラーとなった『100回泣くこと』ほか、『デビクロくんの恋と魔法』『トリガール!』など、映像化作品多数。アプリゲームがユーザー数全世界2000万人を突破したメディアミックスプロジェクト『BanG Dream! バンドリ!』のストーリー原案・作詞など、小説作品以外も幅広く手掛けている。近著に『広告の会社、作りました』など。小説投稿サイト「ステキブンゲイ」において、自らの半生をモチーフにした『SING OUT LOUD!』を連載中。
中村航公式サイト:https://www.nakamurakou.com/
Twitter:https://twitter.com/nkkou
ステキブンゲイ連載『SING OUT LOUD!』(毎週土曜更新)

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