2021年本屋大賞を受賞した『52ヘルツのクジラたち』は、大きな話題となりました。そして、受賞後第一作目となる『星を掬う』が10月18日に発売されました。
本作を待ち望んでいた読者の方も多いと思います。著者の町田そのこさんに、本作を書かれたきっかけや、執筆中のエピソードをお聞きしました。
『52ヘルツのクジラたち』のあと、もし続編を書くとしたら
『星を掬う』について、これから読む方に向けて内容をお教えください。
理由も告げずに小学校一年生の娘を捨てて行った母と、母に捨てられたという意識のせいで自分自身の存在価値を下げて生きてきた娘の物語です。
正しい母の姿とは、愛される素晴らしい娘の姿とは何か、ということを考えながら書きました。
今回、このような物語を描こうとされたきっかけを教えていただけますでしょうか。また、『星を掬う』という印象的なタイトルについてもお聞かせください。
『52ヘルツのクジラたち』のあと、もし続編を書くとしたら愛くんの母琴美視点だな、と考えたのがきっかけです。
虐待する親にも、その人なりの理由があるに違いない。では、自分勝手なことをして子どもを捨てた母親がいたらどんな理由があるだろう? そんな風に考えを繋げていき、書いてみようと思い至りました。
星を掬うというタイトルは、認知症のかたの見る世界を自分なりに想像し、混沌とした脳内から記憶を掬い上げるイメージを持ったからです。
何度も修正を繰り返してブラッシュアップ
執筆にあたって苦労したところや、執筆時のエピソードがございましたらお聞かせください。
本作は本屋大賞受賞前に一度書き上げていましたが、落ち着いて改めて読み直したら「本屋大賞受賞後第一作目としてあまりに雑だ」と愕然としました。
たくさんの評価を受けた上にノミネートなどで話題になったことで、筆がふわふわしていたんだと思います。もっともっと書けるはずだ、と冒頭と最終章以外は全部書き直しました。
そのせいで、当初の設定から何もかも変わってしまった(名前も)登場人物がいます。
書き直したうえでも何度も修正を繰り返してブラッシュアップしていったので、自分では「物語をつくりあげていく」ことに対してすごくいい経験ができたなと思っています。
他に、どのような方にオススメの作品でしょうか? また、今回の作品の読みどころをお教えください。
特にこういう方に! というものはありません、笑。
読みどころと言っていいのか分かりませんが、いまの自分の実力で書けるものを書ききれた気持ちでいます。
リズムを崩さないため細かなプロットは立てない
小説を書くうえで、ご自身にとっていちばん大切にされていることや、こだわりをお教えください。
拘りは、冒頭の一行にインパクトを持たせることです。
「どういうことだ?」と読者の方が首を傾げてくれれば、それだけ物語の中にぐっと引き込めたということだと思っています。
あとは、書いているリズムをあまり崩したくないので細かなプロットは立てていません。あまりしっかり書いてしまうとそれを「枠」に感じて筆が重くなるような気がします。
最後に読者に向けて、メッセージをお願いします。
家族との大切な星を思い出したり分け合ってみたり、というきっかけになれば嬉しいです。
『52ヘルツのクジラたち』は、虐待を受けていた主人公が、母親から虐待を受けている少年を救おうとするストーリーでした。本作は、その少年の母親の視点から、”虐待する親にも、その人なりの理由があるに違いない”と、考えをつなげて書かれたとのこと。
すでに一度書き上げていた作品を大幅に書き直し、ブラッシュアップして書き上げられ、”いまの自分の実力で書けるものを書ききれた”と、大変な力作です。深刻なテーマ、しっかり読ませていただきます。
Q:最近、嬉しかったこと、と言えばなんでしょうか?
初めてプルーフを作成してもらったことです。
Q:ご自身は、どんな小説家だと思われますか?
煮物みたいな、派手ではないけど食卓(本棚)にあると嬉しい、という作家を目指していますが、そうなっている気はしていません。もっと煮ていきます。
Q:おすすめの本を教えてください!
氷室冴子さん『いっぱしの女』他著作すべて
寺地はるなさん『ガラスの海を渡る舟』
千早茜さん『ひきなみ』
ここ最近読んで面白かった作品にしました。
氷室さんはもう絶対外せないので…。
町田そのこさん最新作『星を掬う』
発売:2021年10月18日 価格:1,760円(税込)
著者プロフィール
町田そのこ(まちだ そのこ)
1980年生まれ。福岡県在住。
「カメルーンの青い魚」で、第十五回「女による女のためのR-18文学賞」大賞を受賞。2017年に同作を含む『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』でデビュー。『52ヘルツのクジラたち』で2021年本屋大賞を受賞。
他の著作に『ぎょらん』『コンビニ兄弟―テンダネス門司港こがね村店―』(新潮社)、『うつくしが丘の不幸の家』(東京創元社)がある。