新人介護支援専門員(ケアマネジャー)・青井桃花(あおいももか)の奮闘を描いたいぬじゅんさんの『ケアマネ!』。執筆活動と並行して実際にケアマネとして介護の現場に立ち続けているいぬじゅんさんだからこそ描ける、リアリティーのある問題提起と本来人が持っている温かさやユーモアとのバランスが絶妙な作品として注目を集めました。

その半年ぶりとなる続編『ケアマネ!2』が先月発売されました。作中でも半年の時間が経ち、悪戦苦闘しながらもケアマネとして着実に成長する桃花。その彼女の前に、本作では大きな壁が立ち塞がります。

5月には『ケアマネ!2』の発売を記念して、いぬじゅんさんの作家デビュー12周年を記念したイベントも行われました。そのイベントの模様も合わせて、いぬじゅんさんのインタビューをお届けします!

単に「問題が起きて解決する」という形ではなく、その人の人生や思いが少しでも見えるエピソードにしたい

――シリーズ最新刊となる『ケアマネ!2』について、これから読む方へ、どのような作品かをお教えいただけますでしょうか。

『ケアマネ!』シリーズは、介護の仕事のひとつであるケアマネジャーにスポットを当てた作品です。
主人公である桃花はケアマネジャーとして、高齢者や家族、それぞれの事情や悩みに向き合っていきます。
介護というと、どうしても「大変」「つらい」というイメージを持たれがちですが、この作品ではそれだけではなく、現場にある温かさやユーモア、人と人とのつながりも大切に描いています。
深刻な場面の中でも、ふっと笑えたり、誰かの言葉に救われたりする瞬間って、実際の現場にもあるんです。
前作『ケアマネ!』では、桃花がケアマネジャーとして成長していく姿を中心に描きました。
続編となる今回の『ケアマネ!2』では、利用者さん本人だけではなく、その家族、介護職、医療職など、さまざまな立場の人たちの思いが交差していく作品になっています。

――前作から半年を経ての第2作となりますが、続編として描くうえで意識したことはなにかありますか?

作中でも半年という時間が経ち、桃花自身もケアマネジャーとして少しずつ経験を積んでいます。
前作では、目の前の出来事に必死で向き合っていた桃花が、今回は少し周囲を見る余裕を持ち始めています。
利用者さん本人だけではなく、家族の気持ちや、ほかの職種の立場まで考えようとする場面も増えました。
ケアマネとして考える範囲が広がったのは、彼女の成長した部分だと思います。
ただ、その一方で、あまり急激に成長させすぎないことも意識しました。
介護の仕事は、半年で何でもできるようになる世界ではありませんし、むしろ経験を積むほど「正解のない難しさ」に気づいていく仕事だと思っています。
だから桃花も、前作と同じように悩みますし、迷いますし、ときには感情的にもなります。
それでも逃げずに向き合おうとする。その“未完成さ”は変えないようにしました。

――前作同様、利用者一人ひとりと桃花の交流を描くエピソードを積み重ねて物語が進行していますが、エピソードを考えるときに気をつけている点はなにかありますでしょうか

エピソードを考えるときに一番意識しているのは、「その人にも人生がある」ということです。
介護の現場では、どうしても“支援が必要な高齢者”として見られがちですが、利用者さん一人ひとりに、その人だけの歴史や性格、価値観があります。
若い頃どんな仕事をしていたのか。どんな家族関係の中で生きてきたのか。何を大切にしてきたのか。
そういう背景があるからこそ、今の言葉や行動につながっていると思うんです。
なので、単に「問題が起きて解決する」という形ではなく、その人の人生や思いが少しでも見えるエピソードにしたい、ということは常に意識しています。
また、大きな問題を解決したとしても、その人の人生はその先も続いていきます。
だから物語も、完全なハッピーエンドというより、これから先に少し希望が見えるような終わり方を大切にしています。
そして、介護の現場を必要以上に美化しすぎないことも気をつけています。
現実には、きれいごとだけでは済まない場面もありますし、支える側も疲れたり、悩んだりします。
でもその一方で、大変さの中にも笑いがあったり、何気ない会話に救われたりする瞬間も確かにあります。
そうした“現場の温度”を、できるだけ自然に描きたいと思っています。

実際の現場には、もっと複雑で、もっと厳しいケースもたくさんありますから、「きれいに描きすぎていると思われないだろうか」という不安はありました

――今回、作中で桃花は所属する社会福祉法人の存続の危機という大きな試練を迎えます。ケアマネになってまだ半年で、ようやく日々の業務に慣れはじめた時期の桃花に、別の方向からのピンチを与えた意図はどのようなものだったのでしょうか。

前作では利用者さん個人との関わりが中心でしたが、『ケアマネ!2』では、介護現場を支える“組織”や“働く人たち”にもスポットを当てたいと思いました。
実際、介護業界では経営が厳しい事業所も少なくありません。
人手不足でワンフロアを閉鎖している特別養護老人ホームもありますし、赤字が続いた末に閉鎖してしまう事業所もあります。
介護というと、「利用者さんをどう支えるか」に目が向きやすいですが、その支援を続けるためには、現場で働く人たちや法人そのものが成り立っていなければいけません。
利用者さんを支える側にも、それぞれ問題や課題があるんです。
そこで今回は、法人自体が存続の危機に陥る状況を描くことで、「それぞれの立場にとっての正しさ」を描きたいと思いました。
利用者さんを第一に考えたい職員。現場を守りたい管理者。経営を維持しなければならない法人。
立場が違えば、同じ“介護を守りたい”という思いでも、選択や考え方が変わってきます。
そんな中で、桃花や同僚たちが何を考え、どんな行動を選ぶのかを描きました。

――この『ケアマネ!』シリーズで、ご自身のもうひとつの仕事である「介護」の世界をはじめて小説として描いているわけですが、ファンのみなさんや周囲の方々からはどのような反響がありましたか? 特にケアマネのお仕事で接している方々からはなにか反応はありましたか?

以前から「いつか介護の世界を小説として描きたい」と話していたので、ファンの方々からは「ついに夢が叶ったんですね」と言っていただけることが多く、とても嬉しかったです。
また、「介護」というテーマに対して、もっと重くて難しい作品を想像していた方も多かったみたいで、「読みやすかった」「温かい気持ちになった」という感想をいただけたのは印象に残っています。
一方、一番反応が気になっていたのは、介護の仕事をしている方たちでした。
私自身、現場で働いているからこそ、「現実と違う」と思われる怖さもありましたし、特に主人公の桃花は新人ケアマネなので、作中に登場するケースも比較的シンプルなものが多いんです。
実際の現場には、もっと複雑で、もっと厳しいケースもたくさんありますから、「きれいに描きすぎていると思われないだろうか」という不安はありました。
でも実際には、「新人時代を思い出した」「こういう利用者さんいるよね」と言ってくださる方も多く、介護職やケアマネの方々に共感していただけたのは本当に嬉しかったです。
また、介護の仕事をしていない読者の方から、「介護職の見方が変わった」「こんなふうに悩みながら働いているんですね」という感想をいただけたのも、この作品を書いてよかったと思えた部分でした。

読者の方々はもちろん、編集者さん、書店員さん、作品に関わってくださったみなさんとの出会いが、自分の世界を広げてくれたと思っています

――『ケアマネ!2』の発売にあわせて、2か所で「小説家デビュー12周年」の記念イベントも行われました。デビュー12周年と考えたときの、率直な感慨をお聞かせください。
実際、デビューされたときには10年以上も執筆活動を続けることは考えていましたか?

イベントには中村航先生も参加し、軽妙なトークで会場をわかせました。

介護の仕事をしながら、ある日突然小説家になった、という感覚なんです。
デビューした当時は、正直に言うと「1作で終わるだろうな」と思っていました。
まさか10年上も執筆を続けているとは想像していなかったですし、気づけば刊行作品が70作を超えていた、というのが実際のところです。
新刊が出るたびに感想やお手紙をくださる皆さんの言葉に何度も背中を押してもらいました。
そして、執筆を通して、本当にたくさんの人と出会わせてもらいました。
読者の方々はもちろん、編集者さん、書店員さん、作品に関わってくださったみなさんとの出会いが、自分の世界を広げてくれたと思っています。
今回、『ケアマネ!2』の発売にあわせて12周年のイベントを開いていただけたことも、すごくありがたいことでした。
デビュー当時の自分に、「12年後も書いてるよ」と言っても、たぶん信じないと思います(笑)。

ラジオパーソナリティとしてもおなじみのミュージシャン、バカボン鬼塚さんもゲスト参加。ミニライブも行われました

――イベントで印象に残ったことはなにかありますか?

今回のイベントでは、本当にたくさんのご縁を感じました。
主催してくださった書店さんや商業施設のみなさん、登壇してくださったゲストのみなさん、そして会場に足を運んでくださった観覧のみなさん――多くの方に支えられて、この場ができているんだなと改めて実感しました。
観覧に来てくださった方々も、本当に幅広かったんです。
小説のファンの方はもちろん、ラジオをきっかけに知ってくださった方、同じ医療・介護の現場で働く仲間も来てくれていました。
それぞれ違う場所で出会った人たちが、ひとつの会場に集まってくださっている光景が、なんだか不思議で……。
私には、本名で働いている介護職としての顔と、“いぬじゅん”という作家としての顔があります。
その両方を応援してくださる人たちに囲まれていることに、何度も泣きそうになりました。

いぬじゅんさんの小説家デビュー12周年を記念して、5月10日にイオンモール川口(未来屋書店川口店)と5月17日にイオンモール浜松市野(未来屋書店浜松市野店)の2か所で開催されたイベント。『ケアマネ!2』に加え、CD『オソハル/きみの声が聴きたい』のリリースイベントも兼ねていて、ミニライブも行われ、大盛りあがりとなりました。

小説を書くことは、自分にとって「誰かの人生を想像すること」でもあります

――小説家としてもコンスタントに作品を発表し、ケアマネとしては本書でもでわかる通り業務としての忙しさに加え様々な形での気配りが必要なのだと思います。その両立を12年間続けてこられたモチベーションはどんなもの・ことなのでしょうか。

介護の仕事も、小説家という仕事も、どちらも大人になってから生まれた夢でした。
だから自分の中では、「どちらかを選ぶ」という感覚があまりなくて、両方とも大切な人生の一部なんです。
もちろん、実際には大変なことも多いです。ケアマネの仕事は日々いろいろな対応がありますし、小説も締切があります。
でも、「やめたい」と思ったことがないのは、どちらも100%楽しめているからだと思います。
介護の仕事をしているからこそ、人の感情や人生に触れることができて、それが小説を書く力にもなっています。
逆に、小説を書いていることで、「この人はどんな思いなんだろう」と相手の背景を考える視点が、仕事にも生きている気がします。
そうやって、自分の中ではふたつの仕事が別々ではなく、どこかでつながっている感覚があります。
そして今でも、ケアマネとしてもっと成長したいと思っていますし、小説家としても、まだまだ描きたい物語があります。
たぶん、自分は欲張りなんでしょうね(笑)。
でも、その「もっとやりたい」という気持ちが、12年間続けてこられた一番のモチベーションなのかもしれません。

――両立を続ける「自分へのご褒美」はなにかありますか?

自分へのご褒美という意味では、やっぱり海外旅行ですね。
周りからは「ずっと忙しそう」と言われることも多いんですが、ある日突然ふらっと旅に出ることがあります(笑)。
ただ、観光地をたくさん回るタイプではなくて、どちらかというと“こもる旅”なんです。
トランクに小説をたくさん詰め込んで、現地ではカフェやホテルでひたすら本を読んで過ごしたりしています。
普段はどうしても、仕事でも執筆でもアウトプットを続けている感覚があるので、旅先では意識的に吸収する時間を作るようにしています。
日本を離れて、知らない街の空気の中で本を読むと、不思議と頭の中が整理されるんですよね。そこで出会った景色や会話が、あとから作品に影響していることもあります。
なので、自分にとって旅は休みというより、次に進むための充電に近いのかもしれません。
そして、いつか本当に引退する日が来たら、バックパックひとつ背負って、世界をゆっくり旅してみたいと思っています。
締切を気にせず、「今日はどこの街で本を読もうかな」と考えながら過ごせたら、すごく幸せだろうなと思います。

――最後に、読者へのメッセージをお願いいたします。

ここまで『ケアマネ!』シリーズを読んでくださったみなさん、本当にありがとうございます。
介護というテーマは、決して派手な世界ではありません。
むしろ、日常の積み重ねの中にある仕事だと思っています。
でもだからこそ、人の優しさや弱さ、生き方がすごく見える世界でもあります。
『ケアマネ!』シリーズでは、そんな現場の空気や、人と人とのつながりを、小説として少しでも届けられたらと思いながら書いています。
振り返れば、デビューしてから12年、本当にたくさんの方に支えていただきました。
小説を書くことは、自分にとって「誰かの人生を想像すること」でもあります。これからも、誰かにそっと寄り添えるような物語や、読後に少し前を向けるような作品を書いていきたいと思っています。
どこかで私に会う時があれば、あなたの人生の物語を聞かせてください。


シリーズ最新作『ケアマネ!2』

『ケアマネ!2』(いぬじゅん) ステキブックス
 発売:2026年05月11日 価格:1,500円(税込)
『ケアマネ!』(いぬじゅん) ステキブックス
 発売:2025年11月11日 価格:1,500円(税込)

著者プロフィール

いぬじゅん

奈良県出身、静岡県在住。2014年に「第8回日本ケータイ小説大賞」大賞受賞作『いつか、眠りにつく日』でデビュー。2015年には『北上症候群』で「第1回ソングノベルズ大賞『DREAMS COME TRUE編』 」入賞。また2019年に『この冬、いなくなる君へ』で第8回の、2022年には『この恋が、かなうなら』で第10回の「静岡書店大賞 映像化したい部門」大賞を受賞している。近著に『今夜、きみの声が聴こえる〜この雨が止む前に〜』『夜明け食堂 四季を行く人』『猫のにゃ温泉〜復讐屋はじめました〜』などがあるほか、7月には『プラネタリウムの約束(仮)』も刊行予定。執筆活動と並行して主任介護支援専門員としての業務にも従事している。

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