主人公。青井桃花(あおいももか)は二十六歳の新人介護支援専門員(ケアマネジャー)。多様な福祉サービスを展開し、近隣から「福祉村」と呼ばれている社会福祉法人・敬齢会で、約六年半の実務経験を積み資格を取得して、いよいよケアマネジャーとしての勤務がはじまる! 意気揚々と勤務初日を迎えたものの、冷徹な女性理事長からは水を差され、クセ者揃いの同僚たちには翻弄され、初めての利用者訪問では自分の未熟さを痛感させられ――。

新人ケアマネジャーの奮闘を描く最新作『ケアマネ!』を発売したばかりのいぬじゅんさん。いぬじゅんさんといえば、せつない恋愛小説で高い人気を誇る作家ですが、作家であると同時に介護の現場をその目で見続けてきた現役のケアマネジャーでもあります。

ご自身の経験から生まれた、「介護福祉」をテーマとした初めて作品を発表したいぬじゅんさんにお話を伺ってみました。

ケアマネジャーは、介護を必要とする方とそのご家族にとって、案内役であり、心の通訳者でもあり、時には静かに寄り添う伴走者でもあります

――今回の『ケアマネ!』について、これから読む方へ、どのような作品かをお教えいただけますでしょうか。

『ケアマネ!』は、介護の現場で働くケアマネジャー(介護支援専門員)という職業に光をあてた、やさしくて力強い物語です。

ケアマネジャーは、介護を必要とする方とそのご家族にとって、案内役であり、心の通訳者でもあり、時には静かに寄り添う伴走者でもあります。

新人ケアマネである青井桃花の奮闘ぶりをご覧いただくことで、普段は“ちょっと遠い存在”である介護を、身近に感じてもらえたらうれしいです。

――いぬじゅんさんご自身がケアマネジャーとしてお仕事をされている経験の中から生まれた初めての作品だと思いますが、いまそれをテーマとした小説を書こうと思われたきっかけはなんだったのでしょうか。

ケアマネジャーとして働く日々の中で、ふと「この仕事の美しさは、誰にも見えないところにあるのかもしれない」と思う瞬間がありました。

たとえば、誰かの暮らしにそっと寄り添う時間。制度の隙間を埋めるように、言葉にならない不安を受け止める場面。

そうした“静かな出来事”が、私の中で少しずつ積もっていって、「これは物語として残しておきたい」と思ったのがきっかけです。

――それではこの『ケアマネ!』という作品自体が生まれたのはどんなきっかけだったのでしょうか。

介護の世界にいると、様々な方との出会いがあり、そして別れがあります。

それは利用者だけでなく、家族や近隣の方、スタッフにも言えることでしょう。

登場するすべてのキャラクターに、これまで出会った人たちを投影しました。

桃花のキャラクターは、遠い日の私かもしれません。

いつかは誰かのために、あるいは自分自身のために、必要になるかもしれない。まず“気軽に読んでみる”ところからはじめていただけたらうれしいです

――ご執筆にあたって、苦労されたことや、当初の構想から変わった部分など、作品制作時のエピソードをお聞かせください。

一番苦労したのは、「現場のリアル」を描きながらも、読者にとって“やさしく読める物語”にすることでした。

書きながら何度も立ち止まり、「この言葉は、初めて介護の世界に触れる人にも届くだろうか」「重すぎる話になっていないだろうか」と自分に問いかける時間が、いちばん長かったかもしれません。

――本作は、特にどのような方にオススメの作品でしょうか? 読みどころなども含めて教えてください。

「介護」と聞くと、少し身構えてしまう方も多いかもしれません。

でも、いつかは誰かのために、あるいは自分自身のために、必要になるかもしれない。

まず“気軽に読んでみる”ところからはじめていただけたらうれしいです。

きっと、あなたの中にも“ケアする力”があることに気づけるはずです。

――学生時代に福祉のお仕事を志したと伺ったのですが、そのきっかけはどのようなことだったのでしょうか。小説家としてデビューしてからも、精力的な執筆活動と並行して介護・福祉のお仕事を続けられ、講演活動なども積極的に行われていますが、それを両立させているモチベーションや、ご苦労などをお聞かせください。

大学四年生のとき、知り合いに頼まれて「傾聴ボランティア」に参加し、初めて特別養護老人ホームを訪れました。

そこで過ごした時間が、あまりにも楽しくて、愛おしくて――「こんなふうに人と関われる仕事があるんだ」と、心が震えたのを覚えています。

内定していた会社を辞退し、その施設で働きはじめたのが、福祉の道のはじまりでした。

小説を書くことも、介護の仕事も、根っこは同じだと思っています。どちらも「誰かの人生に耳を澄ませること」。講演活動も含めて、すべてが“語り合い”の延長線上にあるような感覚です。

両立は、正直に言えば簡単ではありません。

時間のやりくりに悩むこともありますし、心が追いつかない日もあります。

それでも、読者や現場の方々、同僚から届く応援の声が力となっています。

今後も、現場で働きながら、誰かの暮らしにそっと寄り添える物語を紡いでいきたいと思っています

――小説を書くうえで、ご自身にとっていちばん大切にしていることや拘っていることをお教えください。

どんな作品を描く場合も、難しい言葉や言い回しは避けるようにしています。

サラサラと読めるけれど、読後は心の温度が一度上がるような作品を書きたいと思っています。

読み終えたあと、ほんの少しだけ、誰かにやさしくしたくなるような――そんな余韻を残せたら、書き手としてこれ以上の幸せはありません。

――最後に読者に向けて、メッセージをお願いします。

『ケアマネ!』は、介護の現場で出会った、静かな奇跡を物語にした一冊です。

介護がまだ遠く感じる方にも、気軽に読んでいただけたらうれしいです。

今後も、現場で働きながら、誰かの暮らしにそっと寄り添える物語を紡いでいきたいと思っています。

ページをめくるたび、心にやさしい風が吹きますように。

Q:最近、嬉しかったこと、と言えばなんでしょうか?

海外旅行に行き、現地の書店を訪れたところ、自著の外国語版が並んでいたことです。あまりにうれしくてその場で小躍りしてしまいました。

Q:ご自身はどんな小説家だと思われますか?

正直、自分が「小説家です」と胸を張れるほど、才能やスキルはないと思っています。

介護の世界で生きてきた私に、突然違う道が開かれた。だったら、この道の風景を楽しんでみよう。

小説家の道を見学しているような気持ちでいます。

Q:おすすめの本を教えてください!

■『殺しの双曲線西村京太郎(講談社)

1970年代に刊行されたとは思えないほど、緻密に計算された極上のミステリー。何度読んだかわかりません! 最後はきっと驚くはず!

『地球の歩き方「静岡」2026~2027地球の歩き方編集室(Gakken)

最近刊行されたガイドブックですが、住んでいる私から見ても、かなりの細かさ。ぜひお読みいただき、静岡県を訪れてほしいです。

■『ダチョウはアホだが役に立つ』塚本康浩(幻冬舎)

ダチョウは自分の家族のことも忘れてしまうと聞き、手に取った一冊です。普段は知ることのなかったダチョウのすごさについて学ぶことができました。


いぬじゅんさん最新作『ケアマネ!』

『ケアマネ!』(いぬじゅん) ステキブックス
 発売:2025年11月11日 価格:1,500円(税込)

著者プロフィール

いぬじゅん

奈良県出身、静岡県在住。2014年に「第8回日本ケータイ小説大賞」大賞受賞作『いつか、眠りにつく日』でデビュー。2015年には『北上症候群』で「第1回ソングノベルズ大賞『DREAMS COME TRUE編』 」入賞。また2019年に『この冬、いなくなる君へ』で第8回の、2022年には『この恋が、かなうなら』で第10回の「静岡書店大賞 映像化したい部門」大賞を受賞している。近著に『道の果て、朝はまた来る』『世界の終わり、君と誓った3つの約束』『今夜、君が眠りに落ちるまで』などがある。執筆活動と並行して主任介護支援専門員としての業務にも従事している。

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