深夜。公募コンテスト用の二次創作小説を仕上げ、投稿を済ませたアラサー女性のトワ(ハンドルネーム)。脱稿の高揚感と使命を果たしたような達成感でまさにハイの極みにいたトワに一気に水を差したのは、投稿作一覧の中に見つけた、二次創作の常識を無視したような、掟破りの投稿作の存在だった! ハイのエネルギーをそのまま転化させて荒れ狂うトワ。そのとき、トワの耳に言葉が届く――「力が、欲しいか?」、と。

ソーシャルゲームの世界に召喚され、それが架空の世界ではなく、自分が楽しんでいたソシャゲこそがその世界を再現したものだった。そんなユニークな設定で、世界の異変の解決という困難と実存となった推しキャラたちに囲まれることの喜びに挟まれ四苦八苦するヒロインを描き、「第二回ラノベストリート大賞」大賞を受賞した『同人女の異世界召喚』。本年6月の受賞から、早くも書籍化された本作について、著者・裏山かぼすさんにお話を伺ってみました。

「これはネタにするしかねえ!」と要素を盛り込んだ結果、今の「同人女の異世界召喚」が誕生しました

――今回の『同人女の異世界召喚』について、これから読む方へ、どのような作品かをお教えいただけますでしょうか。

タイトル通り、同人誌を作るタイプのオタク女が沼ってるジャンルの世界に召喚され、推しの原液供給に七転八倒し、異世界や界隈のトラブルに巻き込まれては七転八倒する話です。

オタクの酸いも甘いも噛み分け……られはせずとも、飲み下そうとして苦しみ、それでもオタクであることをやめられない性を主軸に据え、ありきたりな異世界ジャンルでありきたりじゃない特徴で、ちょっぴりありきたりなファンタジー作品に仕上げました。

――この作品が生まれたのはどんなきっかけだったのでしょうか。

詳細は伏せますが、実は本作のプロローグ部分に近い事が実際にありまして、その時感じたありとあらゆる感情を鍋にぶち込み蓋をしてコトコト煮込んだ結果、「同人女の異世界召喚」の原型が生まれました。

ヒロインのルイは元々「pixivファンタジア」という企画に参加しようと思って作ったキャラクターだったのですが、自分の考える最高に可愛い女の子に仕上げたものの、多忙だったため参加出来ず、世に出せぬまま寝かせている間に数年が経ち……この「同人女の異世界召喚」の原型を考えている時に思い出し、設定を少し変えて採用しました。

そんなこんなで出来つつあったプロトタイプの「同人女の異世界召喚」は、ヒロインであるルイのキャラクター性もあって、当初はスローライフ系に近い内容でした。

……が、構想を練っている途中で上記の件とはまた別に、カップリングオタク特有の更なるトラブルが発生しまして……。

大変な思いをしましたが、そこはただでは転ばないのがクリエイター魂。

「これはネタにするしかねえ!」と要素を盛り込んだ結果、今の「同人女の異世界召喚」が誕生しました。

勢いのまま真っ先に恩師に連絡したのですが、話している途中で感極まって嬉し泣きしてしまいました

――「第二回ラノベストリート大賞」の大賞を受賞し、今回の出版に至ったわけですが、受賞したときのお気持ち、出版が決まったときのお気持ちを教えてください。

受賞が決まった時は最初こそ驚きが強かったものの、じわじわと嬉しくなってたまらなくなってしばらくは喜びが抑えきれず、事ある毎におペット様を抱えて妙ちきりんなダンスじみた動きをしたりと、かなり浮かれておりました。

出版が決まった時はそれ以上に嬉しかったです。勢いのまま真っ先に恩師に連絡して受賞と出版の報告をしたのですが、話している途中で感極まって嬉し泣きしてしまいました。

――ご執筆にあたって、苦労されたことや、当初の構想から変わった部分など、また書籍化に際しての改稿で気をつけたことや制作作業を通して感じたことなど、作品制作時のエピソードをお聞かせください。

私は本来もう少し固い文体の、強いて言うなら純文学に近い作風の小説を書いている身ですが、それだとライトノベルを読む層にはややつまらないものになってしまいます。

ですから、今作のようにライトノベル、特に異世界系のジャンルではそちらに寄せた文体で執筆するよう努力しています。

具体的に言うならば、一人称視点で執筆することにより、物語への没入感を深くしたり、描写も話し言葉になるので文章量が多くても雰囲気を柔らかくテンポ感を軽くして読みやすくする、といった所でしょうか。

大学の同期にネット小説系ジャンルでデビューした人物が居るのですが、彼からは「ネット小説としては描写が多すぎるから削るべき」と言われましたが、描写が少ないのは読むのは良くても書くのは自分が許せなかったので、描写が多くても、普段小説を読まない方でも読みやすいように工夫しました。

また、書籍化するにあたり、少々設定を変更した部分があります。

例えば、主人公のトワが「主人公」として選ばれた理由や、モズの襲撃理由、細かいところで言えばチンチラモドキの名称の統一でしょうか。

web版の設定は書籍化するに際に、「一巻読み切りと考えるとわかりにくい、もう少し明確な理由があると読者が納得しやすい」と編集さんにアドバイスをいただいた結果です。

また、一部のエピソードの時系列を入れ替えたり変更しているのですが、そちらも編集さんからご指摘いただいて改善した点となります。

やはりプロの方の視点というのは大変有り難いですし、自分でも「確かに!」と納得して改稿しました。大変勉強になりました!

この場を借りて編集さんにお礼を言わせて下さい。本当にありがとうございました!

一見すれば癖が強いオタクであり――現実では思っているよりよく見かける、そんなオタク像の主人公です

――本作は、特にどのような方にオススメの作品でしょうか? 読みどころなども含めて教えてください。

自分はオタクだと思う方、オーソドックスな恋愛モノや溺愛モノに飽きた方、一風変わった異世界系の作品が好きな方、オタクが自ジャンルに狂ってる姿は健康に良いと思っている方。

そして何より、カップリングをするオタクにこそ読んで欲しい、そんな作品です。

本作はオタクが主人公ではありますが、通常、オタクが主人公となると、作品のあらゆる要素が好きなオーソドックスなタイプか、登場キャラクター全員が好きな、所謂「箱推し」タイプのキャラクターが多いですが、本作の主人公は違います。

地雷、固定、解釈違い有り。そのくせキャラクター同士の関係性を深読みして恋仲の可能性を見出すことを止められない。しかも男女・BL(ボーイズラブ)・百合全部美味しくいただけて、なんならケモノも結構好きという、生き辛いのか生きやすいのかよく分からない。

一見すれば癖が強いオタクであり――現実では思っているよりよく見かける、そんなオタク像の主人公です。

そして、カップリングを主軸に置いた作品だと基本的にBLを取り扱った作品が多いですし、実際カップリングではBLがとても強い勢力として君臨している印象があります。

が、カップリングは男同士だけにあらず。男女だって、女同士だってカップリングは存在します。何なら今作にまだBL要素は出てません。

カップリングモノとしてもやや異色なのではないでしょうか?

――小説を書くうえで、ご自身にとっていちばん大切にしていることや拘っていることをお教えください。

執筆するにあたり一番大切にしていることは、「自分が読んでいて楽しい・面白い話を書く」ことでしょうか。

結局の所、小説は完結まで書ききらなければ作品として完成はしませんし、そこまで執筆を続けるためのモチベーションも必要です。

だから、多少……人によっては年単位になるかもですが、執筆期間が空いたとしてもふとした拍子に「よっし、続き書くか! 自分が読みたいし!」となれるような作品を書くことで、完結するまでのモチベーションを維持出来るようにしています。

何より、純粋に書いてて楽しいですからね、そういう「自分の好きなもの」を詰め込んだ作品って。

――最後に読者に向けて、メッセージをお願いします。

まずは『同人女の異世界召喚』に興味を持っていただき、誠にありがとうございます。

本作で「面白い」「読んでて楽しかった」と感じていただけたのなら幸いです。

既にweb版を見て下さっている方ならお察しかと思いますが、今回書籍化した部分は本当に最初の最初だけ。まだまだ、彼女達の物語は続いています。

当然web版は書き続ける所存なのですが、それでも、書籍版とは違います。書籍版ではweb版のエピソードを削っていたり、逆にweb版に無いエピソードが追加されているのです。

書籍版として、web版とはちょっと違う『同人女の異世界召喚』を皆様にお届けしたいので、二巻目以降が出せるよう、応援していただけたら大変嬉しく思います。

欲を言えば、既に完結までストーリーは決まっているので、それを書籍版でも完遂出来ればと思っています。

これからも何卒よろしくお願いします。

『同人女の異世界召喚』が生成AI音声によりオーディオノベル化!

ただいまライトノベル専門の小説投稿サイト「ラノベストリート」では、感情豊かな生成AI音声「ボイスヒルズ」による『同人女の異世界召喚』(受賞作版)のオーディオノベルが公開中です! 新たな読書体験をぜひお楽しみください。

『同人女の異世界召喚』作品ページ

Q:最近、嬉しかったこと、と言えばなんでしょうか?

もちろん『同人女の異世界召喚』の書籍化が決まったことです。

それ以外だと、2匹飼っているフェレットの、塩対応な方のおペット様のデレが多くなってきたことでしょうか。

人間は嫌いじゃないし遊んでもらえるなら遊んでもらうけど同族の方が好きで、抱っこもなでなでもそんなに好きではない性格の子なのですが、最近になってようやく、可愛い顔で飼い主に擦り寄るとおやつを貰えることを覚えたようです。

飼い主が手を離せない時でもやってくるのがたまにキズ。だが可愛い。

おペット様達、あと30年は生きろ。

Q:ご自身はどんな小説家だと思われますか?

ネット小説を執筆している小説家としてはやや硬派で、古き良き純文学やファンタジーを書く小説家としては異風者か奇抜者、といった所でしょうか。

どちらにもなりきれない半端者、という風にもとれますし、両方の良さを上手いこと利用している……と、いいなぁ……。

どちらにせよ、今作がデビュー作ですので、プロの小説家としてはジャンル関係無くペーペーの若輩者です。

これから更に精進し、前者のどっちつかずの意味ではなく、後者の良い意味で、硬派で奇抜と言われるよう努力します。

Q:おすすめの本を教えてください!

■『二つの心臓の大きな川アーネスト・ヘミングウェイ(新潮社)
(『ヘミングウェイ全短編 1』収録)

一冊目はアーネスト・ヘミングウェイの「二つの心臓の大きな川」。

非常に情景描写が美しい作品です。大自然の息吹、料理の温度や匂い、釣りの一挙一動、そして戦火の痕跡。それらの文章一つ一つが心のヒビをゆっくりと埋め、癒やしてくれるような文体は、私の執筆スタイルに大きく影響を与えました。

「同人女の異世界召喚」はあえていつもの文体から外しているので、首を傾げてしまうかもしれませんが、ふとした描写とかで何となく影響を受けてるのを感じられ……るのかなぁ……?

『サモンナイトU:X』シリーズ 都月景(集英社)

二冊目は都月景先生の「サモンナイトU:X」シリーズです。

この作品はゲーム「サモンナイト」シリーズの外伝ノベルで、シリーズ元であるゲームが私の創作スタイルに大きく影響する作品なので、こちらに挙げました。

というのも、この「サモンナイト」シリーズは、私がオタクの才能を開花させることになった決定的な作品なのです。

魂に性癖を刻みつけた、あるいは性癖を捻じ曲げた、と言っても良いでしょう。

作品としては、1が異世界ジャンルの先駆け、2からは王道的なファンタジー作品といった所でしょうか。

サモンナイトシリーズ、リメイクじゃなくてリマスター版でもいいから各種プラットフォームで販売してほしい。

(写真は最終巻『サモンナイトU:X 響界戦争』)

■『キノの旅』シリーズ 時雨沢恵一(KADOKAWA)

三冊目は時雨沢恵一先生の「キノの旅」シリーズです。

本作は私が小説家を目指すきっかけになった作品で、連作短編形式の小説です。

イラストは上記の「サモンナイト」シリーズのイラストレーターである黒星紅白(飯塚武史)先生が担当しており、サモンナイトのイラストレーターさんが担当しているのなら、と表紙買いしたのが本作を知るきっかけでした。

アーネスト・ヘミングウェイの「二つの心臓の大きな川」もそうなのですが、私はキャンプとか旅とか、そういった小説がツボに刺さるのでしょう。「キノの旅」シリーズを読んでいくうちに、自分もこんな作品を書いてみたい、と思うようになったのです。

私の文章のスタイルと本作の形式はかなり違いますが、それでも、私の小説家としての根底には、この作品があるのだと思います。


裏山かぼすさんデビュー作『同人女の異世界召喚』

『同人女の異世界召喚』(裏山かぼす) ステキブックス
 発売:2025年09月22日 価格:1,540円(税込)

著者プロフィール

裏山かぼす(ウラヤマ・カボス)

東北芸術工科大学文芸学部卒業。多数の小説投稿サイトでの作品発表、及び大賞・コンテスト参加を経て、2025年に「同人女の異世界召喚」にて「第二回ラノベストリート大賞」大賞を受賞し、本書でデビュー。

(Visited 104 times, 1 visits today)