最近、新しい世代のミュージシャンが書いた小説に注目が集まっています。

芥川賞・直木賞候補となる作品も

 2017年にSEKAI NO OWARIのSaoriの藤崎彩織名義での著作『ふたご』が刊行され、今年にはクリープハイプの尾崎世界観の『母影』が刊行されたことは、記憶に新しいでしょう。

『ふたご』藤崎彩織(文藝春秋)

『ふたご』は第158回直木賞の候補に、『母影』は第164回芥川賞の候補に選ばれました。

『面影』尾崎世界観(新潮社)

コロナ禍に翻弄されるミュージシャンを描いた河邉徹

 WEAVERの河邉徹が2020年に刊行した『僕らは風に吹かれて』も、注目作の一つです。

 同作は、2018年に『夢工場ラムレス』で小説家デビューした河邉の4作目の小説にあたります。

 新型コロナウイルス対策で活躍する方々を支援するために、売上の一部を新型コロナウイルス緊急支援募金に寄付する、「寄付付き商品」として販売されたことも話題となりました。

『僕らは風に吹かれて』河邉徹(ステキブックス)


”音楽×小説×イラスト”を連動させた企画をウェブで展開

 三月のパンタシアのみあの初の小説である、『さよならの空はあの青い花の輝きとよく似ていた』も注目されています。

 三月のパンタシアは、みあ書き下ろしの小説を軸として、“音楽×小説×イラスト”を連動させた企画をウェブで展開させており、『さよならの空はあの青い花の輝きとよく似ていた』についても、主題歌「夜光」を収録したシングル「101 / 夜光」がリリースされました。

『さよならの空はあの青い花の輝きとよく似ていた』みあ(幻冬舎)

ミュージシャン特有の文章のリズム

 ミュージシャンによる小説は、話題性が高いだけでなく、作品自体も魅力的です。ミュージシャンならではの文章のリズムのよさは、ミュージシャンによる小説の魅力の一つでしょう。

 小説をメインフィールドとする作者による小説は、豊富な執筆経験に裏付けられた高い筆力があり、やはり文章のリズムも優れています。

 しかし、音楽をメインフィールドとする作者によって書かれた小説には、作詞・作曲や楽器の演奏の経験によって高められた、まるで文章自体が音楽であるかのような、小説をメインフィールドとする作者によるものとは異質のリズムのよさがあります。

音楽業界の描写、演奏シーンのリアリティ

 ミュージシャンが音楽を題材に小説を書くときの、演奏シーンや音楽業界の描写のリアリティの高さも、ミュージシャンによる小説の大きな魅力です。

 河邉徹の『僕らは風に吹かれて』では、バンドのメンバーとなった主人公がバンドとともに変化していく模様が描かれます。そこにおける、バンドの演奏シーンの臨場感の高さや音楽業界のリアルな描写は、ミュージシャンでもある作者による小説ならではのものでしょう。

メディアを横断し、ファンのフックが増える

 また、小説と音楽を取り巻く最近の傾向として、小説と音楽のマッチングによるメディアを横断した展開を行うクリエーターが台頭してきていることも見逃せません。

 三月のパンタシアも、そのなかの一つです。みあ書き下ろしの小説を軸として、“音楽×小説×イラスト”を連動させた企画をウェブで展開させている三月のパンタシアの活動は、とてもユニークです。三月のパンタシアの楽曲をきっかけとして、みあの『さよならの空はあの青い花の輝きとよく似ていた』を手に取った読者も多いでしょう。

 音楽を媒介として、小説を読む習慣がなかった読者が小説を手に取るきっかけを作ったことの意義は、大きいです。


 ミュージシャンと小説の関係から、これからも目が離せません。

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