昨年、刺激的なタイトルの作品『ブラザーズ・ブラジャー』でデビューした佐原ひかりさん。

両親の再婚によってできた義理の弟の秘密を知ったことで、改めて自分の価値観や相手との距離・関係性を意識しはじめる女子高生を主人公とした青春小説だった前作から約1年、待望の新作『ペーパー・リリイ』が刊行されました。

結婚詐欺師の男に育てられた女子高生と、その男に騙された女。縁があるようで、出会うはずがないような、不思議な関係のふたりの夏の逃避行(?)を描くユニークなロードノベルです。

作品の誕生秘話から創作との向き合い方まで、佐原さんにお話を伺ってみました。

”他人”もひとつのギミックになるな、と考え、まっさらなふたりにしました

――『ペーパー・リリイ』について、これから読む方へ、内容をお教えいただけますでしょうか。

結婚詐欺師の叔父と暮らしている17歳の少女・杏と、その詐欺師に騙された38歳のキヨエが、500万円を持ち出し一週間の旅に出るロードノベルです。

――本作を描こうとされたきっかけを教えていただけますでしょうか。

もともと、ロードノベルを書きたいという気持ちがありました。そこで、どんなふたりにするかと考えたとき、年の差のある女性ふたりのロードノベルってあまり見ないな、と。最初は、『テルマ&ルイーズ』のように、関係性がある程度出来上がっている女性ふたりでいこうかな、とも思ったのですが、”他人”もひとつのギミックになるな、と考え、まっさらなふたりにしました。

それと、以前から、「贈与と返礼」「恩の呪い」について思うところがあったので、そこと組み合わせて何か書けないか、と考えた結果、杏とキヨエの関係性が浮かび上がってきました。

あとは、タイトルにもかけていますが、『ペーパー・ムーン』という映画が好きなので、そこも組み込めないかなあ、とコネコネしているうちに、今の形になりました。

「あれ? これ、このまま終わっちゃう話なの?」と自分の中で引っかかって

――ご執筆にあたって、苦労されたことや、当初の構想から変わった部分など、執筆時のエピソードをお聞かせください。

構想が変わったのはラストシーンです!

もともとあのラストの予定ではなかったんです。でも、プロットを最後まで書き切ったときに、「あれ? これ、このまま終わっちゃう話なの?」と自分の中で引っかかって。そうしたら、杏も杏で、「あれっ?」と思っていたので、その違和感をヒントに、ラストはああいう形に変えました。

苦労したのは、風景描写です。もともとロードノベルを書きたいと思ったのも、風景描写が好きだから(たくさん書けるぞ!)、というところが出発点なんです。でもいざ書いてみたら山間部ばかり移動することになってしまって、書き分けが大変でした。

――どのような方にオススメの作品でしょうか? また、本作の読みどころも教えてください。

物語を一気に駆け抜けたい人、夏が好きな人、ロードノベルが好きな人、どんな人にもどんなふうにでも読んでもらえる作品になったんじゃないかな、と思います。後味としては、「妙な爽快感」を心がけたので、そういったものが好きな方もぜひ。会話文や掛け合いを褒めていただくことが多いので、そこも楽しんでいただけたら嬉しいです。

次に出る作品にも通ずることなんですが、いま自分が抱えている悩みや問題は、必ずしも家族や友人など身近な人たちとの関わり合いや助け合いで解決する必要はない、と思っていて。そういった、「他人との可能性」もポイントなのかなあ、と思います。

小説としてどれだけ「飛ばせる」か、という飛距離も意識はしています

――小説を書くうえで、いちばん大切にされていることをお教えください。

書くことと「題材を消費」することはすごく近いところにあるというか、表裏一体でもあるので、そこは絶対に忘れないように書いていきたいと思っています。

あとは、「物語の奥行き」は意識しています。書きたいもの、伝えたいことがあったとして、それをそのまま平面でお渡しするのは小説じゃなくてもいいかも、と思うので。小説としてどれだけ「飛ばせる」か、という飛距離も意識はしています。

――最後に読者に向けて、メッセージをお願いします。

私は私を縛るものがとてもきらいですし、あなたを縛るものもすべてブチ千切りたいと思っています。そういう気持ちがあるかぎりは小説を書き続けます。そのうちのどれかひとつでもいいから、あなたを自由にするものがあればいい、と願っています。

とにかく主人公・杏と、物語上のバディであるキヨエのコンビ感が心地よい作品です。

インタビューのお答えにもあったようになにからなにまで違っているふたり。高校生と中年に差しかかった女というジェネレーションギャップはもちろん、「美」に関する価値観や金銭感覚、行動原理と、どれをとっても噛み合いません。

冒頭、民宿に出現した虫に対するそれぞれの反応が、うまくそれを印象づけてくれているので、物語に引き込まれていきました。

お互いがその噛み合わなさを認識していながら、どちらかが一方的に力を行使するわけでもなく、妥協して相手に合わせるわけでもない。状況をうまく進めるための協力はしても、相手のなにかを変えてやろうとまでは思っていない。

本来ならば出会うことのない、出会ったとしたら憎しみが生まれてもおかしくないふたりに、絶妙なバランスで「関係」を築かせることに成功しているからこそ、と感じられました。

Q:最近、嬉しかったこと、と言えばなんでしょうか?

本棚を買い足したことで、本の購入を再開できたことです。

Q:ご自身は、どんな小説家だと思われますか?

「大人」への手厳しさを忘れない小説家でいたい、と思っています。

Q:おすすめの本を教えてください!

『時をさまようタック』ナタリー・バビット(評論社)

『蛇行する川のほとり』恩田陸(集英社)

『日傘のお兄さん』豊島ミホ(新潮社)

――が、好きかつおすすめかつ影響を受けた、夏の3冊です。


佐原ひかりさん最新作『ペーパー・リリイ』

『ペーパー・リリイ』(佐原ひかり) 河出書房新社
 発売:2022年07月25日 価格:1,760円(税込)

著者プロフィール

(撮影=小原太平)

佐原ひかり(サハラ・ヒカリ)

1992年 、兵庫県生まれ。2017年に「ままならないきみに」で「第190回コバルト短編小説新人賞」を受賞。2019年 に「きみのゆくえに愛を手を」で「第2回氷室冴子青春文学賞」大賞を受賞し、加筆・改題の上、2021年に『ブラザーズ・ブラジャー』で本格デビュー。以降、『朝倉かすみリクエスト! スカートのアンソロジー 』への短編「そういうことなら」収録や、文芸誌への作品発表のほか、9月にも新作刊行が予定されている。

 

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