“楽器を持たないパンクバンド”BiSHのモモコグミカンパニーさんが初の小説『御伽の国のみくる』を刊行されました。

 ある登場人物のセリフが思い浮かび、そのセリフから派生して広がっていったという本作。モモコグミカンパニーさんにしか書くことのできない貴重な一冊となりました。刊行にあたって、お話をお聞きしました。

文=しーなねこ

自分の好きなことにもう一度しっかりと向き合いたいと思って挑戦しました。

――これまで二冊のエッセイを出され、三冊目は小説を刊行されました。学生時代より小説を書かれていたようですが、当時はどのような小説を書かれていたのでしょう?

 当時書いていたのは、小説とも言えないくらいの短いものや、中途半端に書いたものばかりでした。

 内容はあまり覚えてないですが、ミステリーとかプロットが練られたものというより、自分の中にできたわだかまりのようなものを物語に反映させて知りたいという動機で書いていた気がします。

 小説を書きたいとはずっとどこかで思っていたのですが、ずっと自信がなくて諦めていました。しかし、グループの解散もあり、自分の好きなことにもう一度しっかりと向き合いたいと思って挑戦しました。

――各シーンの葛藤や対立などの描き方、クライマックスに向けての展開など、ものすごくおもしろかったのですが、一体どのようにして書かれたのでしょうか?

 初めて本格的に小説を書こうと思い立ったので、なにも知識がなく行き当たりばったりで書き進めました。

 自分でも綱渡りをしているような感覚でしたが、それでも書き進めていくうちに自分では予期していなかった登場人物がでてきたりして新鮮な驚きがありました。

――小説を書くにあたって、文体や世界観などで影響を受けた作家さんはいますか?

 尊敬している作家さんは何人もいますが、今回に関しては直接影響を受けた方はいないと思います。

 でも、小説を読む楽しさを教えてくれた作品はたくさんあります。住野よるさん、村上春樹さん、窪美澄さん、森絵都さん、梨木香歩さん等、好きな作家さんは沢山います。

 また執筆中に、表で活動している方が小説を発表していて(兼近大樹さん、加賀翔さんなど)そのこともすごく刺激になりました。

――執筆にあたって苦労されたこと、想定していなかった出来事など、エピソードがありましたら教えてください。

 書き始めた当初、プロットや構成などの知識がなかったため本当に行き当たりばったりで、先が見えないまま物語を書き進めていたことと、感情移入して自分の日常(食、睡眠、人付き合いなど)が疎かになってしまったことは苦労しました。

以前よりもずっと書くことが好きになりました。

――本作を書かれた動機・きっかけは何だったのでしょう。アイドルをテーマに小説を書こうというのが、まずあったのでしょうか?

 このテーマの小説を書いたきっかけが、冒頭のひろやんという人物の「みくるんは、僕となんか似てるんだよなぁ」というセリフが思い浮かんだことです。

 それ以外は特にこれが書きたいと意識的に思って書いたわけではなく、そのセリフから派生して今回の物語が生まれました。

――アイドルを目指し夢破れたメイド喫茶店員と、そのお客さん(ファン)を登場人物として設定されていますね。

 自分の活動をする上でファンの人がいつも身近にいたことは反映されているかもしれないです。キラキラしたものに憧れる女の子たちは、世の中に本当に沢山いて、しかし選ばれるのは少数であり、その葛藤を書きたかったのかもしれません。

――書きおえた手応えはいかがでしょうか? 書く前と書いた後で、ご自身の心境に変化はありましたか?

 何より一冊書き終えて形にできたということは、今後の自分の自信につながりましたし、同時に自分の課題も見えてきたと思います。小説執筆に挑戦したことによってより小説の奥深さを知れて、以前よりもずっと書くことが好きになりました。

私の意志というよりは登場人物たちが行き着いたラスト

――登場人物たちは、それぞれの理想(偶像)に対して一方的な強い思いを持っていて、皆が現実を見ていないところが恐ろしくもあり、それが人の原動力にもなっていると拝読して感じました。このような構図は、意図されて書かれたのでしょうか?

 特に狙ったものではなく、私の潜在意識の中にそのようなものがあったからかもしれません。闇と光、嘘と本当、虚像と実像、美しさと醜さ、そんな一対のものに私自身、昔から関心があったように思います。

 また、この世界に入る前、どうして世の中にはこんなにアイドルに憧れる女の子がたくさんいるのかずっと疑問でその理由に関心があり、知りたいという思いもありました。

――登場人物たちは、理想・偶像・正しさを追い求めるあまり、辛い状況に置かれているように思いましたが、ラストは希望のあるかたちで描かれていると感じました。このようなラストに至るまでに、考えられたことを教えてください。

 書いた当初はプロットはおろか、ラストも全く想像できていませんでした。私の意志というよりは登場人物たちが行き着いたラストだと思っています。

 光、というのは闇の中だからこそ力強く見えると思っていて、登場人物がそれぞれの闇を見てきたからこそのラストだったのかなと思います。

そんな自分を自分で許してあげることも幸せに繋がるのかも

――「みんなの欲しがるものが欲しいの」という、世間が決めた幸せを求めるリリアや、自分の容姿を「間違っている」と感じている主人公・友美の「正しさ」について書かれています。モモコグミカンパニーさんが考える幸せとは?

 私はリリアのように人からの評価に重きを置くよりも誰からも評価されずとも自分基準で、納得して生きている方が素敵だと思うし、幸せそうに思えます。

 ただ、そう分かっていても現実には難しいところもあります。結局、周りに評価されずともそんな自分を自分で許してあげることも幸せに繋がるのかも知れないです。

――小説を書かれることも、フィクションを通して読者に夢を見せ、読者の救いになるという面がありますが、現在の活動や作詞をされることと、小説を書かれることについて、共通点や似ているところはありますか?

 誰かの目に映るということは、怖いことだと思いますが、すごく幸せで生きている実感がもてることです。

 活動も作詞もひと目に触れるという点ではとても共通しています。自分だけのために行動したり書いたりすることと、誰かのためにすることは別物に思えるので。

――文章を書くにあたって、大切にされていること・こだわられていることを教えてください。

 毎日ちょっとずつ書くということです。雑音の少ない朝の早い時間を使って執筆してました。あと、ある程度書いたら読み直して何度も加筆修正することです。

『御伽の国のみくる』は私にとって本当に大切な一冊になりました。

――今後、書きたい小説や、扱いたい・挑戦したいテーマがありましたら教えてください。

 まだ探り中ですが書きたいテーマはいくつかあります。一過性があり、儚いもの、形のないものを深掘りして形にして残していきたい、自分の中で向き合いたいという気持ちがあります。

――本書をこれから読む方や、ファンの方へのメッセージをお願いします。

『御伽の国のみくる』は私にとって本当に大切な一冊になりました。そして、あなたがどう感じていただけるかが全てだと思います。気になる方はぜひお手に取ってみてください!

 これから、私は自分が憧れる作家さんたちのようになれるかは分かりませんが、まだまだ沢山学んでいきたいと思っているので、これからもぜひ見守っていてください!

 アイドルに憧れる女子を中心に、現代的で切実な悩みや課題を抱える登場人物たちが、葛藤し、対立し、ストーリーはクライマックスに向けて緩むことなく展開していきます。読者は登場人物の苦悩が、まるで自分のことのように感じられるはずで、緊張して息苦しくなるほど引き込まれます。

 ラストは奇跡のような体験に、感動して涙が出ました。アイドルとファンとの関係を通し、偶像を作り出す側と、それを崇拝する側の心理が描かれていますが、それは私たちが日常的に、あるべき自分の姿を思い描いたり、理想を追い求める様とも重なります。

 現在の活動を通し、ファンの方からの反応を受けとることで練り上げられていった物語なのではと想像し、モモコグミカンパニーさんにしか書くことができない作品だと思いました。

 おすすめです!


モモコグミカンパニーさん最新作『御伽の国のみくる』

『御伽の国のみくる』(モモコグミカンパニー) 河出書房新社
 発売:2022年03月18日 価格:1,375円(税込)

著者プロフィール

モモコグミカンパニー

 “楽器を持たないパンクバンド”BiSHの結成時からのメンバーで最も多くの楽曲で歌詞を手がける。
 読書や言葉を愛し、独自の価値観、世界観を持つ彼女が書く歌詞は、圧倒的な支持を集め、作詞家としての評価も高い。
 2018年と2020年のエッセイの発表に続き、今年3月下旬、自身初の小説『御伽の国のみくる』出版予定。

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