長引くコロナ禍を例に挙げるまでもなく、心に影を落とし、重い気持ちにさせられてしまうきっかけは、日常のあちこちに転がっています。特別デリケートなつもりはなくても、ほんの些細なつまづきが、心に刺さった棘のようにいつまでも気になってしまったりすることは、多くのみなさんが経験しているのではないでしょうか。

そんなとき、心の拠り所となる場所が、あなたにはありますか?

発売されたばかりの沖田円さんの最新作『喫茶とまり木で待ち合わせ』は、街の片隅にある喫茶店を舞台に、日々の中で傷ついたり疲れた心を持った人々が、文字通り「とまり木」のようにそこで羽を休め、再び日々に飛び立っていく連作短編集です。

この作品こそが、読者のみなさんにとっての「喫茶とまり木」になってくれそうな、優しく寄り添う物語を描いた沖田さんにお話を伺いました。

淡々と読めつつ心に柔らかく触れるようなものにしようと決めました

――今回の『喫茶とまり木で待ち合わせ』について、これから読む方へ、内容をお教えいただけますでしょうか。

タイトルのとおり「喫茶とまり木」という喫茶店で待ち合わせをしている人々を描いた連作短編集です。壮大なテーマや大きな事件などはありませんが、誰もがどこかで抱えていそうなささやかな悩みや迷いを書き、多くの読者さんにとって身近に感じられるような内容に仕上げました。

――この作品が生まれたきっかけを教えていただけますでしょうか。

本作のプロット作成に取り掛かる直前くらいに、もろもろの世の中の状況やら自分のことやら様々なことが重なって、私自身が重たい内容の小説をどうにも読めない&書きたくない時期があったのです。そのときに、今の自分が読みたい小説を書こうと思いまして、特別なことは何も起きない、主人公が重たいものを抱えていない、淡々と読めつつ心に柔らかく触れるようなものにしようと決めました。ちょっと疲れているときに気楽に読めて、なんとなくほっとできる本になればいいなと思っています。

ちなみに私の心の拠り所は我が家です。根っからの出不精なので、なんだかんだで自分の家が一番好きですし、落ち着きます。

どこか自分と似ている人を、本の中に見つけるのも楽しいのではないでしょうか

――今回の作品のご執筆にあたって、苦労されたことや、当初の構想から変わった部分など、執筆時のエピソードをお聞かせください。

変わった部分というか、むしろ最初から書くべきものが変わらないようにしていました。ストーリーの起伏が少ないので、プロットの段階で担当編集さんに「ひとつくらい、もうちょっと感情を揺さぶる、突き刺さる感じの話を入れてはどうか」的なアドバイスをもらいましたが、それだとテーマがぶれるしなあ、と考え結局私の思うままにやらせてもらいました。

細かい部分だと、一話の主人公である真由美の心境は構想と少し変化しました。実際に原稿を書きながら「たぶん真由美はこう思っているんだろうなあ」と気づき、それに合わせていった感じです。書き進めてみないとなかなかキャラクターの心情に気づけなかったりします。

――どのような方にオススメの作品でしょうか? また、本作の読みどころも教えてください。

上でも答えましたが、たとえばちょっと疲れたときとか、ゆっくりしたいときのお供にしてもらえるといいなと思っています。

また、本の帯に「これはあなたの物語」というキャッチコピーを付けてもらったのですが、それのとおり、どこか自分と似ている人を、本の中に見つけるのも楽しいのではないでしょうか。共感できる部分や、逆に、自分とは違うなってところとか、読んでくださった方がどう考えるか、作者として聞いてみたいです。

事前に読んでくださった書店員さんたちの感想を一部拝見しまして、「〇話が好きだった」みたいに書いてくださる方々もいたのですが、皆さんわりとバラバラで、面白いなと思いました(笑)。

あんまり考えが凝り固まらないように、そして作品から作者が透けて見えないように

――小説を書くうえで、いちばん大切にされていることをお教えください。

私自身のメッセージを込めすぎないことでしょうか。小説から受け取るものは読者さんひとりひとり違っていていいし、なんなら何も受け取らなくてもいいとも思っています。なので、あんまり考えが凝り固まらないように、そして作品から作者が透けて見えないように気をつけています。私の書く小説の中の人たちは、わりと私自身とは違う考えを持った人が多いような気がします。

――最後に読者に向けて、メッセージをお願いします。

現代人、老若男女常にお疲れモードの人も多いと思います。心を休める方法は様々あるでしょうが、読書が癒しの皆さま、気が向いたら『喫茶とまり木で待ち合わせ』をのんびりタイムのお供に選んでいただけると嬉しいです。

Q:最近、嬉しかったこと、と言えばなんでしょうか?

我が家で暮らしているハムスター(1歳半)が、私の手のひらの上でころんとお腹を見せてくれたことです!  孤高のハムで全然懐かないのですが、ちょっとは心を許してくれているのかなと嬉しくなりました。 

Q:ご自身は、どんな小説家だと思われますか?

スケジュール管理能力が足りない作家です。学生時代、夏休みのほとんどを遊びまくり、宿題は最後の二日間でヒィヒィ言いながらやっていました。作家になって、余裕だなと思っていた原稿を、〆切直前もしくは直後にヒィヒィ言いながらやっています。成長したいです。

Q:おすすめの本を教えてください!

『ガゾリン生活』伊坂幸太郎(朝日新聞出版)

『獣の奏者』上橋菜穂子(講談社)

『有頂天家族』森見登美彦(幻冬舎)

大好きな本は、いろんな人に教えて回りたい作品と、誰にも教えず独り占めしたい作品とに分かれます。こちら3作は全力で人にオススメしたい作品です。


沖田円さん最新作『喫茶とまり木で待ち合わせ』

『喫茶とまり木で待ち合わせ』(沖田円) 実業之日本社
 発売:2022年09月15日 価格:1,760円(税込)

著者プロフィール

沖田円(オキタ・エン)

愛知県出身。2012年『一瞬の永遠をキミと』でデビュー。2015年に刊行された『僕は何度でも、きみに初めての恋をする。』が大ヒットとなり、コミカライズも行われた。2018年には「咲久良町シンフォニー」で「ピュアフル小説大賞」金賞を受賞し、改題のうえ2019年に『千年桜の奇跡を、きみに 神様の棲む咲久良町』として刊行された。2020年の『猫に嫁入り〜黄泉路横丁の縁結び〜』からはじまる「猫に嫁入り」シリーズが人気を集め、コミカライズもヒット中。その他、主な作品に『流星の消える日まで』『ひだまりに花の咲く』『僕らの夜明けにさよならを』『雲雀坂の魔法使い』などがあり、10月にも新刊『10年後、きみに今日の話をしよう。』と新装丁版の『僕は何度でも、きみに初めての恋をする。』の刊行が予定されている。

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