お互いの本音を隠して活動するアイドルグループのメンバー同士が、事件を通して疑心暗鬼に陥る様。知らずに母の言葉の呪縛に囚われている女子大学生。誰にも言えない思いを抱えながら、自分を理解してくれる誰かを求め続けているヒロインたち……。そんな見えない緊張をはらんだヒリヒリするような人と人との関係性の上に物語を築いてきた真下みことさん。

その真下さんの最新作『わたしの結び目』は、まさにその人間関係自体がテーマと言えるのではないでしょうか。

中学2年生。同じ空間で同じ時間を過ごす「学校」こそが価値観の基準となってしまいがちな世代。境界が曖昧になっていく友情と束縛――そんな、誰の中にあるような、多感で頑なな時代の記憶を呼び覚ます作品です。

発売されたばかりの『わたしの結び目』がどのように生まれたのか、真下さんにお話を伺ってみました。

学校生活特有の閉塞感を、自分の記憶がまだ鮮明なうちに書き残しておかなくてはいけないと思っていて

――今回の『わたしの結び目』について、これから読む方へ、内容をお教えいただけますでしょうか。

ある中学に転校してきた元学級委員の里香と、クラスで浮いていた彩名が仲良くなりますが、このクラスでは昔ある事故があって……というお話です。元々、学校生活特有の閉塞感を、自分の記憶がまだ鮮明なうちに書き残しておかなくてはいけないと思っていて、これまで描いていない年代ということで中学2年生の女の子たちの関係を描くことにしました。

――この作品が生まれたきっかけを教えていただけますでしょうか。

執筆のきっかけとなった疑問として、「なぜ友情は恋愛よりも軽んじられてしまうのか」というものがありました。それまで長く付き合っていた友人よりも、付き合いの浅い恋人の方が関係性として優先されて、やがて友人の自分が知らなかった一面を恋人にだけ見せていく……そのプロセスが不思議だなと感じており、これで一つ書けるかもしれないと思いました。

完全に他人事として読める人は少ないのではないかとも思います

――ご執筆にあたって、苦労されたことや、当初の構想から変わった部分など、作品制作時のエピソードをお聞かせください。

当初の構想としてはもっとバッドエンドというか、二人が自分たちの関係にがんじがらめになってしまうような終わり方を迎える予定でした。しかし書き直していく中で、里香と彩名、それぞれが持つこだわりを、うまく手放せる話にできたらいいなと思うようになりました。ラストは色々な解釈ができると思いますが、私としてはとても前向きに着地できたと感じています。

――どのような方にオススメの作品でしょうか? また、本作の読みどころも教えてください。

読みどころとしては、やはり中学生の女の子同士のある種変わった友情だと思います。ただ、完全に他人事として読める人は少ないのではないかとも思います。

例えば学校に息苦しさを感じている人が読めば、学校の先生やクラスメイトなどの描写でピンとくるものがあると思います。また、今は学生でなくとも、かつて学生だった方が読めば、あの頃の辛さに名前がつく感覚があるのではないかと思います。

あとはもしかしたら、これくらいの年代のお子さんを持つ方が読めば、いじめやクラスでの人間関係は自分が思っているほど簡単ではないのだと思い出せて、お子さんへの声掛けに役立つかもしれません。

自分の感情が動いた出来事を忘れずに、どんなこともいつかは小説にするつもりで生きています

――小説を書くうえで、いちばん大切にされていることをお教えください。

日常生活における、ちょっとした違和感や怒りを覚えておくことです。例えば今回の作品に関係する「恋愛の方が友情より優先なのはなぜか」という違和感を覚えたのは私自身が中学生だった頃、つまり10年以上前になります。そういった自分の感情が動いた出来事を忘れずに、どんなこともいつかは小説にするつもりで生きています。ただ、そういった出来事自体を記録するためのメモなどはつけていません。忘れないぞ、という執念を生かしたいので。

――最後に読者に向けて、メッセージをお願いします。

いつも応援していただきありがとうございます。ご感想を送ってくださる方もそうでない方もいらっしゃいますが、私が書いた本に出会ってくださり、それを読んでくださるという現象は、いつも不思議なことだと思います。本を通じて浮かんだ感情が良いものであれ悪いものであれ、それはあなただけのものですから、是非大切にしてください。

読書というのは孤独な楽しみですが、本を読むときは必ず、読者と作者は一対一の関係になれると思っています。これからも、どうぞよろしくお願いします。

Q:最近、嬉しかったこと、と言えばなんでしょうか?

パソコンを新調したことです。以前から執筆やゲラの確認などにはタブレットも活用しているのですが、レイアウトの確認やソフトの関係で、パソコンでないとできないことは多いです。趣味の音楽制作も最近はあまりできていなかったのですが、これで再開できるかもしれません。

Q:ご自身は、どんな小説家だとお考えですか?

自分が子供の頃に抱いた怒りや痛みを、どうやったら言葉で表現できるか考え続ける小説家でありたいです。

Q:おすすめの本を教えてください!

■『何者』朝井リョウ(新潮社)

■『殺人出産』村田沙耶香(講談社)

■『勝手にふるえてろ』綿矢りさ(文藝春秋)

影響を受けた本を3冊紹介させていただきました。このお三方の作品に出会わなければ、私は小説を書いていなかったと思います。


真下みことさん最新作『わたしの結び目』

『わたしの結び目』(真下みこと) 幻冬舎
 発売:2023年04月05日 価格:1,650円(税込)

著者プロフィール

撮影/米玉利朋子(G.P.FLAG)

真下みこと(マシタ・ミコト)

1997年、埼玉県出身。2020年に「第61回メフィスト賞」受賞作『#柚莉愛とかくれんぼ』でデビュー。その他の著書に『あさひは失敗しない』『茜さす日に嘘を隠して』、近著に『舞璃花の鬼ごっこ』がある。

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