昨年末にスタートしたマンガ配信サービス「ステキコミック」。
「読者にとってもマンガ家にとっても、フェアで持続可能なサービス」をコンセプトに、スマホやPC・タブレット等で楽しめる新しいWEBコミックサイトとして注目を集めています。
オリジナル作品から人気の名作コミックまで、ラインナップも続々増加中。特にオリジナル作品には、小説投稿サイト「ステキブンゲイ」「ラノベストリート」との連動企画として生まれたフレッシュなコミカライズ作品も顔を揃えています。
そのステキブンゲイ主催の「第一回ステキブンゲイ大賞」で、コミック原作となる作品を選出する「フューチャーコミックス賞」を受賞し、昨年3月よりコミカライズがスタートしたのが、今回ご紹介する根本美佐子さんの『鼓膜が溶ける声』(漫画/ミキマキ)です。
大役に抜擢された新人声優コンビの同居物語として人気を集め、現在ステキコミックでも堂々凱旋配信中の同作について、原作の根本さんにお話を伺いました!
夢を掴むために何かを犠牲にしていることや、誰かに執着されたりとか、上下関係とか、人間ドラマもしっかり書きたいと意識した
――まず最初に、この『鼓膜が溶ける声』がどのような作品か、内容をお教えいただけますでしょうか。
新人声優2人が話題性欲しさにルームシェアをしてトップ声優を目指す――というシンプルな話ではあるんですが、声優という職業小説としても楽しんでもらいたくて、体験談なども駆使して書きました。
夢を掴むために何かを犠牲にしていることや、誰かに執着されたりとか、上下関係とか、人間ドラマもしっかり書きたいと意識した小説でした。
――作品が生まれたきっかけを教えていただけますでしょうか。たとえばストーリーから構築したのでしょうか? それともキャラクターが先に生まれたのでしょうか?
キャラクターからです。
十代後半から声優を目指すいわゆる声優養成所育ちの主人公と、子役から歌手や声優を目指している相棒、そして先輩声優には学生時代の演劇部から声優の専門学校育ち、2.5次元舞台から声優になったという、スタート地点がバラバラの4人の話にしました。
実際現在声優になる方法の代表例だと思うので、声優ファンやこれから目指す人へ参考になればという想いがありました。
――「新人声優コンビの同居物語」ですが、月野宇良・大地亮の2人のキャラクターはどのように生まれたのでしょうか。また声優業界にはもともと興味があったのですか? それとも作品のために勉強したのでしょうか?
実は私も声優を目指して、17歳の時に養成所に通っていました。
挨拶や礼儀的なことも学ぶのですが、実践的な練習に台本をきちんと読む練習と歌の練習に力の入っている養成所だったので、練習相手がいるというのはとても心強い存在だったので2人も同居させました。
新人声優という立場で、宇良のように無意識に自分はどうしたらいいのだろうと頼りないところに、亮という図々しいキャラクターを相棒にすると話にテンポが生まれると思ってキャラクター性を決めました。
受賞したと聞いて「ヤッター!」と叫んで力尽き、電話の後は興奮しているのにヘトヘトでした
――この作品が「第一回ステキブンゲイ大賞」でコミカライズ原作が決定するフューチャーコミックス賞を受賞したわけですが、改めて受賞時のお気持ちをお教えください。コミック化に際しての要望や、逆に編集部側からの提案なども含め、コミカライズがスタートするまでの期待や不安なども合わせてお教えいただけますか。
結果発表の連絡を待っていました。結果連絡通知日の予定を教えられていて、前日から不安で眠れず結局徹夜をしてしまいました。
そして、予定から1時間半過ぎても電話がかかってこなかったので諦めてベッドに入った瞬間電話が来て、受賞したと聞いて「ヤッター!」と叫んで力尽き、電話の後は興奮しているのにヘトヘトでした。
後に、編集の方から2人が受けるオーディションはバンドアニメの設定ではないほうがいいと言われ、「歌ってみた」の歌い手を主人公としたアニメに変更するのはどうかと、提案して通ったのは嬉しかったです。
――マンガご担当のミキマキ先生から、宇良や亮のキャラクターデザインや、小説としてご自身が描いたシーンがマンガとなって届いたものをご覧になったときはいかがでしたか?
漫画的表現と小説的表現の違いがとても勉強になりました。
例えばオーディションのシーンで『ざわざわ』という擬音があったのですが、私は何度か本当の声優オーディションを受けているので、会場は信じられないくらい静かで、ざわつかないことが鉄則なのです。でも会場の声にならないざわつきを表現するのに漫画では『ざわざわ』となるのか! と読んで驚きました。
宇良と亮のビジュアルは並んだ時に想像以上のバランスの良さに、とても感謝しました。
――コミック版『鼓膜が溶ける声』は昨年3月に配信がはじまりましたが、そのときのお気持ちや、周囲の方や読者の反響など、印象に残っているものがありましたらお教えください。
宣伝方法がツイッターや個人のSNSしかなかったので、とりあえず「読んでください」とリンクを貼ることしか出来なかったのですが、ほとんどの人が「漫画本になったら買うね!」という反応で……もう「本になりますように」と思うしかありませんでした。私の力不足を感じましたね。
ただその中でも、80代の祖母に第1話を試しに読んでもらった時、続きがとても楽しみだと言ってくれて嬉しかったです。
諦めないこと、何かを始めるのに遅い早いは案外関係ないことを、キャラクターを通して知って欲しい
――コミック版の中でお気に入りのシーンや注目してほしいシーンはどこですか。
宇良と亮のシーンではないんですが、第6話で先輩声優の広瀬が、格上の橋田をビンタするシーンです。後輩にカッコ悪いと思われたら終わりだと、仕事をするうえで必要なプライドを後輩だけじゃなく先輩にも伝える大切なシーンでした。
最初は宇良が亮をビンタする予定だったのですが、大変なのは新人だけではないことを伝えたかったので、あえて本来は穏やかな性格の広瀬に変更にしました。
――原作者として、本作のおすすめポイントを教えてください。
にぎわっている声優業界だからこそ、知らない人、詳しい人、すべての人に楽しんでもらいたいとリアルを意識した作品です。
失敗したことが逆に印象に残ってスタート地点に立てちゃったとか、ひたすら地道な努力の上で結果につながるとか、オーディション(選ばれる側)は何がきっかけで夢を勝ち取るか案外分からないものです。諦めないこと、何かを始めるのに遅い早いは案外関係ないことを、キャラクターを通して知って欲しいと思いました。
欲張りな夢を少しずつでも全部叶えていきたいです
――今後のご自身の活動についての目標などをお教えください。
文章やアイディアを売る仕事をしていきたいです。
小説は私が物語や気持ちを伝えるのに一番の手段だと思っています。だけど、作詞もしてみたいし、脚本も書きたいし、自伝エッセイも書きたいし、賞も欲しいです。
正直なところ、声優になるのも諦めていません。もしもいつか自分の小説がアニメ化されたら私、出るつもりです。
欲張りな夢を少しずつでも全部叶えていきたいです。小説だけでなく漫画やアニメ、ドラマや映画など色々な形でより多くの人に届けられるような物語を書いていきたいです。
――最後に読者に向けて、『鼓膜が溶ける声』の作品、そして小説家・根本美佐子としてメッセージをいただけますか。
私は100%の力を使って、80%の完成度のところで作品を俯瞰し、残りのうち10%を可能性で、最後の10%は余裕として考えるようにしています。
多分物事を100%でやり切ってしまうと燃え尽きてしまいます。もうこれ以上なんて無理ってなって、見たくもない限界が見えてしまうんです。だから可能性と余裕を大切にします。
『鼓膜が溶ける声』もそうやって出来ました。80%から、コミカライズしてもらって90%、読んでもらって100%、そんな作品です。
完璧って一人で完成させるものじゃないと思います。
自己満足をすることは自分を信じることで完璧と似ていると考えています。そんな私を今後も見ていてください。
「売れるためだったら、なんだってやる覚悟をしろよ」アルバイトをしながらトップ声優を目指す月野宇良。ある日、主人公役のオーディションで新人以下のミスをして落ち込んでいると、まさかの合格連絡が!! 人生初の主役に大喜びしていた宇良だが、同じ役を狙っていた実力派声優・大地亮にあることが理由で逆ギレされる。さらに、強引に宇良の自宅に押しかけた亮から突然のルームシェア宣言――!?
★オリジナル作品から人気の名作コミックまで、無料で読める作品も盛り沢山のWEBコミックサイト「ステキコミック」はコチラ!!
著者プロフィール
根本美佐子(ネモト・ミサコ)
幼少時より文筆活動をはじめ、2020年に「幻冬舎ルネッサンス第二回新人賞」大賞を受賞し、『100点をとれない天才の恋』でデビューを果たす。2021年には「第一回ステキブンゲイ大賞」にてフューチャーコミックス賞を受賞し、受賞作『鼓膜が溶ける声』が2022年よりコミカライズされている(漫画:ミキマキ)。また本年3月には、人気声優の緑川光・代永翼・川島零士が出演した朗読劇「空間朗読劇ものこえ『ミャウエバー物語 松葉兄弟の話』」にて脚本を担当した。