春の訪れを告げる桜。雨露に濡れる紫陽花。真夏の日差しを浴びる向日葵。秋には秋桜、冬なら山茶花……日本では四季の移ろいを、いろいろな花々や植物が教えてくれます。

それは自然豊かな野山に限ったことでなく、なにげない町の中の、誰かが丹精込めて造った庭からも感じ取ることができます。記憶を頼りに沈丁花の咲く庭を探していた高校生・航大が出会った少し無愛想な大学生・拓海。その拓海が守っていた祖母の庭も、きっとそんな季節の佇まいを感じさせてくれる庭だったのでしょう。

植物を通じて出会い、植物にまつわるいくつかの「事件」を解き明かす航大と拓海の物語、『勿忘草をさがして』。ミステリであると同時に、謎と向き合いながら成長していく2人を描いた青春小説でもあります。

「鮎川哲也賞」優秀賞受賞作として本作を刊行したばかりの真紀涼介さんに、これから季節を迎える勿忘草をはじめ、花々の香りに包まれるような読書体験が楽しめそうなこの作品についてお話を伺いました。

植物や園芸に関する本が自宅にたくさんあったので、資料集めが楽で助かりました

――今回の『勿忘草をさがして』について、これから読む方へ、どのようなお話かをお教えいただけますでしょうか。

とある出来事をきっかけに鬱屈した日々を過ごすようになった高校生の森川航大が、植物を愛する青年、園原拓海と出会うところから物語は始まります。

拓海と交流を深めるうちに、航大は次第に植物への興味を持つようになっていき……といった感じの、植物を題材とした全五話の連作ミステリです。

――この作品が生まれたきっかけを教えていただけますでしょうか。

父と祖母がガーデニングを趣味としていて、昔から自分もよく庭仕事の手伝いをしていました。

その際に二人から教えてもらった植物の知識が面白く、ミステリとして書いたら楽しそうだなと思ったのが始まりです。

植物や園芸に関する本が自宅にたくさんあったので、資料集めが楽で助かりました。

それと、実際にガーデニングをしている人たちからすぐに話を聞ける環境も、執筆する上でありがたかったです。

ミステリには騙される快感というものがありますが、探偵役よりも先に謎を解く快感というものもあると思います

――ご執筆にあたって苦労されたことや、当初の構想から変わった部分など、また受賞から刊行に向けての改稿作業中などで、なにかエピソードがありましたらお聞かせください。

本作を書くにあたって、初めてしっかりとプロットを組み立ててから執筆を始めてみたのですが、これが非常にやりやすかったです。

細かい修正はいくつかありましたが、ほとんど最初に書きたかったものをそのまま書くことができました。

改稿作業中の苦労といわれて真っ先に思い浮かぶのは、本作の四話目となる『ツタと密室』のことです。

この『ツタと密室』は、編集部の方々と打ち合わせをさせていただき、単行本化にあたって書き下ろしたものなのですが、これがとにかく大変でした。

「ミステリ要素の強い一編を」ということで考え始めたのですが、植物という題材の都合上、季節によって登場させられる植物が限られるなどの制限もあって、物語の大まかなイメージすら掴めない日々が続きました。

ただ、ひとつアイデアが浮かんでからは早かったです。それまで悩んでいたことが嘘のように、あっさりとプロットを組み立てることができました。

火事場の馬鹿力ってあるんですね。プロットを送る締め切りが近付いていたので、本当にホッとしました。

結果として満足のいく作品を書き上げることができたので、楽しんでいただけますと幸いです。

――どのような方にオススメの作品でしょうか? また、本作の読みどころも教えてください。

日常の謎や青春ミステリが好きな方はもちろん、ガーデニングを趣味としている方や前向きな物語が読みたいという方にもおススメしたいです。

読みどころは、やはり植物が絡む謎の部分です。ミステリには騙される快感というものがありますが、探偵役よりも先に謎を解く快感というものもあると思います。

登場人物たちと一緒に謎を解きながら読み進めていただけると嬉しいです。

まず書きたいシーンを思い付いて、そこから話を広げていくことが多いです

――小説を書くうえで、いちばん大切にされていることをお教えください。

小説の構想を練るときは、まず書きたいシーンを思い付いて、そこから話を広げていくことが多いです。

私にとって、『書きたいシーンを書くこと』は小説を執筆する上で最大のモチベーションとなっているので、そこは妥協したくないところです。

文章の読みやすさ、登場人物たちの会話や行動が不自然ではないか、話が間延びしていないか等々、執筆する上で注意していることはたくさんありますが、こだわりと呼べるほどのものは特にありません。

――最後に読者に向けて、メッセージをお願いします。

ミステリとしても青春小説としても、楽しいものが書けたと思います。

少しでも興味を持っていただけましたら、お手に取っていただけますと幸いです。

『勿忘草をさがして』をどうかよろしくお願いいたします。

Q:最近、嬉しかったこと、と言えばなんでしょうか?

お店で食べたお茶漬けが美味しかったこと。

応援している地元のJリーグチームが勝利したこと。

ゲームの『オクトパストラベラー2』が面白かったこと。

Q:ご自身は、どんな小説家でありたいとお考えですか?

『締め切りを守る小説家』でありたいです。

Q:おすすめの本を教えてください!

■『ラッシュライフ』伊坂幸太郎(新潮社)

■『優しい死神の飼い方』知念実希人(光文社)

■『群青ロードショー』半田畔(集英社)

3冊とも大好きな作品です。


真紀涼介さん最新作『勿忘草をさがして』

『勿忘草をさがして』(真紀涼介) 東京創元社
 発売:2023年03月30日 価格:1,870円(税込)

著者プロフィール

真紀涼介(マキ・リョウスケ)

1990年、宮城県生まれ。「ジャンプ小説新人賞2018テーマ部門」にて銀賞を受賞。2022年に「想いを花に託して」で「第32回鮎川哲也賞」優秀賞を受賞し、改題・改稿の上本書として刊行。

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