小説投稿サイト『ステキブンゲイ』で2021年2月からはじまったリレー小説企画「100回継ぐこと」。高校で出会ったひと組の男女が10年以上にわたって愛を育む姿を、ふたりの往復書簡の形で100人の執筆者が書き繋ぎ、2022年3月に無事完走した人気企画でした。
それから1年。企画者である映画監督・作道雄さんの手により、『Love Letters 〜100回継ぐこと〜』のタイトルで書籍化され、このたび刊行されました。
映像作品の脚本も手掛ける作道さんが、おなじく脚本家仲間である伊吹一さんの手を借り、大幅な加筆も行われて実現した今回の書籍化について、作道さんにお話を伺ってみました。
手紙のやり取りという、時代の流れと逆行したちょっと古風なところも、この作品の魅力なのではないかと思っています
――今回の『Love Letters 〜100回継ぐこと〜』について、これから読む方へ、内容をお教えいただけますでしょうか。
金澤奈海と佐藤巽の、2人が交わした手紙などから構成される、往復書簡式の小説です。
受験や就職など生活環境の変化、また東日本大震災やコロナ禍に翻弄されながらも、恋を育んでいく男女の青春を描いています。描いているのは、時事ネタも合わさってイマドキの恋愛です。けど、手紙のやり取りという、時代の流れと逆行したちょっと古風なところも、この作品の魅力なのではないかと思っています。
――「100人での執筆者で繋ぐリレー小説」として企画から携わってらっしゃるのですが、この作品が生まれたきっかけを教えていただけますでしょうか。
『ステキブンゲイ』という小説投稿サイトが出来た当初、僕も小説を投稿させていただいていました。そこで、書き手の方々とたくさん繋がって。皆さんで一緒に作品作りをする機会はないかなと思ったのが一番最初です。そこでリレー小説というのを思い付いたわけですが、どんな小説なら実現可能かとまた考えた時に、「往復書簡式」だ、となりました。僕自身、脚本家として、地の文を書くのに抵抗があっても、台詞ならば書けるかもしれないとも思いましたし、全文手紙の「往復書簡式」でいこう! と。
参加くださる方々の熱意と愛は感じていましたし、感謝の気持ちでいっぱいでした
――1年以上にわたる連載企画となったわけですが、苦労されたことや、当初の構想から変わった部分など、本作連載時のエピソードをお聞かせください。
1人につき3~4日のペースで書いていただきました。連絡が大変でしたね。
書いていただく内容は大まかに決めた上でご相談していくのですが、オファー・執筆いただいたもののチェック・もっと良くなるところがあればリクエストさせていただく、といった手順を、そのペースで1年間、100人に続けたので、大変でした。
正直なところ、40番台と70番台あたりは精神的にキツかった記憶が……それでも、参加くださる方々の熱意と愛は感じていましたし、感謝の気持ちでいっぱいでした。おかげで1年間企画を回し続けることが出来たように思います。
――ご自身も執筆者として参加し、書籍化に際しては著者として、全体をひとつの作品として再構築するための加筆も手掛けられていますが、その点でのご苦労や、連載中には気づかなかった発見などはありましたでしょうか?
まずは全体の文体を整えつつ、新しく思いついたアイデアを加えていきました。その際、脚本家仲間の伊吹一さんという方に大いに手伝っていただきました。伊吹さんの手によって書き直していただいたところもかなり多いです。終盤、「ラッコ」が出てくるのですが、それは伊吹さんのアイデアです。また、序盤に「リブロースステーキとあまおうパフェ」のネタが出てきますが、それも伊吹さん。中盤で、それを食べに行こうとする流れを作ったのは、僕です。伊吹さんと僕でリレーをしながら思いついた箇所が多々あります。
青春小説ならではの甘酸っぱさや苦さ、爽やかさも詰まっています
――どのような方にオススメの作品でしょうか? また、本作の読みどころも教えてください。
誰かの日常、しかもきわめてプライベートな、パーソナルな部分を覗き見てしまうような面白さが、往復書簡式小説の醍醐味だと思います。
本作は、それを味わっていただけると思いますし、青春小説ならではの甘酸っぱさや苦さ、爽やかさも詰まっています。2人の人生の成長譚としても読めるかもしれません。
――最後に読者に向けて、メッセージをお願いします。
半崎信朗さんに作っていただいた装幀が最高なんです。なんだか、幸せな気持ちになっちゃうデザインです。
お部屋にぜひ、置いてみてください。春が舞い込んで来ますよ。
Q:最近、嬉しかったこと、と言えばなんでしょうか?
カルボナーラを愛してやまないのですが、新たにお気に入りのカルボナーラを見つけました。「カリーナイルキャンティ」というお店です。
Q:今回はご執筆、本来は映像作品の制作を手掛けられているわけですが、ご自身はどんなクリエイターだと思いますか?
なにか、仕掛けを用意したいと常に思っています。
それは、本作のような企画性だったり、話にオチが用意されていたり。見ていただく人、読んでいただく人を、ワクワクしてもらいながら、知らず知らずのうちに心の深いところにお連れできるような、そんなクリエイターになりたいです。
Q:おすすめの本を教えてください!
■『十角館の殺人』綾辻行人(講談社)
中3で読んで、そのオチにびっくりして頭が真っ白になりました。この衝撃が無ければ、人生変わっていたと思います。
■『風の歌を聴け』村上春樹(講談社)
折に触れて読み返す、バイブルです。
■『正義と微笑』太宰治
全文、ある青年の日記で構成されている小説です。
大学1年生、入学したての春に読み、あまりにも好き過ぎて、最後の数ページをノートに書き起こしました。当時のその体験がなければ、今回の企画は思いついていなかったように思います。
思わせ振りを捨てたならば、人生は、意外にも平坦なところなんですよ(笑)。
※編集部註・新潮文庫『パンドラの匣改版』に収録のほか、各社より刊行されています
作道雄さん最新作『Love Letters 〜100回継ぐこと〜』
発売:2023年03月14日 価格:1,870円(税込)
著者プロフィール
作道雄(サクドウ・ユウ)
1990年、大阪府生まれ。京都大学法学部卒業。大学在学中に「劇団月面クロワッサン」を結成し、脚本と演出を務める。2014年に映像プロダクション『株式会社クリエイティブスタジオゲツクロ』を設立し、テレビ・WEB・映画など映像制作を手掛ける。2018年に長編映画『神さまの轍―CHECKPOINT OF THE LIFE―』で商業映画監督デビュー。そのほか映画『いのちスケッチ』『光を追いかけて』『アライブフーン』、NHK テレビドラマ『ペットにドはまりして、会社辞めました』などで脚本を手掛ける。2022年に監督・脚本を務めた VR アニメーション『Thank you for sharing your world』が「第79回ヴェネチア国際映画祭」のイマーシブ部門(コンペティション)にノミネート・正式招待される。同作は「第17回ブカレス ト・アニメーション国際映画祭」において最優秀VR短編賞を受賞した。