ロストジェネレーション――バブル崩壊後の大不況の煽りを受けた就職氷河期に世に出ざるを得なかった、日本の「失われた世代」。

校内暴力が吹き荒ぶ中で過ごし、受験戦争を切り抜けた末に就職難の洗礼を受けただけでなく、長引く不況に将来の見通しすら不透明な、そんな貧乏くじを引かされたような人生。デビュー以来、働く人々の現実から目を逸らさずに、それでいてエンタテインメントとして楽しめる小説作品を生み出してきた風戸野小路さんが、発売したばかりの新作『ロストジェネレーション 不動産営業マン・小山内行雄の場合』で描くのは、タイトル通りまさにその世代のひとりとして生き抜いてきた主人公・行雄の物語です。

社会の状況だけでなくもっと個人的な、家族や仕事においても大小さまざまなピンチが行雄に降りかかります。しかし普通に生きるだけでハードモードだった人生の中で、妻と娘2人を守って暮らしている「いま」があることを自信の拠りどころに、行雄は胸を張って立ち向かっていくのです。

どこにでもいるようなサラリーマンの中の優しさと強さを描いた風戸野さんに、お話を伺いました。

市井に生きる人々を題材にした小説をもう少し深掘りした形で書きたいと思っていた

――今回の『ロストジェネレーション 不動産営業マン・小山内行雄の場合』について、これから読む方へ、どのようなお話かをお教えいただけますでしょうか。

どこにでもいそうな中年オヤジ。とかく虐げられがちな中年オヤジ。それが、本作の主人公である小山内行雄です。「ロスジェネ世代」の行雄は、会社や時代に翻弄されながらも、家庭を守りながら毎日をどうにか送っています。そんな行雄の前に現れる数々の難題に、仲間と家族と共に奮闘するエンタメ小説です。

――この作品が生まれたきっかけを教えていただけますでしょうか。

きっかけはデビュー作である『ラスト ワン マイル』を読んで頂いた祥伝社さんからのお声掛けでした。働く人が主人公のエンタメ小説を! ということでご依頼を頂きました。市井に生きる人々(私自身もそうですが)を題材にした小説をもう少し深掘りした形で書きたいと思っていたので、お話しを頂いたときはとても嬉しかったのを記憶しています。

ゆとり世代の伊澤は、行雄とは真逆の位置にいるようで、どこか似たような境遇の人物

――ご執筆にあたって、苦労されたことや、当初の構想から変わった部分など、なにかエピソードがありましたらお聞かせください。

最初に編集者さんに提出させて頂いたプロットを再読してみると、紆余曲折を経たのが行雄の相棒である伊澤だと思います。元銀行員でゆとり世代の伊澤ですが、行雄とは真逆の位置にいるようで、どこか似たような境遇の人物です。彼の着地点については担当の編集者さんのご意見などを頂き、最終的に安着できたのではないかと思っています。

――どのような方にオススメの作品でしょうか? また、本作の読みどころも教えてください。

私自身もそうなのですが、ロスジェネ世代の男性にスポットライトをあてた小説ですので、ロスジェネ世代もしくは親がロスジェネ世代の方におススメでしょうか。ただ、サブタイトル「不動産営業マン小山内行雄の場合」とあるように、行雄の生き方に賛否はあるかと思いますが、そこは一つの生き方としてご容赦頂ければと思います。

何度読んでも著者である私自身が、泣ける、あるいは笑える、そんな小説を書かなければ

――小説を書くうえで、いちばん大切にされていることをお教えください。

作品を仕上げるにあたって念入りに推敲しますが、何度読んでも著者である私自身が、泣ける、あるいは笑える、そんな小説を書かなければと常に思っております。「風戸野の小説はグスンとしてしまう、クスッとしてしまうので人前では読むのをちょっと憚られるんだよな」、そんな物語をお届けできればと筆をとっております。

――最後に読者に向けて、メッセージをお願いします。

先ず、この場を借りてですが、たくさんの物語の中から私の作品を手に取って頂いた皆様に心から感謝を申し上げたいと思います。ありがとうございます。

本作品も、これまでのものと同様に、「真面目に正直に働く人」に焦点をあてたものです。理不尽で不条理ばかり。もしかするとそれが社会の一面なのかもしれません。ですが、そんな中でも正しく逞しく生きる人に明かりが灯せれば幸いです。

Q:最近、嬉しかったこと、と言えばなんでしょうか?

「ナニヨモさんよりこのような機会を頂いたことです!」。

え! それ以外にですか? えーと、今現在、書いている作品のラストが固まったことでしょうか。

Q:ご自身は、どんな小説家だと思われますか?

肩身の狭い小説家でしょうか? 家族からは「部屋に籠って好きなことをしている」と、後ろ指をさされています。

Q:おすすめの本を教えてください!

■『世に棲む日日』司馬遼太郎(文藝春秋)

■『行人』夏目漱石(新潮社)

■『ミー・ビフォア・ユー きみと選んだ明日』ジョジョ・モイーズ・著/最所篤子訳(集英社)


風戸野小路さん最新作『ロストジェネレーション 不動産営業マン・小山内行雄の場合』

『ロストジェネレーション 不動産営業マン・小山内行雄の場合』(風戸野小路) 祥伝社
 発売:2023年05月11日 価格:924円(税込)

著者プロフィール

風戸野小路(カザトノ・コミチ)

神奈川県出身。2020年「ノベル大賞」で最終候補作品となった『ラスト ワン マイル』で2021年にデビュー。近著に『アルマジロと銃弾』(共に集英社オレンジ文庫)がある。

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