2020年に本書収録の「リモート」で「第1回かぐやSFコンテスト」で審査委員特別賞を受賞すると、それ以降数々の文芸コンテストでの受賞を繰り返し、一躍注目を集めることとなった坂崎かおるさん。

雑誌掲載やアンソロジー参加で作品を発表し続けてきた坂崎さんが、いよいよ初の単著書籍となる作品集『嘘つき姫』を刊行しました!

SF、奇想、百合、純文学……多彩なジャンルを網羅しながら、作品集としての個性をも際立たせる鮮烈なデビュー書籍を発表したばかりの坂崎さんに、お話を伺ってみました。

作品全体を通して「嘘」「本物」「偽物」という淡い対立が通底するテーマとなっています

――今回の『嘘つき姫』について、これから読む方へ、どのような作品かをお教えいただけますでしょうか。

全9篇の短篇からなるこの作品集は、私が書き始めた3年間の間に受賞したものや寄稿したものに、書き下ろしを加えたものになります。『嘘つき姫』というタイトルは、その中の一篇からとったものではありますが、作品全体を通して「嘘」「本物」「偽物」という淡い対立が通底するテーマとなっています。読む前と後で、世界の風景が少し変わるような、そんな読み味を目指して書きました。

――ここに収録されている作品たちが生まれたきっかけなどをお教えいただけますか。

短篇の場合は、ワンアイデアをもとに話を広げていきます。例えば、冒頭の「ニューヨークの魔女」は、19世紀に実際にあった電気椅子処刑の本を読んでいるときに、魔女と組み合わせることを思いつきました。基本的にプロットを立てないので、書きながら、物語の展開や、ラストを考えていきます。

私のような経緯で本が出せるということも、ひとつのロールモデルになれればと思います

――これまでWEBや多数の雑誌掲載、アンソロジーへの参加などで作品を発表されてきていますが、今回初めての作品集書籍としての刊行についてお気持ちをお聞かせください。

幸運なことに、いくつかの賞で受賞ができましたし、ご依頼もいくつかあって、商業誌やアンソロジーに寄稿をしてきました。ただ、短篇作家の常で、なかなかそれをまとめて一冊の本にするというのは難しいものだなと実感をしていたところでしたので、このようなお話をいただいたのは嬉しかったです。また、デビューというと長篇の賞ばかりが多い中で、私のような経緯で本が出せるということも、ひとつのロールモデルになれればと思います。

――本作は、特にどのような方にオススメの作品でしょうか? 読みどころなども含めて教えてください。

自分のベストアルバム的な作品集ですので、どんな方にも「刺さる」一篇があるのではないか、と思います。また、短いものは3000字程度ですので、久しぶりに小説を読む方もよいのではないでしょうか。SF、奇想、百合と、いろいろなジャンルにまたがっていて、どれから読んでいただいてもよいと思いますが、やはり冒頭の「ニューヨークの魔女」を最初に読んで、この作品集の雰囲気をつかんでもらえるとうれしいです。

読み終わったあとに、もう一度最初に戻りたくなるような物語を目指しています

――小説を書くうえで、いちばん大切にされていることをお教えください。

読み終わったあとに、もう一度最初に戻りたくなるような物語を目指しています。なかなか難しいですが、なにかの折に読み返してもらえるような、そんな小説を書いていければと思っています。

――最後に読者に向けて、メッセージをお願いします。

まずはどれでもいいので、ひとつ手にとって読んでもらえればと思います。おもしろい、と感じてもらえるような作品を書けた自信はあるので、どれかひとつでも、気に入ってもらえたらうれしいです。

Q:最近、嬉しかったこと、と言えばなんでしょうか?

本が出たときに、多くのウェブ上の執筆仲間がお祝いしてくれたことです。特に周りに小説を書く人はおろか、読む人もいなかったので、こういう人たちと一緒に活動できたことはうれしかったです。

Q:おすすめの本を教えてください!

せっかくですので、推薦文をいただいた先生方の作品を三作。どの方も、とてもすばらしい作品を書きますし、影響を受けた作家・翻訳家です。

■『掃除婦のための手引き書』著/ルシア・ベルリン 訳/岸本佐知子講談社)

まず、岸本佐知子さんが翻訳しているルシア・ベルリン『掃除婦のための手引き書』(講談社)。初めに読んだときにとても衝撃を受けました。主人公の女性たちの生の声が、そのまま響いてくるかのような文章で、実際に自分で声に出してそのテキストを確認する、ということもしました。原文はもとより、岸本さんの翻訳もすばらしいのだと思います。短篇集ですが、特に「さあ土曜日だ」が好きです。執筆に行き詰まると、この本を読み返し、自分の文章の強度をはかろうとしています。

■『穴』小山田浩子(新潮社)

小山田浩子さんは、芥川賞受賞作『穴』(新潮社)がやはり好きです。小山田さんは、異界というか、日常と少しずれた世界を、その「ずれ」が決して突飛ではない、今そこにある「現実」として描くことが卓越している作家です。小山田さんの描く主人公は、どれも現実の受け入れ方が諦めに近いような感覚をもつのですが、本作の主人公である松浦あさひは、それを完璧に諦めるわけでも、受け入れるわけでもなく、だからといって曖昧なわけでもなく、流れる川に浸っているような感覚を覚えます。穴の中で過ごす描写は、こちらの肌に迫ってくるようです。

■『回樹』斜線堂有紀(早川書房)

斜線堂有紀さんは、本当にたくさんの作品を発表されていますが、常に最新作がいちばんおもしろい、ということを地で行っているような作家です。日本SF大賞の最終候補にもなった『回樹』(早川書房)も、奇抜な設定の短篇がそろっていますが、どれもそれだけでなく、人間同士の思いと思いのどうしようもない絡まり合いが、ある意味気持ちよく描かれています。本書の中では、やはり表題作の「回樹」が、そのどうしようもなさが描かれていて好きです。


坂崎かおるさん初作品集『嘘つき姫』

『嘘つき姫』(坂崎かおる) 河出書房新社
 発売:2024年03月27日 価格:1,870円(税込)

著者プロフィール

坂崎かおる(サカサキ・カオル)

1984年、東京都生まれ。2020年に「リモート」で「第1回かぐやSFコンテスト」審査員特別賞、2022年に「嘘つき姫」で「第4回百合文芸小説コンテスト」大賞など、数々のコンテストでの受賞・入賞歴を持ち、雑誌掲載やアンソロジー参加等の執筆活動を行う。初の単著として本書を上梓。

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