未知の巨大生物〈徘徊者〉が出現するようになって約120年が経った近未来の地球。〈徘徊者〉による侵略からの防衛拠点都市である〈ウィンズテイル〉は、その実、老い先短い高齢者ばかりが集められた町で、組織された自警団〈町守〉が、〈徘徊者〉が現れる〈黒錐門〉を見張るという、捨て駒のような役割を担わされていた――。

そんな〈ウィンズテイル〉を舞台に、町守見習いの少年・リンディの活躍を描く、門田充宏さんの新作『ウィンズテイル・テイルズ 時不知の魔女と刻印の子』が発売されました。

頼れる相棒であるシェパードのコウガ、そして特殊能力を持つ少女・メイリーンとともに人類存亡をかけた戦いに挑むリンディの物語。圧倒的な迫力の近未来SF×バトルファンタジーの、はじまりの物語である本作ついて門田さんにお話を伺いました!

ひとつのシーンを思いつき、そこからこのシーンは何なのか、登場している人物は何者なのかなどと考えながら物語を広げていくことが多いです

――今回の『ウィンズテイル・テイルズ 時不知の魔女と刻印の子』について、これから読む方へ、どのような作品かをお教えいただけますでしょうか。

突如始まった謎の存在による侵略で文化・文明の大部分を喪失した世界で繰り広げられる、少年少女を主人公としたサイエンス・ファンタジーです。侵略者の正体はもちろん目的もわからず意思疎通もできないという状況下で、残された僅かな技術と知識、出所不明の異能などを使って主人公たちは次々に起きる問題に向き合っていくことになります。

困難な状況でも諦めず、自分たちが持っているものをフルに使って立ち向かおうとする人々の姿をひとつの軸とし、謎の侵略者の正体や目的、世界を元の状態に戻せるのかといった謎をもうひとつの軸として、それらがうまく相乗効果を発揮した、読み応えがありかつ楽しめる物語を目指して書き上げました。

――この作品が生まれたのはどんなきっかけだったのでしょうか。

私の場合、ひとつのシーンを思いつき、そこからこのシーンは何なのか、登場している人物は何者なのかなどと考えながら物語を広げていくことが多いです。『ウィンズテイル・テイルズ』の場合は、滅びかけた町で老女と暮らしている少年の元に、足の悪い少女と保護者の紳士が飛行船でやってくる――というシーンでした。

なんの前触れもなく突然降ってきたこの場面から、登場人物たちは何者なのか、彼ら彼女らがいるのはどんな世界なのかと探るようにして物語の全体像を掴んでいきました。

設定や展開にSF的な発想を込めている一方、ストーリー自体は少年少女が困難な状況に立ち向かう冒険活劇かつ成長譚となっています

――ご執筆にあたって、苦労されたことや、当初の構想から変わった部分など、なにかエピソードがありましたらお聞かせください。

デビュー作以来“犬SFのひと”を自称しているのですが、その割に最近犬が出てくる話を書いていない……ここは一発活躍させなければ! と考えてメインキャラクターとして犬を追加した結果、当初想定していたのよりアクションシーンがだいぶ増えてしまいました。

また、物語を書くにあたって侵略者の正体をはじめ色々と考えて設定を作っていったのですが、それをどう本編に反映させるかについてははかなり悩み、また試行錯誤を重ねることになりました。

――本作は、特にどのような方にオススメの作品でしょうか? 読みどころなども含めて教えてください。

SFと言うと何か難しそう……と思われてしまうこともあるのですが、本作は設定や展開にSF的な発想を込めている一方、ストーリー自体は少年少女が困難な状況に立ち向かう冒険活劇かつ成長譚となっています。どちらが好きな方にも楽しんでいただけるのではと思っています。

また、主人公の周りの大人たちは、実年齢は125歳なのに身体は12歳のままという主人公の義母を始め、癖が強めの人物ばかりです。可愛くかっこよく大活躍する犬をはじめ、お気に入りのキャラクターを見つけていただけたら嬉しいです。

ほんの少しだけであっても、読んでくれた方の力になれたらといつも思っていますし、そうした作品を書き続けたいと考えています

――小説を書くうえで、いちばん大切にされていることをお教えください。

フィクションには、困難な現実を生きる助けになりうる力があると信じています。私の書いた作品が、ほんの少しだけであっても、読んでくれた方の力になれたらといつも思っていますし、そうした作品を書き続けたいと考えています。

――最後に読者に向けて、メッセージをお願いします。

とにかく楽しんでいただけたらとても嬉しいです。また、続けて刊行される続刊『ウィンズテイル・テイルズ 封印の繭と運命の標』ではさらに尖ったキャラクターが登場するとともに、侵略者や主人公たちに与えられた謎の異能の正体に迫っていくことになりますので、こちらも是非併せてお読みください。

Q:最近、嬉しかったこと、と言えばなんでしょうか?

我が家に二匹いる愛犬の、年長の方が無事11歳を迎えたことでしょうか。キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルという犬種で、僧帽弁閉鎖不全症を患っている子が多いのですが、うちの子もそうなんです。このまま悪くならず、いつまでも元気でいて欲しいと思っています。

Q:ご自身はどんな小説家だと思われますか?

デビューしたばかりのころ「ウェットだけどロジカル」と評されたことがあるのですが、それを目にしたとき思わず膝を叩きました。小学二年生の時の通知表に「理屈っぽすぎる」と書かれたことが未だに忘れられないのですが、どうやらそのまんま大人になったようです。

Q:おすすめの本を教えてください!

悩んだのですが、この二年ほどで深く印象に残った本を二冊と、これから出るのですが多くの方に手に取っていただきたい一冊を紹介したいと思います。

■『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』長谷敏司(早川書房)

第44回日本SF大賞の受賞作品です。事故で失った右足の代わりにAI制御の義足を使うことになったコンテンポラリーダンサーが、人間のダンスとロボットのダンスの対比から人間性の手続き(プロトコル・オブ・ヒューマニティ)を追い求めていく……という物語です。論理と身体と感情によって“人間”に這い進むようにして迫っていく物語は、意識して息継ぎをしないと押し潰されてしまいそうな感覚に襲われるほど圧倒的です。

■『わたしたちの怪獣』久永実木彦(東京創元社)

表題作で史上初の短編での日本SF大賞最終候補に残り、翌年一冊にまとまったこちらで再び日本SF大賞の最終候補に残ったという事実だけでその素晴らしさが伝わるのではないでしょうか。表題作を初めて読んだときの、あっという間に物語に取り込まれてしまった感覚が未だに忘れられません。書き下ろしの「『アタック・オブ・ザ・キラートマト』を観ながら」も本当に素晴らしく、琴線を鷲掴みにされました。

■『感傷ファンタスマゴリィ』空木春宵(東京創元社)

『感応グラン=ギニョル』で多くの読者に衝撃と忘れ難い痕を残した空木春宵さん、待望の第二作品集です。私は「感応グラン=ギニョル」の雑誌発表時からずっと空木さんを推し続けているので、ようやく新刊が出るのが嬉しくて嬉しくて仕方ありません。半数は短編での発表時に読んでいますがそれらをまとめて再読できるのも楽しみですし、それ以上に早く未読の新作が読みたいです……。


門田充宏さん最新作『ウィンズテイル・テイルズ 時不知の魔女と刻印の子』

『ウィンズテイル・テイルズ 時不知の魔女と刻印の子 』(門田充宏) 集英社
 発売:2024年04月19日 価格:968円(税込)

著者プロフィール

門田充宏(モンデン・ミツヒロ)

1967年北海道生まれ。2014年「風牙」で「第5回創元SF短編賞」を受賞しデビュー。著書に『追憶の社』『記憶翻訳者 いつか光になる』『記憶翻訳者 みなもとに還る』『蒼衣の末姫』などがあるほか、5月21日には本作の続刊となる『ウィンズテイル・テイルズ 封印の繭と運命の標』も刊行が予定されている。

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