■前編はこちら
■中編はこちら
あるあるだろうと思っていま話したんですけど、なんかあんまりあるある感がなくてすごくショック(斜線堂)
――今日は恋愛小説っていうジャンルについていろいろ伺おうと思ってはいたんですけど、昨日も斜線堂先生と、「ミステリとかホラーだったらある程度、型と言うかフォーマットみたいなものがあるような印象があって、恋愛小説っていうジャンルは(それがないから)ちょっと難しいよね」っていうお話が出たりしたんですよ。
中村航(以下・中村):確かにね。古典の型みたいなのはありますけどね。「出会っていろいろあって、最後はどっちかが去っていく」みたいなのはありますけどね。
――恋愛小説を書かれる方おひとりおひとりに、型があるというか、そういうものなのかなあ、と。
中村:作家もそうですけど、やっぱり恋愛ってみんな違うっていうことなんじゃないですかねえ。
斜線堂有紀(以下・斜線堂):そうかもしれない。それはすごくあるかもしれないですねえ。
中村:話を聞くと、みんなちょっと異常だったり、隠してたりしますもんね。異常行動したことはみんなあるんですよね?
斜線堂:ある(笑)。
中村:斜線堂さんは、なにかここで言えるものは、ひとつくらいないんですか?
斜線堂:私はでも、少しでも相手に好感を持ってもらいたくて、LINEが来るじゃないですか、その返信の頻度を分単位でそろえてたことがあります。
中村:(笑)?
斜線堂:あの、「LINEの返信間隔が自分たちは合いますよ~」っていうことをアピールするために、つきあいはじめるまで、1分単位でそろえてたことがあるんです(笑)。
中村:そろえるってどういうことですか?
斜線堂:私がLINEを送って57分後に返ってきたとしたら、私も57分後に返すんです。
中村:ええええ~(驚愕)!?
斜線堂:いや、これ異常行動かなあ(笑)。もしかしたら異常行動だったかもしれない。なんかマイルドなやつを話そうと思ったら、異常行動だったのかもしれない(笑)。
中村:でも、精神力が必要ですよね。
斜線堂:タイマーをかけておくんですよ(キッパリ)。
中村:いや、それは異常行動ですよ(笑)。
斜線堂:異常行動なのかなあ(笑)。
中村:(間隔が)1日とかだったらどうするんですか?
斜線堂:1日だったら、同じくらいかけて。「自分たちは気が合いますよ」っていうことを演出していたことがあります。功を奏したのかはわからないんですけど。
中村:昼夜の問題とかがあるじゃないですか。たとえば5時間ぶりに夜の11時に来たら、朝4時に送らなきゃいけないじゃないですか。タイマーかけるんですか?
斜線堂:そうです、タイマーかけるんですよ、5時間後に。「あ、ごめん。寝てた?」みたいな。
中村:異常行動(爆笑)!!
斜線堂:異常行動かなあ(笑)。
中村:異常行動っていうか、かなり健気ですよねえ。
斜線堂:健気、だなあ。
中村:伝わらないでしょう、でも(笑)。
斜線堂:気づかれないですかね、基本的に(笑)。
中村:あとで気づいたらゾッとするやつ(爆笑)。
(一同爆笑)
斜線堂:(爆笑)。これホラーみたいな話になってきたかも。
――これは続編いけますね。
斜線堂:(笑)。これは、みんなあるあるだろうと思っていま話したんですけど、なんかあんまりあるある感がなくてすごくショックを受けてます。
中村:(笑)。
斜線堂:でも、わかんないですね、人間っていうのは。私もいま思えば、異常行動だったかもしれないって思います。
自分にとってちゃんとリアルなものだったら、何人かにひとりにはちゃんと響くだろうって考えてます(中村)
――ご覧になっている方からいくつか質問が来てるので、いいですか?
斜線堂:はい。
――「中村先生の『100回泣くこと』が大好きです。斜線堂先生の『ゴールデンタイムの消費期限』の、映画監督の子がとても好きでした。おふたりのような小説家になることを夢見ています。現在は投稿サイトのようなところで投稿しながら、新人賞に出す予定です。どうしたら人の心に届くような作品が書けるでしょうか」ということなんですが。
中村:斜線堂さんは、デビューされたのは2017年ですよね。
斜線堂:はい、そうです。
中村:それはどういうきっかけで?
斜線堂:あの、高校3年生のときに「文藝賞」に応募したら、最後の最後まで行ったんですよ。
中村:最終選考ですか?
斜線堂:最終選考まで行って、そのときに「いけるのかも」って思って、そこから「じゃあ小説家になるぞ」って方向に人生がシフトしちゃったんですよ。
中村:文藝賞の最終選考って、それはすごいですよ!
斜線堂:でも、それが最後の輝きだったなっていう。それから全然で、「あれ?」ってなって。
中村:ちょっと河出書房新社の人、取り逃してるんじゃないですか(笑)。
斜線堂:それで小説家になろうと思って、でも大学入ってから、正直ちょっとダラダラしていたんです。でも本格的に留年が見えてきたときに、就活をまったくしてなかったので「夢を叶えるならいましかないかも」と思って、すごくいっぱい応募したんです。
中村:それでデビューに至ったのか、へえ~。じゃあ、質問のような「人の心を打つ小説」というと……。
斜線堂:人の心を打つ小説の書き方はわからないんですけど、小説家になるだけだったら、「月に1回賞に応募しよう」っていうのが、いちばん近いかなって思います。
中村:ああ、量を書ける人って、すごく限られるんで。僕も書けないんですけど。量を書ける人って、見る見るうまくなっていくんですよね。
斜線堂:そうなんです。
中村:それもひとつ答えとしてあるかもしれないですね。月に1本書く、か。
斜線堂:心を打つ小説って、どうやって書くんですか?
中村:えっ!? それは僕が答えるんですか(笑)。
斜線堂:(笑)。難しいほうを丸投げしてしまった。
中村:心を打つ小説……。まあ、普遍的な感情ってあると思うんですけど、共感とかって、僕はリアリティだと思ってるんで、自分にとってのリアリティと他人にとってのリアリティって違うけど、でも自分にとってちゃんとリアルなものだったら、何人かにひとりにはちゃんと響くだろうって考えてますけどねえ。「これ嘘じゃん」って自分で思ってるのは、やめたほうがいいというか。だから、やっぱり絶対全部は共感してもらえないですよね。だから僕は『愛じゃないなら~』を本当におもしろいと思ったんですけど、中には「いや、そんなことはないんじゃないか」って、登場人物に対して思う箇所もやっぱりある。
斜線堂:はい。
中村:でも信じられないくらい打ち抜かれるところもあったりする。たぶん斜線堂さんにとっては全部リアルだと思うんですね。そういうことかな、と。
斜線堂:なるほど。すごくためになる。私の中でも、「次はそれを意識しよう」みたいな気持ちになりました。
メールのやりとりをしていたんですね。その子からメールが来るととにかくノートに書き写すんですよ(斜線堂)
――「初恋のお話など聞かせてほしいです」という質問も来ていますが。
中村:初恋(笑)? その、ナプキン落とした藤井さんです(笑)。
斜線堂:藤井さん(笑)。
中村:特にエピソードは……あ、あれはなんでだったんだろうなあ、「好きだな」って思ってたらねえ、ウチの近くに引っ越してきたんですよね。「なにかのチカラが俺にはあるのか?」って思いましたけどね(笑)。足の速い人でしたね。斜線堂さんの初恋とかは……ヤバそうですね。
斜線堂:いや、初恋は結構かわいい感じだった。小学4年生のころで、私、初恋は女の子だったんですよ。
中村:あ、はい。
斜線堂:小4のときに私、早めに携帯電話を持たせてもらってたんですよ。その子も携帯を持っていて、メールのやりとりをしていたんですね。私は正直、そのころから狂いが生じてたので(笑)、その子からメールが来るととにかくノートに書き写すんですよ。
中村:(笑)?
斜線堂:それを眺めて幸せな気持ちになっていて。その子だけ着信音を変えていたので、それで毎朝起きてたなあ、っていう日々で。中学校のときも、その子を追って同じ部活に入って、運動神経がいいって思われたくってレギュラーまで上り詰めたっていう、すごい……とんでもないことをしてたな、みたいな。
中村:まあなんか、『愛じゃないなら~』っぽいですね。
斜線堂:まあそうですね、変わらないんでね。
中村:でも「文字にする幸せ」って、たぶんありますよね。
斜線堂:ああ、それはあると思います。
中村:(相手の)名前をいっぱい書いたりしますよね。
斜線堂:書くんですよねえ~(笑)。
中村:メールを……そうかあ、聞いたことはないですけど、それもあるあるなのかもしれないですねえ。
斜線堂:あるあるだと思います。
中村:いや、1000人に1とか10000人に1くらいのあるあるだと思いますけど。
斜線堂:そ、そうですかねえ? あのころは、メールの持ち越しができなかったですからね、機種変のとき。
中村:ああ、それで記録しておくってことで?
斜線堂:そう、それで記録しておいたんですよ、私は。熱いですねえ。小4で私は、その子と自分の小説を書いてましたからね。
中村:夢小説(笑)?
斜線堂:夢小説を(笑)。
――それが原点なんですね?
斜線堂:それ原点なの嫌だなあ(笑)。
中村:でも相手がメールで書いてくることは、他愛もないことなんでしょう?
斜線堂:他愛もないことです。
中村:いや、すばらしいエピソードをいただきました(嘆息)。
斜線堂:なんか全部、若干気持ち悪い(笑)?
――そういうのが、さきほど話に出た「本当の気持ち」というか……。
斜線堂:これが本当の気持ちなの? やだなあ(笑)。
――「恋愛においての異常行動についてお話しされていましたが、ファンの方に過激な愛を向けられたら、どのような心情になりますか?」というのも来てるんですが。
斜線堂:ある程度……まあ、法には触れないでほしいですけど、でも「好きでいてくれるなら、一生小説書きますね」みたいな、覚悟が奮い立つところもありますね。
中村:言葉って、影響力も強いし、説明しきれないところとか、自分の思っていることではない風に伝わることももちろんあって、そういうところで「怖いな」とか「気をつけなきゃいけないな」ってことはいつも思ってるんですよ。でも、書いてしまったことは、しょうがないとも思ってますね。
――ちょっとセンシティブな質問だったかもしれませんね。あと、「メールの書き写し、私もしたことあります」っていうのも来てますね。
中村:あるんだあ~!
斜線堂:よしっ! いる! これは、ある!
中村:あるんだ……。
斜線堂:機種変で消えちゃう時代の、クラウドがないころは。
中村:それ(書き写し)は、残ってたりするんですか?
斜線堂:結構、残ってたりしますね。(見つけると)「あっ!」ってなりますね。大変なことだあ、と思っています。
――正直に気持ちを書くっていうのは、恋愛小説的だなって思いました。ちょっと、それでまた1本、(作品を)お願いします。
斜線堂:はい(苦笑)。
――お時間になってきたので、ひとことずついただきたいと思うんですけど。まずは中村先生から。
中村:はい。今日、はじめましての方も多かったと思うんですけど、ありがとうございました。小説って、語れるのがいいなあってあらためて思いました。特に、作者の人と語れるって……こんな話が聞けるとは思わなかったんですけど、想像を超える話がいっぱい聞けて楽しかったです。僕もこんど小説を出すときは、なんか語りたいなと思ったりしました。
――続いて斜線堂先生からも。
斜線堂:このトークイベントの冒頭らへんで「あんまりボロを出さないようにしたい」って言ったわりに、なんか最後のほうはボロボロだった気がして、いまさらになって正気に戻ってるんですけど。
中村:いいボロです(笑)。いいボロが出たんで大丈夫です。
斜線堂:いいボロ、かな(笑)。でも、すごく楽しかったです。参加してくださったみなさん、いつも小説を読んでくださってるみなさん、本当にありがとうございます。一生、小説を書くので、これからもよろしくお願いいたします。
中村:すばらしい。
――ありがとうございました。
斜線堂:ありがとうございました。
【斜線堂有紀プロフィール】
1993年生まれ。大学在学中の2016年に「第23回電撃小説大賞」のメディアワークス文庫賞を受賞、翌2017年に受賞作『キネマ探偵カレイドミステリー』でデビュー。2021年に『楽園とは探偵の不在なり』が「第21回本格ミステリ大賞」候補に挙がり注目を集める。その他の作品に『死体埋め部の悔恨と青春』『私が大好きな小説家を殺すまで』『コールミー・バイ・ノーネーム』などがある。和ロック音楽プロジェクト「神神化身」で原作・脚本を担当し、書き下ろし小説書籍『神神化身 壱 春惜月の回想』も刊行された。近著に『廃遊園地の殺人』『池袋シャーロック、最初で最後の事件』(電子書籍のみ)など。
Twitter|https://twitter.com/syasendou
【中村航プロフィール】
1969年生まれ。2002年『リレキショ』にて「第39回文藝賞」を受賞し小説家デビュー。続く『夏休み』『ぐるぐるまわるすべり台』は芥川賞候補となる。ベストセラーとなった『100回泣くこと』ほか、『デビクロくんの恋と魔法』『トリガール!』など、映像化作品多数。アプリゲームがユーザー数全世界1000万人を突破したメディアミックスプロジェクト『BanG Dream! バンドリ!』のストーリー原案・作詞など、小説作品以外も幅広く手掛けている。近著に『広告の会社、作りました』など。
中村航公式サイト|https://www.nakamurakou.com/
Twitter|https://twitter.com/nkkou