この度、ⅡⅤ(トゥーファイブ)から新刊を発売された、小説家・藍澤李色さん。
怪談や怖い話が苦手でありながら、何故 “幽霊” を題材にした本作を書こうと思ったのか、そして、本作に込められた想いを語っていただきました!
除霊師だけど除霊ができない、だけど “助”霊はできる主人公!?
──『黄昏公園におかえり』刊行おめでとうございます。表紙のイラストを見ると、バイクに乗っている人や花嫁衣装の女の方……となかなか面白そうな設定が垣間見えますね。
藍澤李色(以下:藍澤):
お話としては、小さい頃、除霊師である父親に目の前で友達を除霊されてしまったことがトラウマとなり、霊力を持っているけれども除霊ができないポンコツな主人公(タカヤ)が様々な幽霊と出会うのですが、彼等に対し、除霊ではなく悩みを聞いてあげたり、未練を解消したりと、“助”霊 をして助けていくという内容になっています。
──“霊を助ける” というのは具体的にどういう感じなんでしょうか?
藍澤 :
霊に未練となっている事を聞いて、それを解消できるように主人公がいろんなことをするという感じですね。
ただ、すんなり成仏してくれない霊ばかりなのですが…… (笑)。
例えば、第二話に出てくる幽霊は、“結婚できなかった事が心残りの幽霊” で、疑似結婚式をしてみたりとか。さっきお話に出た表紙の花嫁姿の人は幽霊です。主人公と犬以外の、表紙にいる人物はみんな幽霊なんです。
──犬が気になりますね (笑)。
藍澤:
見た目がポメラニアンにしか見えないけれど、使い魔の狛犬なんです。
一応、その土地の神様なんですが、信仰があまり集められなくて、小さなポメラニアンの姿になってしまっているという……。
主人公に対しては、師匠のように教えてくれることもありますが、犬としては好き勝手やっている感じです。
新しいテーマのキッカケは、霊感が強い友人の“怖くない怪談”だった!?
──藍澤さんの今まで書かれた小説には、少し、どきり、とさせられる設定が印象的でした。今回の作品は「除霊」という新しいテーマだと思うのですが、この作品が生まれたキッカケや書こうと思った理由、具体的な経験等があったら教えていただきたいです。
藍澤:
私の友達に霊感が強い子がいるんです。「霊感が強い」と言うと、おどろおどろしいような怪談を想像すると思うんですが、その友人はちょっと変わっていて(笑)。
幽霊が出る心霊スポットに自分からわざわざ遊びに行って、そこで幽霊達が「誰が人間を驚かせるか」と競い合ってどんちゃん騒ぎをしていたっていう話をしてくれたんです。
その話を聞くまで、私自身怖い話や怪談は苦手だったんですが、「こんなに怖くない怪談ってあるんだ!?」と新しい気付きがあり、そこから「“あまり怖くない幽霊の話” があっても面白いんじゃないか?」と思い、書き始めました。
藍澤:
一番初めは幽霊だけの話にしようと思っていました。なので、主人公も除霊師ではなく、幽霊でして。幽霊になってしまった主人公と、既に幽霊になっている者達の交流の話にしようかなと考えていました。
でもそれだとあまり共感ができないかな……とⅡⅤの担当編集の方と話し合って、その結果、今の “除霊ができない除霊師の話” という形に落ち着きました。
“助”霊のアイデアもそういった流れでアイデアをいただきまして、それでいこうと。
執筆時のこだわりは“主人公のキャラクター”
──今回の作品に限らず、小説を書く上で大事にしていること、こだわっていることはありますか?
藍澤:
“主人公は嫌な奴にはしないこと” です。
いわゆるノワール的な作品であれば別だと思うんですが、私が書いているのは犯罪書とか、ノワール的な作品ではないので、主人公の人物像はできるだけ読者の方と目線が近いようにします。ありえない設定でも、なんだか共感はできる……というキャラクターにしようと心がけています。
──今回の『黄昏公園におかえり』は、デビュー作になるんですよね?
藍澤:
いえ、実は2007年に1回デビューしていまして。別名義ではあるんですが、電撃文庫様から1冊出させていただいたんです。
そこから約14年間、単行本は出していませんでした。その間はシナリオライターや、別の書き物仕事をさせていただいていました。
その後、東京に来たのをキッカケにペンネームを一新してまた書き始め、ステキブンゲイ様にて『コットンキャンディのネコと、幸せの1LDKについて』を電子書籍で、そして2作目である今作『黄昏公園におかえり』をIIV(トゥーファイブ)様にて出させていただきました。
ですので、こうして14年ぶりに単行本が発売されたことはとても嬉しかったです。会社がたまたま休みでしたので、発売日は本が置いてあるところに足を運びました。自分の本が並んでいるというだけでも、だいぶ感動しました。
悩みや心残り、そんなモヤモヤを抱えている人へ
──最後に読者の方へ向けて、メッセージをお願いします。
小さな悩みとか心残りって幽霊じゃなくてもいろんな人が持っていると思うんですが、そういったものを抱えている方が、読んだ後に少しでも晴れやかな気分になると良いなって思っています。
温かい気持ちになっていただきたいと思って書いた作品なので、読み終わった後に優しい気持ちになっていただけたら幸いです。
また、幽霊が題材だと「怖い」か「悲しい」どっちか、っていうイメージがあると思うんです。
ですが、この作品に関してはそんなに暗く、悲しい気持ちにならずに読んでいただけるんじゃないかなと思いますし、逆に「幽霊の話なの? 怖い!」と思わずに手に取っていただけるかと。
藍澤李色さん最新作『黄昏公園におかえり』
発売:2021年08月25日 価格:1,760円(税込)
著者プロフィール
藍澤李色(あいざわ りいろ)
作家、シナリオライター。東京都在住。
2006年、『ネズミのかぞく』で電撃hp短編小説賞 金賞受賞。
2007年、『ひなた橋のゴーストペイン』が電撃文庫より刊行。本作にてデビュー。(※【有澤翔】名義)
2020年、『コットンキャンディのネコと、幸せの1LDKについて』がステキブックスより電子書籍発売。