伊波真人が、毎回ゲストをお迎えして、聞いてみたいことを聞いてみる、この企画。
第2回のゲストは、前回のゲストである佐藤青南さんのご推薦で、佐藤さんと伊波の共通の知り合いでもある、松本清張賞を受賞された『屋上のウインドノーツ』や、『競歩王』など、青春小説・スポーツ小説を中心に執筆されている、小説家の額賀澪さんです。
額賀さんと知り合った頃のお話
額賀澪(以下、額賀):私、伊波さんと最初にお会いしたのって、いつか思い出していたんですけど、ちょっと思い出せなくって。
伊波:そこに、青南さん(前回のゲストである、佐藤青南さん)はいた気がします。青南さんや貫井さん(貫井徳郎:小説家)たちと池袋で飲みましたよね? あのときかもしれないです。
額賀:地下で餃子食べました?
伊波:そうです。
額賀:それだ! どのみち、青南さんがいるというのは合ってたんだ。
伊波:そこから、書店での、おたがいのトークイベントを観に行ったりとか。
額賀:青南さんの犬を愛でたりとか。
伊波:仲良くさせていただいていますね。
額賀さんが小説を書きはじめたきっかけ
額賀:書きはじめたのは、時期がはっきりしてて、小学4年生の1月くらいです。
伊波:早いですね、それは。
額賀:小4だから、10歳か。10歳の冬休みが終わって、学校が始まったくらいのときに書きはじめたのを、よく覚えていますね。小3くらいから、すごく本を読むようになったんです。小3くらいから読みはじめて、小4の冬くらいに自分でも書いてみたいなあと思って、書きはじめたんですよね。
伊波:その後、額賀さんは日芸の文芸学科に進まれますが、それまで、ずっと書き続けていたんですか?
額賀:ずっと書いていました。
伊波:文芸学科に入られたのは、小説家になりたいという明確な理由からですか?
額賀:中学までは、小説家になりたいと言いながら、まだ夢として語っていたんですよね。でも、高校に入ると、1年生のときから大学入試ガイダンスとかやるような学校で、そうなると、みんな将来を考えはじめて、夢が将来になるんです。周りが医者になりたいとか教師になりたいとか、堅実な卒業後の進路を考えているので、小説家になりたいとはさすがに言えず、文学部かな? みたいなことを最初は言ってたんですよ。そうやっているうちに、日芸に文芸学科があることを見つけて、ここがいいなあって思って、選んだ感じですかね。
伊波:入ってからは、文芸学科なので書かれますよね。
額賀:もうひたすら書いてましたよ。当時から、いろんなところに投稿もしていました。ぜんぜん引っかかんなかったですけど。
伊波:その頃は、どういう小説を書かれていたんですか?
額賀:入学するとき、入試の面接で、「どういうのを書きたいの?」って聞かれて、児童文学とか、いわゆる、YAっていうジャンルが書きたいって言ってたんです。でも、入学すると、ライトノベルっぽいのを書きたいっていう人と純文学っぽいのを書きたい人が周りに多くて、先生もけっこう純文学寄りの先生が多かったんです。その結果、YAじゃなくて、ちょっと純文学ぽいのを書くようになりまして、でもときどき、ゼミの友達とライトノベルっぽいのを書いたりして。それで、ずっとやってるうちに、私が書きたいものとか、こういう展開が好きっていうのが、あんまり純文学じゃないっていうのに気づいたんですよ。それで、卒業制作でエンタメっぽいのを書いて、それが、『屋上のウインドノーツ』と『ヒトリコ』です。
小説でスポーツを題材にする理由
伊波:『屋上のウインドノーツ』は、高校の吹奏楽部という設定ですが、どうして、その設定にしたのですか?
額賀:中学で、私が吹奏楽部だったんです。それで、大学に入るときに児童文学とかYAを書きたいと思っていて、YAとして吹奏楽部を書きたいとぼんやり思っていたのが、巡りめぐって、ああいう話になったというか。
伊波:その後は、スポーツを題材にして書かれることが多いですよね。
額賀:スポーツについては、昔から書いていたんですよね。大学入試の課題として小説を提出したのですが、それがスポーツ小説だったんです。高校生が主人公の野球小説でした。
伊波:その頃から、スポーツ小説を多く書かれる片鱗があったんですね。
額賀:書くものは変わってないですね、その頃から。
伊波:スポーツを題材にされることが多いのは、どうしてですか?
額賀:スポーツ小説で好きなのがいっぱいあったというのもあるんですけど、自分はまったくやらないけど、観るのは好きで、観ていると、たとえば野球とか観ていて面白いので、小説にできるかなと考えるようになって、それでスポーツを題材として選びがちですね。
伊波:スポーツを描くときに、大切にされていることは何ですか?
額賀:それぞれの種目の見どころとか面白さとか醍醐味って、あるじゃないですか。そこを、ないがしろにしないということですかね。あとは、ほかの種目に置き換えても成立する話にしないとか。これ、サッカーにする必要あった? みたいな。別にサッカーじゃなくても、成立しちゃうよねみたいな話があると違うんじゃないかなあっていう。それは題材を選ぶときから、ずっと思ってますね。
額賀さんの幅広い執筆活動について
伊波:額賀さんが、「売れる本」を作る方法について考えるルポルタージュ、『拝啓、本が売れません』を書かれることになったきっかけは?
額賀:担当編集者が、「こういうのを書いてみませんか?」って、話を持ってきたのがきっかけですね。小説じゃない読み物をやってみませんかって。単行本が出たのが、KKベストセラーズという会社なんですけど、この会社の編集者が、「うちは小説を出していない版元だし、今回出すのも小説じゃないし、コケても額賀さんのキャリアにはまったく傷が付かないから、楽しくやりましょう」みたいに言われて、楽しくやったら、意外と楽しい本になったという。
伊波:アニメーション映画『空の青さを知る人よ』のノベライズをされましたが、普段、小説を書くときと感覚は違いましたか?
額賀:ぜんぜん違います。当然ながら、私じゃない人間が考えた物語じゃないですか。しかも、映像作品なので。同じ物語でも、映像と小説って、根本的に作り方が違うと思っていて、一番わかりやすいのは、視点の扱いかなって。小説って、ある程度、視点をここだよって固定することで見せていく物語で、映像って、視点を縦横無尽に動かせる良さがあるって思っていて、視点を縦横無尽に動かすメディアを視点を固定するメディアに落とし込む作業っていうのが、一番大変だったかなあと思っています。
今後について
伊波:今後、どういうものを書いていきたいですか?
額賀:オリンピックが終わった直後で思うのは、やっぱりスポーツをいろいろ書きたいなあって。オリンピックに限らず、スポーツは書きたいものがいろいろあるんで、やっていきたいですね。
伊波:最後に、額賀さん自身は、どういう作家になっていきたいと思っていますか?
額賀:私は、たぶん作家歴は7年目だと思うんですけど、本当は10年で100冊書きたかったんですよ。だけど、到底無理だってわかったんですけど(笑)、せめて、10年で50冊くらいは書きたいなあと思っているんで、それくらいの気持ちでやりたいのと、あと、まったく違う目標としては、世界陸上ってあるじゃないですか? あれって、いろんな種目があるんですよ。あの種目を小説で全部書きたいという願望がありますね。「世界陸上額賀」をやりたいんです(笑)。スポーツ小説を書いている人間としては。