2006年に『夏光』でオール讀物新人賞を受賞してデビューされた乾ルカさん。これまでに学生を主人公にした青春小説を多く執筆されてきました。

 最新作『おまえなんかに会いたくない』も、高校時代とその10年後を描いた青春小説。刺激的なタイトルと、カバーの可愛らしい少女たちのイラストに引きつけられます。

 本作では「いじめ」に関わった人々の心の移ろいと葛藤が描かれるとのこと。著者の乾ルカさんにお話をうかがいました。

『おまえなんかに会いたくない』乾ルカ 著

同窓会で復讐!? 過去を振り返りつつ描いた青春群像劇

――今回の作品について教えてください。

 高校時代にいじめを受けていた少女が、卒業10年の節目で開催される同窓会を利用して復讐を企てる内容です。

 いじめをしていた認識のないクラスメイト達は、SNSに書き込まれる復讐を匂わせる投稿を読んで自分たちの過去を振り返り、怒ったり怯えたりします。各々の視点から過去と現在を見つめる群像劇です。

――このような物語を書こうとされたきっかけは?

 担当編集者との最初の打ち合わせの時点で、青春群像劇を書くことは決まりました。以前に私が「自分はいつでも青春ものを書いているつもり」と言ったことを、担当編集者が覚えてくれていたからです。

 打ち合わせでは取り留めのない雑談から本当は言いたくなかった私の思い出まで話しました。中学高校と部活動をしていた私にとって、いじめ色が濃かったのはクラス内より部活動でした。

 思い返せば私のあの行動はいじめと取られても仕方ないなとか、あの部員たちの態度や接し方は私へのいじめだったのかもしれないなとか、思い出すと結構辛かったのですが、担当編集者がそれらの思い出話をキャッチボールのようにすべて受け止め返球してくれたので、打ち合わせを重ねるごとに私も登場人物たちが見えてきました。

乾さんの母校の写真

当初の構想になかった感染症禍を作中に

――執筆にあたって、苦労されたことはありましたか?

 本作内でも登場人物たちは感染症禍に翻弄されるのですが、そこがまさに苦労した部分、当初の構想から変わった部分でした。プロットを作り出した段階では、そもそもコロナが存在しなかったからです。

 担当編集者に盛り込むことを提案されたときは、「一度プロット通ったのになあ……」と恨めしく思いましたし、変更後のプロット作りは実際苦労しましたが、書く段になると盛り込んでよかったと思いました。

 自分自身がコロナ禍で鬱々としていたときに感じた表に出せない思いを、ちょっとぶつけられた部分があるので。

読後に抱く感情から自分が見えてくる作品

――どのような方に読んでもらいたいですか? また、本作の読みどころをお教えください。

 かつて学校という場で集団生活を送ったことのある方、その集団に何かしらの思いを抱いたことのある方に特に読んでいただけたらと思います。

 この作品はもしかしたら、ご自身がどのような学校生活を送っていたか、集団においてどのようなポジションにいたか、どのような人たちが周りにいたかで、読後感が変わってくるのではないかと想像しています。

 自分がどんな感想を持つかで自分が見えてくる、そんな読書にしていただけたら嬉しいです。

――小説を書くにあたって、いちばん大切にされていることをお教えください。

 無理をしないことです。舞台をよく北海道内に設定しますが、それも自分にとって無理をせず書ける土地だからです。

――読者の方へ、メッセージをお願いします。

 このページを読んでくださりありがとうございます。大変な時間が長く続いていますが、どうかご自愛ください。無理をしないでのんびり行きましょう。

お仕事場の写真


 子どもだった頃の自分の行動を、大人になってから振り返ると、あの行動はあの子を傷つけてしまったなと思うことがあります。傷つけた方は忘れていても、傷つけられた方は忘れずに覚えているもの。

 そのような誰でも心当たりのある体験が、10年後の同窓会をきっかけに、SNSや感染症禍といった時代を反映する要素を盛り込んで描かれています。復讐は果たされるのか、どのような気持ちでページをめくることになるのか、ぜひ読んで確かめていただきたいと思いました。


Q:最近、嬉しかったこと、と言えばなんでしょうか?

 4日前に犬の散歩途中でエゾリスに会いました。

Q:ご自身は、どんな小説家だと思われますか?

 そもそも小説家と自称していいのか怪しいと思っています。

Q:おすすめの本を教えてください!

  • 『都市伝説セピア』(朱川湊人)
  • 『新興宗教オモイデ教』(大槻ケンヂ)
  • 『七瀬ふたたび』(筒井康隆)

 棺桶に入れてほしい3冊です。

乾ルカさん最新作『おまえなんかに会いたくない』

書影
『おまえなんかに会いたくない』(乾ルカ) 中央公論新社
 発売:2021年09月10日 価格:1,760円(税込)

著者プロフィール

著者近影(©中央公論新社)

乾ルカ(いぬい るか)

1970年北海道生まれ。
2006年、「夏光」でオール讀物新人賞を受賞。
2010年『あの日にかえりたい』で直木賞候補、『メグル』で大藪春彦賞候補。
映像化された『てふてふ荘へようこそ』ほか、『向かい風で飛べ!』『わたしの忘れ物』など著書多数。
8作家による競作プロジェクト「螺旋」では昭和前期を担当し『コイコワレ』を執筆した。
近著に『明日の僕に風が吹く』『龍神の子どもたち』がある。

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