伊波真人が、毎回ゲストをお迎えして、聞いてみたいことを聞いてみる、この企画。

第1回のゲストは、TVドラマ化もされた『サイレント・ヴォイス 行動心理捜査官・楯岡絵麻』や、『白バイガール』シリーズの著者である、小説家の佐藤青南さんです。

佐藤青南さん

2人が知り合ったきっかけ

伊波:青南さんとは、もともとTwitterでやりとりをしていましたが、「伊波さん、面白そうなので、いちど会いましょう」とDMをくれて、はじめて会ったんでしたよね。僕も青南さんには、お会いしたいと思っていたので、とても嬉しかったです。そこから、一緒に野球を観に行ったりする仲になって。はじめて会ったのは、池袋でしたっけ?

佐藤青南さん(以下、佐藤):池袋のもつ鍋屋さん。最初に、街コンで知り合った女の子を連れて行った店で、美味いなあと思ったから、伊波さんを連れて行ったんだよね。

伊波:(笑)。僕たちは犬好きという共通点もあって、2年ほど前に、青南さんの愛犬のポメラニアンのアロンちゃんと触れ合う会に参加させていただいたりもしましたね。

青南さんと愛犬のアロンちゃん
アロンちゃんと遊ばせてもらっている伊波

バンド青年が本を読みはじめた理由

伊波:青南さんは、もともとバンド活動をされていたんですよね。いつ頃からされていたのですか?

佐藤:23歳で上京したんだけど、それまで実はバンドやったことなかったんだよね。ギターは、趣味で弾いていたんだけど。20歳で大学を辞めて、親に上京するわって言ったんだけど、上京せずに3年が過ぎ……地元のコンビニでバイトしていて、「社員にするからコンビニの店長やらないか」って言われたんだけど、コンビニの店長になったりしたら、ずっとここにいるんだろうなと思って、一回、東京へ行こうと。お金が貯まってなかったから、新聞奨学生に申し込んで、上京してきた感じかな。

伊波:それで、バンドを組まれたんですね。

佐藤:音楽学校に通いつつ、スタジオに行ったら、スタジオの壁とかにメンバー募集の紙が張ってあるから、電話しまくって。だいたい決まっていたんだけど、一つだけつながって、それでバンドを組んで、バンド活動を本格的に始めたと。

伊波:作詞などは、バンドでは誰がされていたのですか?

佐藤:作詞は、青葉君(青葉絋季:シンガーソングライター、作曲家)という読書家のメンバーがいて、その人がしていたんだけど、2年くらいやって、そのバンドを俺は辞めちゃうのよ。その後、自分で作詞・作曲をするバンドを組むんだけど、詞が書けないと。書けないから、どうやったら書けるんだろうと思ったときに、青葉君、読書家だったなと思い出して。自分は、ぜんぜん本を読んでいなかったんだけど、読まなきゃいけないのかなと思って、読みはじめたんだよね。

伊波:それが、今につながると。

小説を書きはじめたきっかけ

佐藤:小説を書きはじめた動機って、いろいろあるんだけど、たとえば、バンドをやってたときに、小劇団の劇伴とかやってて、そのときに脚本を読ませてもらったら、つまんなかったの。この人、プロなの? って。これでプロなら、自分もプロになれるんじゃないかっていう風に思って。バンドも上手く行かなくなって、ライブの予定もあまりなくなったから、小説とかを読みはじめたんだよね。それまでも青葉君の影響で1冊2冊は読んでいたけど、習慣にはならず、でも時間が出来たから、本を買って読むようになりましたね。

伊波:小説を書きはじめたときから、ジャンルはミステリーだったんですか?

佐藤:書きはじめた当初から、ミステリーだね。読んでる段階では意識しなかったし、ミステリーが書きたいというのもなかったんだけど、プロを目指すなら、やっぱりミステリーしかないかなと。

伊波:それは、なぜですか?

佐藤:賞金(笑)。純文学の賞とかは、せいぜい100万円なんだけど、ミステリーの賞だけは、1000万円とかだったりするわけよ。当時から出版不況とか言われていたけど、1人の作家に1000万円出せるって、すごくないか、と。だからミステリーは、まだ体力残ってるんじゃないの? と。

伊波:それで、「このミス大賞」でデビューされると。受賞するまでは、何回か応募されたんですか?

佐藤:5年間。30歳から応募しはじめて、35歳で受賞が決まるという感じで。その間、「このミス大賞」には必ず送ると決めて送り続け、あとは、ちょいちょい書けたら送るという感じだよね。いちおう小説家を目指してはいるけれど、年齢的にもだんだん重ねていって、賞を取れるかもわからないから、どこであきらめるかみたいに考えながらやってた感じだね。

小説家が自らプロモーションするということ

伊波:青南さんは、著書のプロモーション動画をご自身で作ったりされていましたが、どういうきっかけで始めたのですか?

佐藤:それはね、この業界に入る前から思ってた。バンドやってるときにインディーズというフィールドで活動していて、そこでは、わりと当然のこととして、自分たちでいろんなプロモーションを考えてやらなきゃいけなかったりするでしょ? でも、小説家って、そういうことをやってるイメージがなかったから、マーケティングとかに対して自覚的に動けさえすれば、目立てるかなと思ったの。「このミス大賞」の大賞じゃなかったから、大賞だったら、やってなかったかもしれない。優秀賞で、デビュー作もそんなに売れなかったっていうのもあったから、かねてから考えていたことをやってみた感じかな。

伊波:最近は、ユーチューブに動画をアップされていますよね。あれは、なぜ始めたのですか?

佐藤:ユーチューブを始めたこと自体は、「観測気球」みたいなところがあるかな。このメディアの可能性をどういう風に広げていけるか探る、そのための足場として、アカウントがあって更新しているという状況があれば、いろんなことに展開していけるかなって。

新作『連弾』について

伊波:最新作『連弾』の主人公は、音楽隊志望だった刑事という設定ですが、この設定は、どのようにして思いついたのですか?

9784122070875 連弾 0 佐藤青南 著 中公文庫 2021/7/21

佐藤:編集さんの提案で、俺が音楽とかやってるから、音楽隊はどうかっていう、安直な発想というか(笑)。最初の編集さんのアイディアだと、音楽隊にいるんだけど捜査に顔を突っ込みたがる人と、捜査課なんだけど音楽隊に行きたい人みたいな2人の女の子がいて、立場をスイッチするみたいな構想だったんだけど、視点がボヤける気がして、音楽隊に行きたいんだけど捜査課に配属になった刑事みたいな、そっちを残した感じかな。

伊波:『楯岡絵麻』シリーズや『白バイガール』シリーズなど、これまで作品を書かれてきた経験は、今回の作品に反映されていると感じますか?

佐藤:俺のなかでは、デビュー作直系の作品になったと思っていて。デビュー作が重い話で評価されなくて、コメディタッチのミステリー小説みたいな感じに、2作目から路線変更したのね。日常生活って、どんなに過酷な人生を送っている人でも、ずーっとしかめっ面してるわけじゃないじゃん? 絶対、笑っちゃう瞬間とかあったりとか。だから、やたらと重々しい小説とかが、俺は逆にリアルじゃないと思ったりする部分があって。だから、くだらないやりとりに着眼して軽い作品というのにこだわって書いてきたつもりが、それが逃げ道みたいになってたというのに自分で気づく部分もあって、そういうコメディ要素を極力排除して、デビュー作からつながる系譜の作品に戻ってきましたみたいな。デビュー作の後、すごい回り道してきたけど、デビュー作が評価されていたなら、おそらく次に書いていたであろう作品かなという風には思っています。それが果たして、どう評価されるのかな? みたいなのが、気になるところはあるよね。

今後について

伊波:今後、書きたいものはありますか?

佐藤:ずーっと編集さんに提案しつづけて断られている素材があって、それは、「ラーメン」と「ヘビーメタル」なの。本当に純粋に好きなものを題材に書くとしたら、ラーメン小説かヘビーメタル小説を書きたいなあって、思ってるね。

伊波:今回は、ありがとうございました!

第2回: 額賀澪さん

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