2007年に「第39回新潮新人賞」を受賞し、選考委員(浅田彰氏や小川洋子氏)から絶賛されながらも、単行本にはならず、読むことが困難だった『アウレリャーノがやってくる』が、ついに発刊されました。
感動の青春小説である本作は、発刊のために小説家である著者自ら出版社を立ち上げたことなどで、内容以外の点からも話題となり、発売前増刷が決定しました。
著者の高橋文樹さんに、お話をお聞きしました。
「実在する」小説
――『アウレリャーノがやってくる』について、これから読む方に向けて内容をお聞かせください。
作品の舞台となるのは、私が2007年に立ち上げたオンライン文芸誌「破滅派」です。東北の片田舎から上京してきた美貌の青年アマネヒトが破滅派の変わった同人たちに感化され大人になっていく成長小説(ビルドゥングス・ロマン)です。
併録作「フェイタル・コネクション」は北千住でアルコール依存症の友人とルームシェアをしていた時の思い出をベースにしたBOTS小説です。BOTSとは、”Based On a True Story”の略で、実話を元にしたストーリーのことです。最近のハリウッド映画もそういうのが多いですよね。
本書のポイントは「実在する」ということです。作中のエピソードはまだこの広大なインターネットに残っているので、ぜひ検索して見てください。作品がその外部と繋がりを持ち続けているというのが、本作の凄みだと考えています。
――2007年に新潮新人賞を受賞した作品ですが、2021年に発刊することになったきっかけ、経緯を教えてください。
新人賞受賞作ということでそのまま単行本にしてもらえると思っていたのですが、それが叶わず、私は文壇を離れ、破滅派だけで活動を続けてることを選びました。
その後、会社を立ち上げ、ウェブ制作で技術を磨きながら出版事業について独学し、ようやく自分の本を自分で出版できるようになった……と思ったら14年が経過していたという感じです。
出版に至る経緯は本書収録の解説「彼自身による高橋文樹」に詳しいです。創作を志した人にとっては涙なしには読めない内容となっています。SF作家の樋口恭介さんからは「これは泣くだろ!」というコメントをいただきました。
また、「なぜ解説を自分で書いているのか」という理由も非常にユニークなものになっています。
創作活動に携わったことがある人へ
――発刊にあたって加筆や変更をしたところはありましたか? また、執筆時のエピソードがありましたらお願いします。
表題作はほとんど変更していませんが、併録作「フェイタル・コネクション」はかなり修正しました。
モデル小説でもあるので、昨今のプライバシー意識の高まりに対応したつもりです。日比嘉髙『プライヴァシーの誕生 モデル小説のトラブル史』という本が非常に参考になりました。
何より、「モデル小説のモデルになった人が誓約書を載せている」という点が、本作を日本文学史上初の書籍にしているのではないでしょうか。
―― どのような方にオススメの作品でしょうか?
まず、一度でも創作活動に携わったことがある方、なんらかのクリエイターを志したことがある方にはおすすめです。
部活やサークル、なんでもいいですが、青春期に集団で何かに取り組んだ経験がある人は感動すること請け合いです。「破滅派は今や株式会社である」という事実も、ビジネスマンなら涙なしには読めないでしょう。
世界文学を目指して
――小説を書くうえで、大切にされていることや、こだわりを教えてください。
私は日本文学、特に純文学の主流は私小説であるということを意識してきたので、そうした作品を長く書いてきました。
最近はSF小説をよく書いているのですが、その時々に課題のようなものがあり、それを自分に課して書いています。基本的には世界文学を目指して書いています。いまはアフター・コロナ、反出生主義などに関心があるので、それが作風に反映されると思います。
―― 最後にナニヨモの読者に向けて、メッセージをお願いします!
小説というのは不思議なもので、作品それ自体の価値は一定ではありません。その時の状況、自分の状態などによって、作品の読み方は変わってきます。
「破滅派? アウレリャーノ? 何言ってんだコイツ?」と思われているあなたも少し経ったら読み方が変わるかもしれません。この読み方が変わるというのも文学の面白いところなので、ぜひ色んな文学にチャレンジしてみてください。
実在する人や過去の出来事をもとに書いて、それが面白いものになるためには、実在がまず面白くないといけないのだなと思いました。
著者の高橋さんの日々の活動(自ら出版社を作ったり、変わった人たちと関わったり)や、それによって起こる出来事は面白く見えます。それがベースになって、文学にされているので、面白いのだと感じました。
これからの作品と活動も楽しみにしています!
Q:最近、嬉しかったこと、と言えばなんでしょうか?
『アウレリャーノがやってくる』が増刷したことです。生まれて初めて増刷しました。
また、本書を出したことにより旧友などから連絡がくるようになり、懐かしい交流が再開したのも嬉しかったですね。
Q:ご自身は、どんな小説家だと思われますか?
純文学・SFなど色々書くのですが、つねに境界的というか、ジャンルとジャンルの合間にいるような書き手です。作家業的にはキャラブレしていてよくないのですが……気づけばそういう人生を歩むようになってしまいました。いまさら変えられないので、今後も横断的な作品を書いていきたいです。
また、本書を出版したことで「自分の書籍を出すために自分で出版社を立ち上げた作家」という異常な立ち位置になってしまいました。大正時代ぐらいの作家には多かったですが、いまはそういう方がいるというのを寡聞にして知りません。もしそういう人がいるのなら教えを乞いたいと思っています。
Q:おすすめの本を3冊教えてください!
まず、本作のタイトルの由来でもあるガブリエル・ガルシア=マルケス『百年の孤独』です。
そして、同様に本作に登場するミシェル・ウエルベックの巨視的なスケールをもった問題作『服従』もおススメです。
そして最後に、私が最も尊敬する作家大江健三郎の中期を代表する作品『懐かしい年への手紙』です。本作は私にとってまさに「懐かしい年への手紙」でもあります。
高橋文樹さん最新作『アウレリャーノがやってくる』
発売:2021年12月13日 価格:1,980円(税込)
著者プロフィール
高橋 文樹(たかはし ふみき)
1979年千葉県千葉市生まれ。1998年、千葉県立千葉高校を卒業し、東京大学文科Ⅲ類に入学。私淑する大江健三郎のあとを追い、仏文科へ進学。
2001年、『途中下車』で大学在学中に幻冬舎NET学生文学賞大賞を受賞しデビュー。その後、次作に恵まれず、2007年オンライン文芸誌「破滅派」を立ち上げ、また、同年「アウレリャーノがやってくる」で新潮新人賞を受賞。
2010年、株式会社破滅派を設立。オープンソースソフトウェアWordPressをベースにしたウェブ制作を行いながら、電子書籍の発刊やイベント開催、ISBNなしの書籍販売などを手がける。
2016年にはゲンロン主催大森望SF創作講座に参加し、ゲンロンSF新人賞飛浩隆賞を受賞。ワールドコンへの参加、SF同人誌『Sci-Fire』の創設、千葉市SF作家の会 Dead Channel JPの設立など、精力的に活動を続ける。
2021年、破滅派から初のISBN付き書籍を発行。