ミステリ作品を中心に執筆し、新進気鋭の作家として注目されている、斜線堂有紀(しゃせんどう ゆうき)さんがライフワークとして連載している「神神化身(かみがみけしん)」が、単行本として発売されました。
歌と踊り「舞奏(まいかなず)」を”カミ”に奉じれば、どんな願いも叶えられる世界で、謎を秘めた「覡(げき)」と呼ばれる青年達がそれぞれの願いや理想に向かって活躍する、和風伝奇ミステリです。
発売にあたって、斜線堂さんにお話をお聞きしました。
色々な楽しみ方の出来る複合ミステリ!
――『願いの始まり 神神化身』について、これから読む方や購入を検討されている方へ、内容をお教えください。
神神化身は私が一番長く連載を続けている群像劇形式の伝奇ミステリです。この長さと登場人物の数でなければ書けない物語があると思うので、伏線回収の気持ちよさと段々複雑化していく人間関係、そして際限無く強くなっていく感情の妙を楽しみたい方におすすめです。
様々な思いを抱えつつ、自らの願いを叶える為に舞奏に挑む覡達の間にはコンゲームものの趣もあります。色々な楽しみ方の出来る複合ミステリだと思っています!
――本作を描こうとされたきっかけを教えていただけますでしょうか。
元々はⅡⅤさんの方から、舞と歌をテーマにした地域密着型コンテンツを作りたいとお話を頂いてたので、強いて言うならそれがきっかけです。そこからプロデューサーさんと設定を詰めていきました。
お話を頂いた時点でモデルとなる神社や地域の祭事などの資料を沢山頂き、モデル地の取材にも実際に伺ったので着想の元は潤沢でした。最初の段階でこうしたしっかりとした設定を作れる環境を整えて頂けたのが印象的です。
だれを推すかで、見えてくる物語が違うものに
――ご執筆にあたって、苦労されたことや、当初の構想から変わった部分など、執筆時のエピソードをお聞かせください。
苦労したところは、十二人全員(この一冊に出てくるのは六人ですが)を主人公として立たせるところです。それぞれの覡の性格や美学がブレないよう、けれど物語は進めなければならないという板挟みが大変でした。いざこうして振り返ってみるとなかなか上手くいったのではないかと思います。
初期段階の設定から大きく変わった部分は闇夜衆の人物造形ですね。皋所縁(さつき・ゆかり)はもう少し皮肉屋なはずでしたし、昏見有貴(くらみ・ありたか)はこんなに喋るはずではありませんでしたし、萬燈夜帳(まんどう・よばり)もここまで自由ではありませんでした。この辺りはキャストさんの演技を受けて変えた部分が大きいので、なかなか普段の執筆では味わえない経験をしました。
――どのような方にオススメの作品でしょうか? また、本作の読みどころも教えてください。
個人的におすすめしたいのは、マーダーミステリー(参加者全員がとある殺人事件の登場人物となって犯人が誰かを推理したり、自身の疑いを逸らしたりする体験型推理ゲーム)が好きな方におすすめしたいです。自分がどの覡を推すかによって、見えてくる物語が全く違うものになっていくだろうと思うので。
また、今回は舞奏(まいかなず)の大会である『舞奏競(まいかなずくらべ)』を主軸にした話になっているので、舞奏という一風変わった郷土芸能に挑む人々の競技小説として楽しめるというのも読みどころの一つだと思います。
何よりも読者の方に楽しんで頂くことを
――小説を書くうえで、いちばん大切にされていることをお教えください。
何よりも読者の方に楽しんで頂くことを大切にしています。どんな展開にしたら続きを読んで貰えるか、どんな台詞にすれば長く心に残してもらえるか、それを意識することに何よりこだわっています。
――最後に読者に向けて、メッセージをお願いします。
神神化身をずっと応援してくださっている皆さんにはお待たせしました。皆さんのお陰でこうして一冊に纏めることが出来ました。そして、まだ神神化身に触れていない皆さん。忘れられない物語体験になることをお約束しますので、「願いの始まり」から神神化身の世界をよろしくお願い致します。また、副読本である「神神化身 春惜月の回想」では、登場した覡達のバックボーンが語られているので、こちらを読むのも楽しいかもしれません。
和風伝奇ミステリということで、「覡(げき)」などの慣れない言葉に、最初は少し戸惑いましたが、慣れるとその言葉で構築された世界観にどっぷり浸かって心地よくなり、とても楽しく読むことができました。
それぞれタイプの異なる個性的な男子たちが登場し、彼らのやり取りや人間関係に触れているだけでも、いいなあと思いました。
『神神化身』は「小説連動型和風楽曲プロジェクト」ということで、この小説の他に、キャラクターデザイン(イラスト)があり、楽曲、ラジオなど、メディアミックスで展開されているので、それらと合わせて楽しむこともできます。
登場人物たちのことがすっかり好きになってしまいました。下のような動画も公開されていますので、ぜひご覧になるとよいでしょう。これからの展開も楽しみです!
Q:最近、嬉しかったこと、と言えばなんでしょうか?
毎日小説が書けることです!
Q:ご自身は、どんな小説家だと思われますか?
とにかく努力でなんとかしている、面白い小説を書く小説家だと思います。
Q:おすすめの本を教えてください!
・「フリッカー式 鏡公彦にうってつけの殺人」(佐藤 友哉)
この小説がきっかけで小説家を目指すようになりました。最近新装版で復刊したので、多くの方に読んで頂きたいです。
・「スターバト・マーテル」(ティツィアーノ・スカルパ)
才能と人間にまつわる物語です。私はよく才能をテーマにした作劇をするのですが、原初の熱を思い出す為にこの小説を読み返します。
・「書くことについて」(スティーヴン・キング)
私が小説家として大切にしていることの八割はこの本から学びました。小説家を志している人も志していない人も、一つのことに人生を捧げるとはこういうことなのだ……と思ってもらえる一冊だと思います。
斜線堂有紀さん最新作『願いの始まり 神神化身』
発売:2022年02月25日 価格:1,980円(税込)
著者プロフィール
斜線堂 有紀 (シャセンドウ ユウキ)
2017年に『キネマ探偵カレイドミステリー』(メディアワークス文庫)でデビュー。ミステリ的な仕掛けを駆使し切実な情感と関係性を描く作品を繰り出し、新進気鋭の作家として注目を浴びている。2020年『楽園とは探偵の不在なり』(早川書房)を上梓し、『ミステリが読みたい! 2021年版』国内篇で2位を獲得するなど高い評価を受けた。近著に『廃遊園地の殺人』(実業之日本社)、『愛じゃないならこれは何』(集英社)がある。