花屋さんの仕事や、花に関する知識がいっぱい詰まった小説『花屋さんが言うことには』。

 主人公・紀久子が、花を通してたくさんの人たちと関わっていくことで、花が咲くように世間が鮮やかになっていく、心温まる物語です。著者の山本幸久さんにお話をお聞きしました。

だれもが知っているけれど、その実体は謎に包まれている店

――『花屋さんが言うことには』について、これから読む方へ、内容をお教えいただけますでしょうか。

 東京の西の端っこの町にある花屋を舞台に、人生がヘタクソなひと達が、それでもなんとか生きていこうとしていくお話です。

――本作を描こうとされたきっかけを教えていただけますでしょうか。

 少なくなってきたとはいえ、どんな町にも必ずあって、だれもが知っているけれど、その実体は謎に包まれている店はなんだろうと考えているうちに、花屋さんに辿り着きました。

読みどころはぜんぶ――ちがってたらごめんなさい。

――ご執筆にあたって、苦労されたことや、当初の構想から変わった部分など、執筆時のエピソードをお聞かせください。

 花そのものはもちろん、花言葉をはじめとした花にまつわる短歌や古典、小説を交えていくうえで、どうやって話の中に活かそうか、とだいぶ悩みました。それとコロナのせいで、取材がままならず、いくつか諦めた話もあります。

――どのような方にオススメの作品でしょうか? また、本作の読みどころも教えてください。

 つぎのステップに進もうとしている方、あるいは進めずに悩んでいる方にお読みいただければと思って書いております。読みどころはぜんぶと言っておきますね。ちがってたらごめんなさい。注目すべきポイントは、読むと人に話したくなる豆知識が詰まっているところでしょうか。おなじ花でも色や本数、国によって花言葉がちがうとか、花びらに見えるがほんとはそうではないとか、いろいろあります。

できるだけ自分が知らない世界を書くように

――小説を書くうえで、いちばん大切にされていることをお教えください。

 できるだけ自分が知らない世界を書くように心がけています。一から調べなければならず、書いている最中も間違っていないかどうか、はらはらどきどきで、とても時間がかかって身体にも悪い。でもまあ、そうした苦労がわからないように書こうともしています。

――最後に読者に向けて、メッセージをお願いします。

 世の中いろいろ大変ですが、それでも生きていかなければなりません。この作品があなたの人生の励みになればと思っています。

 ブラック企業をやめた主人公が酔った勢いでアルバイトを始めた花屋さん。そこで働く人も、お客さんも、みんな個性的な優しい人たちで、読んでいると心が温かくなってきます。

 花屋さんの仕事がわかるおもしろさと、花についての豆知識、花言葉、花にまつわる文芸作品など、物語を楽しみながら、花まわりの知識がぐっと増えます。作品の雰囲気が、暖かくなる季節にぴったりなので、花の開花にあわせるように、一緒に楽しめる素敵な作品でした。おすすめです!

Q:最近、嬉しかったこと、と言えばなんでしょうか?

 昔から好きな作家、アン・タイラーの最新刊が発売になること、しかも『花屋さんが言うことには』とおなじくカバーイラストが、カシワイさんだということです。

Q:ご自身は、どんな小説家だと思われますか?

 呑気な小説家です。自分が書く小説の登場人物のように、もっと頑張らなければとは思っていますが、なかなかそうはいきません。

Q:おすすめの本を教えてください!

・『結婚のアマチュア』(アン・タイラー)

 アン・タイラーはどれも好きですが、とりあえずこれを挙げておきます。タイトルからして素晴らしい。

・『ユニヴァーサル野球協会』(ロバート・クーヴァー)

 自ら考案したサイコロゲームで、実在しない大リーグの試合を頭の中に繰り広げていくのですが、これが自分の人生よりもリアルな主人公が泣かせます。

・『夢の砦』(小林信彦)

 著者の半自伝的小説。ぼくはこの方が描く不気味で得体の知れない人物が好きで、この小説だとゴム仮面というあだ名の男が秀逸。


山本幸久さん最新作『花屋さんが言うことには』

『花屋さんが言うことには』(山本幸久) ポプラ社
 発売:2022年03月16日 価格:1,760円(税込)

著者プロフィール

山本幸久(ヤマモトユキヒサ)

 1966年東京生まれ。2003年『笑う招き猫』(『アカコとヒトミ』を改題)で第16回小説すばる新人賞を受賞し、作家デビュー。『凸凹デイズ』『渋谷に里帰り』『カイシャデイズ』『ある日、アヒルバス』『愛は苦手』『寿フォーエバー』『ジンリキシャングリラ』『芸者でGO!』『店長がいっぱい』『誰がために鐘を鳴らす』『ウチのセンセーは、今日も失踪中』『ふたりみち』『あたしの拳が吼えるんだ』など多数。『笑う招き猫』『ある日、アヒルバス』は映像化もされている。

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