スマートフォンの急速な普及は、生活にさまざまな変化をもたらしました。
本来の通信手段としてはもちろん、スマホで小説やマンガを読み、音楽や映画を楽しみ、ゲームに興じるのはもはや当たり前。娯楽だけでなく、スケジュールを管理し、健康状態を確認し、日々の買い物を済ませ、公的な申請まで可能となりつつあるその万能ツールは、「出会い」も手のひらの上に呼び寄せるのです!?
元カレと別れてから2年、恋も仕事も宙ぶらりんな30歳の田島琴実。見かねた妹から勧められ、マッチングアプリに登録してデートを重ねてみるものの……。加藤千恵さんの最新作である『マッチング!』は、いまやすっかりポピュラーな出会いの場となっているマッチングアプリを題材とした作品です。
30代女子の未来探しを描いた新作について、加藤さんにお話を伺ってみました。
琴実がどういった出会いと選択をしていくのかを、ぜひ見守っていただけたら
――今回の『マッチング!』について、これから読む方へ、どのようなお話かをお教えいただけますでしょうか。
結婚を意識しはじめた30歳の女性・琴実が、妹の勧めによってマッチングアプリに登録し、そこで何人かの男性と出会う、というストーリーです。琴実がどういった出会いと選択をしていくのかを、ぜひ見守っていただけたらと思っています。
――この作品が生まれたきっかけを教えていただけますでしょうか。
記憶が不確かなのですが、当時の担当編集者であったTさんとの間で、雑談として、マッチングアプリって最近流行ってますよね、という話題が出たのがきっかけだと思います。おそらく3年くらい前かと。Tさんの知り合いの方の経験談なども聞かせていただくうちに、マッチングアプリをテーマにした作品を書きたい、と思いました。
友人でも、恋愛や結婚の出会いのきっかけとしてマッチングアプリというのはよく耳にします
――現在はポピュラーな存在となっているマッチングアプリですが、一方で苦手意識を持つ方もいまだにいらっしゃると思います。取材やご執筆の前と後で、アプリ自体やその活用についての印象が変わった部分などはありましたか?
構想から執筆及び出版になった、この数年の間でも、かなり印象は変わっている気がします。もはや珍しいものではなくなったというか。直接の友人でも、恋愛や結婚の出会いのきっかけとしてマッチングアプリというのはよく耳にしますし、すっかりみんな馴染んで活用しているものなんだなあ、と。
――ご執筆にあたって、苦労されたことや、当初の構想から変わった部分など、なにかエピソードがありましたらお聞かせください。
あまり書くとネタバレになってしまうのですが、執筆していく上で、展開などは大きく変わりました。プロローグとエピローグも最初の執筆時(及び連載時)にはなかったものですし、連載時からはタイトルも変えています。よりわかりやすい形になったかな、と思っております。
――どのような方にオススメの作品でしょうか? また、本作の読みどころも教えてください。
マッチングアプリをやっている方はもちろん、興味を持っているけどまだやってはいない、という方にも楽しく読んでいただけたらなと思います。フィクションではあるのですが、実際の友人知人のエピソードなども取り入れていますので。
ディテールを書きたいのだなというのは自分でも思います
――小説を書くうえで、いちばん大切にされていることをお教えください。
いちばんかどうかはわからないのですが、電車やカフェで隣り合った人の話を聞くような感覚を持てる小説を書けたら、とは思っています。あと、ディテールを書きたいのだなというのは自分でも思います。飲んでいるドリンクであったり、着ているスカートの柄であったり。そういうささやかなものをすくいあげるところにも、楽しさがあるのだと感じます。
――最後に読者に向けて、メッセージをお願いします。
少しでも気になる部分がありましたら、ぜひ『マッチング!』を手にとっていただけると嬉しいです。楽しく読んでいただけましたなら幸いです。
Q:最近、嬉しかったこと、と言えばなんでしょうか?
初めて行ったメキシコ料理のお店が、めちゃめちゃおいしかったこと。タコス観が覆りました。
Q:ご自身は、どんな小説家だと思われますか?
小説家の自覚が薄いです。
Q:おすすめの本を教えてください!
■『落下する夕方』江國香織(KADOKAWA)
この世で一番好きな小説です。
■『かんたん短歌の作り方』枡野浩一(筑摩書房)
短歌ブームで、自分でも短歌を詠みたくなった方にお勧めしたいです。
■『自転しながら公転する』山本文緒(新潮社)
大好きな作家の一人です。タイトルにもなっている会話のくだりが、特に印象的です。
加藤千恵さん最新作『マッチング!』
発売:2023年04月26日 価格:693円(税込)
著者プロフィール
加藤千恵(カトウ・チエ)
1983年、北海道出身。高校在学中にインターネットやテレビ番組で短歌の作品発表をはじめ、2001年に上梓した第一歌集『ハッピーアイスクリーム』(文庫化に際し『ハッピー☆アイスクリーム』に改題)が歌集としては異例のベストセラーを記録。2002年には第二歌集『たぶん絶対』を刊行し、同時期から小説、詩、エッセイ等、幅広く執筆活動をはじめる。小説著書に『真夜中の果物』(単行本時タイトル『ゆるいカーブ』)、『あかねさす 新古今恋物語』『あとは泣くだけ』『春へつづく』『いつか終わる曲』『いびつな夜に』『消えていく日に』『そして旅にいる』『この街でわたしたちは』、近著に『この場所であなたの名前を呼んだ』などがある。