毎年、ジャンルを問わず良質なエンターテインメント小説を輩出し続ける公募文芸賞「松本清張賞」。第30回を数える本年の受賞作である、森バジルさんの『ノウイットオール あなただけが知っている』が刊行されました。
「ひとつの街を舞台にした、5つの異なるジャンルの物語」であり、「それぞれがかかわりあって成立するひとつの物語」でもある、とても挑戦的な構成は、選考委員を務めた阿部智里さん、辻村深月さん、米澤穂信さん、森見登美彦さん、森絵都さんら5人の作家が息を呑んだと評判の作品です。
読んだ者だけがすべてを知ることができる。――まさに、「読書」というエンターテインメントが持っている本来の醍醐味を十二分に味わわせてくれる作品を発表したばかりの森さんに、お話を伺ってみました。
すべてを目撃するのは、読者であるあなただけ――
――今回の『ノウイットオール あなただけが知っている』について、これから読む方へ、どのような物語かをお教えいただけますでしょうか。
1つの街を舞台に描かれる、5つのジャンルの短編連作。
「第1章:推理小説」「 第2章:青春小説」「 第3章:科学小説」「第4章:幻想小説」「第5章:恋愛小説」
5つの世界は少しずつ重なりあい、影響を与えあい、思わぬ結末を引き起こす。
すべてを目撃するのは、読者であるあなただけ。
――この作品が生まれたきっかけを教えていただけますでしょうか。
「とんでもなくファンタジックな体験をして殺されかけた主人公の下宿先が大火事になる」という映画のシーンで、その火事を消すために消防隊員が水を撒いているところを見たときに、この構成を思いつきました。
ファンタジーかつホラーな世界でめちゃくちゃ劇的な起承転結の巻き起こる主人公の物語の中にも、ただただ日常業務としての消火活動を行う消防士がいる。そう考えたとき、全員主役で全員脇役の話を書きたいと思いつきました。
いろんな小説を読んでいる方ほど、違うジャンルが交錯する面白さを感じていただけるのではないか
――ご執筆にあたって、苦労されたことや、当初の構想から変わった部分など、なにかエピソードがありましたらお聞かせください。
とにかくプロットに時間がかかりました。なかなかプロットが確定せずにだらだら構想ばかり練っていたので、本文を書き始めたときには賞の締切まで時間が1.5ヶ月しかなくて毎日焦っていました。
――本作は、特にどのような方にオススメの作品でしょうか? 読みどころなども含めて教えてください。
どんな人にもおすすめできます。
が、いろんな小説を読んでいる方ほど、違うジャンルが交錯する面白さを感じていただけるのではないかと思っています。
エンターテイメントにおいては「驚き」の回数や質を大切にするようにしています
――小説を書くうえで、いちばん大切にされていることをお教えください。
読んだ人を必ず複数回びっくりさせること。
「表現の技術―グッとくる映像にはルールがある(高崎 卓馬)」の“人は笑う前に必ず驚いている”という一文を読んで以来、エンターテイメントにおいては「驚き」の回数や質を大切にするようにしています。
――最後に読者に向けて、メッセージをお願いします。
あなたの隣にいる人が、実は違うジャンルの世界の住人かも……というロマンを詰め込んだ作品です。
『ノウイットオール』、ぜひ読んでみてください。
Q:最近、嬉しかったこと、と言えばなんでしょうか?
ダウ90000の単独公演「また点滅に戻るだけ」が本当に面白かったこと。
Q:ご自身は、どんな小説家でありたいと思っていますか?
読み手の想像力にやさしくストレッチをかけて拡張してあげられる小説家、「自分も小説を書きたい」と読み手が思ってくれるような作品を書く小説家。
Q:おすすめの本を教えてください!
■『マルドゥック・スクランブル』冲方丁(早川書房)
僕の中の最強のエンターテイメントはこの小説です。ずっと憧れ続けて何度も読み返します。
■『ROCKER』小野寺史宜(ポプラ社)
「小説って何かファンタジーなことが起きないと面白くできないでしょ」と思っていた高校生の僕の視野をぐっと広げてくれた小説です。
単行本版の方が好きです。
■『○○○○○○○○殺人事件』早坂吝(講談社)
小説を読んでて一番笑ったのはこの作品かも。何も事前情報なしで読んでみてください。
森バジルさん最新作『ノウイットオール あなただけが知っている』
発売:2023年07月05日 価格:1,760円(税込)
著者プロフィール
森バジル(モリ・バジル)
宮崎県生まれ。会社勤務の傍ら執筆活動を続け、本年、「ノウイットオール」で「第30回松本清張賞」を受賞し、本作として上梓。