日本の海上における安全と治安の確保を任務として1948年に設立された「海上保安庁」。海難事故の現場で救助活動を行う潜水士(海上保安官)の活躍を描いた作品などで、エンタテインメントのジャンルでも馴染みのある機関ではないでしょうか。

しかし「海のロマン」に注目が集まりがちな海保には、空のスペシャリストも存在するのです! 発売されたばかりの、梶永正史さんの最新作『ウミドリ 空の海上保安官』は、そのタイトル通り「空から海の安全を守る」海保パイロットの活躍を中心に、巡視船通信士や捜査にあたる保安官ら海保の陸・海・空が連携して事態に立ち向かう姿を描いています。

「消えたタンカーを追え」――内通者が遺した言葉からはじまる巨大な事件を、空と海を舞台に息を呑むアクションシーンの連続で見せる新たな海洋エンタテインメントとして送り出した梶永さんに、お話を伺ってみました。

私がヘリの操縦ライセンスを持っていたことから海上保安協会、広報部へと繋がり、『海保航空』についての企画がスタートしました

――今回の『ウミドリ 空の海上保安官』について、これから読む方へ、どのような作品かをお教えいただけますでしょうか。

物語は、海上保安庁のヘリパイロット、巡視船通信員、捜査官の三人の視点で進みます。

前半は、それぞれがそれぞれの職務にあたっていて交わることはありませんが、『消えたタンカー』というキーワードをもとに、無関係だと思われたそれぞれのエピソードがひとつになっていきます。

そこから、それぞれの自分の能力を発揮してテロ事件を防ぐために奔走するというストーリーです。

特にクライマックスは、ハラハラドキドキのアクションの連続になります!

――この作品が生まれたのはどんなきっかけだったのでしょうか。

きっかけは、吉川英梨先生との対談でした。すでに海上保安庁を舞台とした作品を複数発表されていましたが、私がヘリの操縦ライセンスを持っていたことから海上保安協会、広報部へと繋がり、これまであまり焦点が当てられていなかった『海保航空』についての企画がスタートしました。

取材に際しては、各ご担当者様に大変お世話になりました。

ヘリや巡視船に実際に乗せていただきましたし、特救隊の基地ではエリートの頼もしさ、呉市の海上保安大学校では将来の海上保安を担う方々の若いエネルギーに触れることができました。

また現役・OBの保安官の方々にも時間をいただきました。

(居酒屋で熱く語っていただいたことは執筆のモチベーションになりました)

『ホンモノ』に触れることで、事実をベースにした『リアルなフィクション』を描くことができたと思います。

エンタメでパイロットの凄さを、リアルにありそうな物語で表現するにはどうすれば良いか……とずいぶん悩みました

――ご執筆にあたって、苦労されたことや、当初の構想から変わった部分など、なにかエピソードがありましたらお聞かせください。

取材に際して、「優れたパイロットとは?」と質問すると「決められたことを冷静かつ確実に行えるひと」と口を揃えたように言われました。

巨大な機体を時に数センチ単位でコントロールする繊細な技術力に加え、状況によっては救助を断念するという辛い決断をしなければならないこともあります。

機長はそれらの全責任を負いますが、そういった葛藤や精神的なことを描こうとすると、動きがない分、純文学であればいいのですがエンタメ作品だと難しくなります。

エンタメでパイロットの凄さを、リアルにありそうな物語で表現するにはどうすれば良いか……とずいぶん悩みました。

海上保安官のみなさんは、日頃から『不測の事態』に備えた訓練を積まれています。

そこで、物語に、これでもかというくらい『不測の事態』を詰め込むことにしました。

パイロットだけでなく、海上保安官の各方面のスペシャリストが『不測の事態』に陥ったときにどう活躍するのか……そんなところにも注目していただけたらと思います。

――本作は、特にどのような方にオススメの作品でしょうか? 読みどころなども含めて教えてください。

本作は純粋なエンタメ作品ですので、どなたでも、どうかお気軽にお読みいただけると嬉しいです。

もちろん、ふだんあまり描かれることがなかった海上保安庁の幅広い職務の一端を見てみたいですとか、ハラハラドキドキのアクションが好きな方には特におすすめいたします。

また、『漂流していたタンカー』が忽然と姿を消す――というミステリー要素もありますので、なにが起こっているのかを、陸海空、それぞれの視点で追っていくのも楽しいかと思います。

リーダビリティにフォーカスしています。時間を忘れてしまうような読書体験をしてただけるよう心がけております

――小説を書くうえで、いちばん大切にされていることをお教えください。

リーダビリティにフォーカスしています。

単に読みやすい文章というだけでなく、思わず共感してしまうキャラクターや、先が気になるストーリー展開など様々な要素が関わりますが、それぞれのバランスを取ることで、時間を忘れてしまうような読書体験をしてただけるよう心がけております。

「ページをめくる手が止まらない!」が最高のほめ言葉で、確認のためにページを戻ってしまう……という事態に決してならないよう気を揉んでいます。

――最後に読者に向けて、メッセージをお願いします。

なにかのご縁で手に取っていただいたからには、読み終わったときに、シンプルに「あー、めっちゃ面白かった!」と思っていただけるような作品になればいいなと願いながら、日々執筆にあたっております。

これからも、ご声援のほどよろしくお願いいたします!

Q:最近、嬉しかったこと、と言えばなんでしょうか?

前作からしばらく時間が経ってしまったことと、『ウミドリ』も初取材から2年かかってしまいましたので、この度の刊行を迎えられることがとても嬉しいです。

また浅草在住の私としては、三社祭や隅田川花火、サンバカーニバルなど、賑やかさが戻ってきたことも喜びのひとつです。

Q:ご自身は、どんな小説家だと思われますか?

夢想型作家……でしょうか。

若かりし頃に映画の脚本を勉強したことがあるのですが、その影響か、執筆はまず頭の中でかっこいいシーンを映像として思い浮かべ、それを文章に変換する……といったかたちで進めていきます。

作品を手にしていただいた読者のみなさまの想像力をお借りしたとき、同じ風景が見られているといいなと思います。

Q:おすすめの本を教えてください!

■『新参者』東野圭吾(講談社)

アマチュア時代、何度も読み返しました。小説の作法、ミステリーの基礎はこの作品で学びました。

■『ダ・ヴィンチ・コード』ダン・ブラウン(KADOKAWA)

謎が謎を呼ぶ構成と、フィクションと史実の境目が曖昧で(だからこそ賛否があったと思いますが)、難しくなりがちなストーリーをスリリングな作品に纏めているのは凄いと思いました。

■『銀河ヒッチハイク・ガイド』ダグラス・アダムス(河出書房新社)

想像力が斜め上どころの騒ぎではないストーリーが展開されます。「人生、宇宙、すべての答え」が示されていて、Googleのエンジニアたちにも大きな影響を与えたようです。検索すると、答えが直接表示されますので、ぜひお確かめください。

(編集部註:邦訳初版は新潮社刊)


梶永正史さん最新作『ウミドリ 空の海上保安官』

『ウミドリ 空の海上保安官』(梶永正史) 河出書房新社
 発売:2023年10月16日 価格:1,980円(税込)

著者プロフィール

本作の取材中の1コマ(撮影/宮野直昭)

梶永正史(カジナガ・マサシ)

1969年、山口県生まれ。2013年に「真相を暴くための面倒な手続き」で「第12回『このミステリーがすごい!』大賞」を受賞、翌2014年に『警視庁捜査二課・郷間彩香 特命指揮官』と改題のうえデビュー。シリーズ5作が発表されている同作は、2016年に『特命指揮官 郷間彩香』のタイトルでドラマ化された。また2017年刊行の『組織犯罪対策課 白鷹雨音』も、『ハクタカ 白鷹雨音の捜査ファイル』として2021年にドラマ化されている。その他の著書に「警視庁捜査一課・田島慎吾」シリーズ、「x1捜査官 青山愛梨」シリーズ、『ノー・コンシェンス/要人警護員・山辺努』『産業医・渋谷雅治の事件カルテ シークレットノート』『ドリフター』があり、本年11月には『ドリフター2 対消滅』の刊行も予定されている。

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