6月13日に第171回(2024年上半期)芥川龍之介賞、直木三十五賞それぞれの候補作が発表となりました。2024年7月17日(水)には選考委員会が行われ、受賞者・受賞作が発表となりますが、それまでに芥川賞候補のうちの4作品の書籍も市場に並びます。

そこで今回も「ナニヨモ」編集部による、ひと足早いご勝手予想を加えて、候補全10作品作(各賞5作品)をご紹介します。

【第171回芥川賞候補】(五十音順) 

朝比奈秋「サンショウウオの四十九日」

周りからは一人に見える。でも私のすぐ隣にいるのは別のわたし。不思議なことはなにもない。けれど姉妹は考える、隣のあなたは誰なのか? そして今これを考えているのは誰なのか――医師としての経験と驚異の想像力で人生の普遍を描く、世界が初めて出会う物語。(初出:『新潮』2024年5月号/単行本は新潮社より7月12日発売予定/税込1,870円)

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あさひな・あき/1981年、京都府生まれ。2021年に「塩の道」で「第7回林芙美子文学賞」を受賞しデビュー。同作を含む単行本『私の盲端』を2022年に刊行。

尾崎世界観「転の声」 

「俺を転売して下さい」喉の不調に悩む以内右手はカリスマ”転売ヤー”に魂を売った⁉ ミュージシャンの心裏を赤裸々に描き出す。(初出:『文學界』2024年6月号/単行本は文藝春秋より7月11日発売予定/税込1,650円)

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おざき・せかいかん/1984年、東京都生まれ。2012年に「クリープハイプ」のボーカル&ギターとしてメジャーデビュー。2016年に初の小説作品『祐介』を発表。2020年に「母影」で第164回芥川賞候補となっている。

坂崎かおる「海岸通り」 

海辺の老人ホーム「雲母園」で派遣の清掃員として働くわたし、クズミ。ウガンダから来た同僚マリアさん。サボりぐせのある元同僚の神崎さん。ニセモノのバス停で来ないバスを毎日待っている入居者のサトウさん。さまざまな人物が、正しさとまちがい、本物とニセモノの境をこえて踊る、静かな物語。(初出:『文學界』2024年2月号/単行本は文藝春秋より7月10日発売予定/税込1,540円)

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さかさき・かおる/1984年、東京都生まれ。2020年に「リモート」での「第1回かぐやSFコンテスト」審査員特別賞をはじめ、数々のコンテストでの受賞・入賞歴を持ち、雑誌掲載やアンソロジー参加等の執筆活動を行う。2024年に初の単著として『嘘つき姫』を上梓。 

向坂くじら「いなくなくならなくならないで」 

死んだはずの親友・朝日からかかってきた一本の電話。時子はずっと会いたかった彼女からの連絡に喜ぶが、「住所ない」と話す朝日が家に住み着き――。(初出:『文藝』2024年夏季号/単行本は河出書房新社より7月12日発売予定/税込1,760円)

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さきさか・くじら/1994年、愛知県生まれ。2016年よりユニット「Anti-Trench」としてライブを中心に活動。2022年に初の著書として詩集『とても小さな理解のための』を発表。2024年に本作で小説家デビュー。

松永K三蔵「バリ山行」 

古くなった建外装修繕を専門とする新田テック建装に、内装リフォーム会社から転職して2年。会社の付き合いを極力避けてきた波多は同僚に誘われるまま六甲山登山に参加する。その後、社内登山グループは正式な登山部となり、波多も親睦を図る気楽な活動をしていたが、職人気質で変人扱いされ孤立しているベテラン社員妻鹿に、危険で難易度の高い登山「バリ山行」に連れて行ってもらうと……。(初出:『群像』2024年3月号/単行本は講談社より7月29日発売予定/税込1,760円)

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まつなが・けー・さんぞう/1980年、茨城県生まれ。2021年に「カメオ」で「第64回群像新人文学賞」優秀作を受賞しデビュー。


【第171回直木賞候補】(五十音順) 

青崎有吾『地雷グリコ』  

射守矢真兎、女子高生。勝負事に、やたらと強い。平穏を望む彼女が日常の中で巻き込まれる、風変わりなゲームの数々。罠の位置を読み合いながら階段を上ったり(「地雷グリコ」)、百人一首の絵札を用いた神経衰弱に挑んだり(「坊主衰弱」)。次々と強者を打ち破る真兎の、勝負の先に待ち受けるものとは――ミステリ界の旗手が仕掛ける本格頭脳バトル小説、全5編。(KADOKAWAより発売中/税込1,925円) 

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あおさき・ゆうご/1991年、神奈川県生まれ。2012年に『体育館の殺人』で「第22回鮎川哲也賞」を受賞しデビュー。

麻布競馬場『令和元年の人生ゲーム』  

慶應の意識高いビジコンサークルで、働き方改革中のキラキラメガベンチャーで、「正義」に満ちたZ世代シェアハウスで、クラフトビールが売りのコミュニティ型銭湯で……。”意識の高い”若者たちのなかにいて、ひとり「何もしない」沼田くん。彼はなぜ、22歳にして窓際族を決め込んでいるのか?(文藝春秋より発売中/税込1,650円)

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あざぶけいばじょう/1991年生まれ。2021年ごろからTwitter(現・X)上にて小説作品を発表。それらのなかから20作品を収録した書籍『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』を2022年に刊行。

一穂ミチ『ツミデミック』  

大学を中退し、夜の街で客引きのバイトをしている優斗。ある日、バイト中に話しかけてきた大阪弁の女は、中学時代に死んだはずの同級生の名を名乗ったが……。(「違う羽の鳥」)――ほか、鮮烈なる「犯罪」小説全6話。(光文社より発売中/税込1,870円)

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いちほ・みち/1978年、大阪府出身。2007年に「雪よ林檎の香のごとく」でデビュー。『スモールワールズ』で第165回、『光のとこにいてね』で第168回の直木賞候補となっている。

岩井圭也『われは熊楠』  

慶応3年、和歌山に生まれた南方熊楠。学問で身をたてること、そしてこの世の全てを知り尽くすことを望みながらも、在野を貫く熊楠の研究はなかなか陽の目を見ることがないのだった。世に認められぬ苦悩と困窮、家族との軋轢、学者としての栄光と最愛の息子との別離…。かつてない熊楠像で綴る、エモーショナルな歴史小説。(文藝春秋より発売中/税込2,200円)

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いわい・けいや/1987年、大阪府出身。岩井圭吾名義で2016年の「第14回ノベラボグランプリ」ほか複数の賞を受賞。2018年に『永遠についての証明』で「第9回野性時代フロンティア文学賞」を受賞し、現在のペンネームに改め本格的にデビュー。

柚木麻子『あいにくあんたのためじゃない』  

過去のブログ記事が炎上中のラーメン評論家、夢を語るだけで行動には移せないフリーター、もどり悪阻とコロナ禍で孤独に苦しむ妊婦、番組の降板がささやかれている落ち目の元アイドル……いまは手詰まりに思えても、自分を取り戻した先につながる道はきっとある。この世を生き抜く勇気がむくむくと湧いてくる全6編。(新潮社より発売中/税込1,760円)

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ゆずき・あさこ/1981年、東京都生まれ。2008年 に「フォーゲットミー、ノットブルー」で「第88回オール讀物新人賞」を受賞しデビュー。2010年には同作を含む単行本『終点のあの子』を発表。『伊藤くんAtoE』で第150回、『本屋さんのダイアナ』で第151回、『ナイルパーチの女子会』で第153回、『BUTTER』で第157回、『マジカルグランマ』で第161回の直木賞候補となっている。


ナニヨモ編集部の予想!

坂崎かおる氏はWEBでの小説発表、麻布競馬場氏はTwitter(現・X)でと、奇しくもネットにルーツを持つ作家が芥川賞・直木賞それぞれにノミネートされていることが、時代のひとつの象徴のようにも感じられる今回。坂崎氏には3月に刊行された単著デビュー作でも「新刊インタビュー」にご登場いただいていて、ナニヨモとしても大きく注目しています。

芥川賞ではアーティスト系の作家もおふたりノミネートされています。2回目となる尾崎世界観氏が話題となっていますが、ここは初小説で初ノミネートとなった向坂くじら氏をナニヨモの推しとしてみます。

ということで、今回の芥川賞予想はおふたりを挙げさせていただきました!

第170回の直木賞では、実に6度目のノミネートとなった万城目学氏の受賞が大きな話題となりました。今回複数回候補となっているのは一穂ミチ氏と柚木麻子氏のおふたり。しかし! 女子高生の痛快な頭脳バトルを描いて初ノミネートとなった青崎有吾氏の受賞と、ナニヨモは予想いたしました!!

芥川賞予想

(初)朝比奈秋「サンショウウオの四十九日」
(2)尾崎世界観「転の声」
(初)坂崎かおる「海岸通り」
(初)向坂くじら「いなくなくならなくならないで」
(初)松永K三蔵「バリ山行」

直木賞予想

(初)青崎有吾『地雷グリコ』
(初)麻布競馬場『令和元年の人生ゲーム』
(3)一穂ミチ『ツミデミック』
(初)岩井圭也『われは熊楠』
(6)柚木麻子 『あいにくあんたのためじゃない』

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