あなたは、好きなラジオ番組がありますか?
たとえば推しのタレントがパーソナリティーを務める番組? ときどきメールやハガキで、好きな曲をリクエストしたり、身の回りで起きたちょっとした出来事を投稿したり? 明日の学校や仕事が気になりつつも、眠い目をこすりながら聞いてしまう深夜番組だったり?
テレビのようになりゆきをただ受け取るだけのような遠さではなく、SNSのように親密さを錯覚してしまうほど近過ぎもしない――ラジオの持つそんな程よい距離感に居心地の良さを感じる方はたくさんいるのではないでしょうか?
発売されたばかりの保坂祐希さんの最新作『ビギナーズ・ライブ!』の主人公・陽菜も、ラジオをこよなく愛するひとり。大阪のFM局に勤める彼女は、遂に念願叶ってディレクターとして新番組を任されます。しかし集まったのはワケありプロデューサーと素人パーソナリティーたち。そんなメンバーで、いったいどんな番組ができるのでしょうか?
新米ディレクターの悪戦苦闘を描いた新作について、保坂さんにお話を伺いました。
酔いが醒めてから、実は自分が無類のテレビっ子であり、ラジオのことを全く知らないことを思い出しました
――今回の『ビギナーズ・ライブ!』について、これから読む方へ、どのような作品かをお教えいただけますでしょうか。
家庭にも学校にも居場所がない、孤独な思春期をラジオの世界に没入することで救われた主人公、久能木陽菜は念願叶ってラジオ放送局への入社を果たす。といっても採用されたのは、それまで縁もゆかりもなかった大阪の、そこそこ有名な下町FM局。その数年後、彼女はディレクターに昇格し、自分の番組を企画から任されるチャンスを得た。番組作りは陽菜が子供の頃からの夢だったのだが、蓋を開けてみると、一緒に番組を作ることになったのはテレビ至上主義のバツ3プロデューサーの二階堂。そして、オーディションで採用したパーソナリティは再雇用社員として運送会社で働く還暦目前の小手川と、全くやる気のないFラン大学生の祐太郎。ド素人の集団が作る番組ということで、番組名は『ビギナーズ・ライブ』に決まったが、ラジオをこよなく愛する陽菜は、この烏合の衆を結束させ、人気番組を作り上げることはできるのか⁉ と言った感じの物語です。
――この作品が生まれたのはどんなきっかけだったのでしょうか。
初めてタッグを組むことになった担当編集さんが大のラジオ好きで、ラジオ局を舞台に執筆することになりました。まあ、その夜は酔っぱらっていて、うっかり、ラジオ? いいんじゃない? よう知らんけど。と、無責任な話がとんとん拍子に進みました。が、酔いが醒めてから、実は自分が無類のテレビっ子であり、ラジオのことを全く知らないことを思い出しました。しかし、今さら記憶喪失のふりもできず、ラジオのことを調べまくりました。そして、ラジオが知れば知るほど魅力的なツールであることを思い知らされました。聴覚だけでラジオの世界に浸る、その没入感は他にないと思います。
――ご執筆にあたって、苦労されたことや、当初の構想から変わった部分など、なにかエピソードがありましたらお聞かせください。
先ほど申し上げましたように、ラジオのことをあまりにも知らなかったので、複数のFM放送局さんを見学し、取材させて頂きました。実際にスタジオや放送機材を拝見し、スタッフの皆さんからお話をお聞きしたことで、自分の想像が間違っていたことがわかったり、リアリティが薄かったことに気づいたりしました。
学校や家庭に居場所がなくて孤独を感じておられる方、または過去にそんな時代を経験された方などに読んでいただければ
――本作は、特にどのような方にオススメの作品でしょうか? 読みどころなども含めて教えてください。
年齢に関係なく、今現在、学校や家庭に居場所がなくて孤独を感じておられる方、または過去にそんな時代を経験された方などに読んでいただければと思います。ラジオに救われた主人公のように、一瞬でも、現実を忘れて別世界に浮遊していただけたなら幸いです。
――小説を書くうえで、ご自身にとっていちばん大切にしていることや拘っていることをお教えください。
オリジナリティです。これだけ沢山の小説が世に出ていますので、設定や登場人物というのはもう出尽くしているとは思うのですが、その組み合わせや物語運びで差別化を図れたらいいな、と思っています。
――最後に読者に向けて、メッセージをお願いします。
読者の皆様、そして、いつも保坂祐希を応援してくださっている関係者の皆さま、本当にありがとうございます。いつか売れっ子になって、これまで支えてくださった皆様に御恩返しをしたいと思っています。いや、マジで。
さて、今年は企業ミステリーである『偽鰻』、高齢者が主人公のハートフルなヒューマンドラマ『死ねばいい! 呪った女と暮らします』、そしてこちらのお仕事系青春コメディ『ビギナーズ・ライブ!』の三冊が刊行されました。テイストも主人公の年齢もバラバラですが、お気に召した表紙を(笑)、手にとって頂けたらと思います。そして、来年も全く違うジャンルに挑戦する予定です。引き続き、よろしくお願いいたします。
Q:最近、嬉しかったこと、と言えばなんでしょうか?
めちゃくちゃ嬉しいことがあったのですが、個人的な話なのでここでは伏せさせて頂きます。
Q:ご自身はどんな小説家だと思われますか?
依頼があれば、どんなジャンルでも書いてしまう節操のない作家。
Q:おすすめの本を教えてください!
■『沈まぬ太陽』山崎豊子(新潮社)
■『鵼の碑』京極夏彦(講談社)
■『くだんのはは』小松左京(角川春樹事務所)
保坂祐希さん最新作『ビギナーズ・ライブ!』
発売:2024年07月19日 価格:814円(税込)
著者プロフィール
保坂祐希(ホサカ・ユウキ)
2018年に『リコール』でデビュー。その他の著書に『偽鰻』(単行本時タイトル『黒いサカナ』)『大変、申し訳ありませんでした』『大変、大変、申し訳ありませんでした』『人斬り美沙の人事査定帳』『「死ね、クソババア!」と言った息子が55歳になって帰ってきました』、近著に『死ねばいい! 呪った女と暮らします』がある。