タイムスリップ――主人公がなんらかのきっかけで過去や未来に移動し、行った先の時代でさまざまな体験をする、SFやファンタジーでは人気のモチーフですよね。でもこの『にゃんずトラベラー かわいい猫には旅をさせよ』で時空を超えるのは「猫」なんです!?

飼い主・千代の海外出張の間、京都にある千代の実家に預けられた子猫の茶々。先住猫の影丸と伏見稲荷を散策していると、ひょんなことから40年前の世界にタイムスリップしてしまい――。そう、これは子猫の目線で描かれる冒険の物語なのです!

悩みを抱えた人たちと、薬の代わりに処方される「猫」たちの交流を描いた、癒やしの猫小説『猫を処方いたします。』を大ヒットさせた石田祥さんが、発売されたばかりの本作では、令和の子猫が昭和で体験する冒険や交流で読者に新たな癒やしを与えてくれます。さっそく石田さんにお話を伺いました!

令和生まれのスコティッシュが、おニャン子、なめ猫などに憧れて、人情味溢れる昭和の猫たちと共に祇園のディスコで活躍します

――今回の『にゃんずトラベラー かわいい猫には旅をさせよ』について、これから読む方へ、どのような作品かをお教えいただけますでしょうか。

主人公は猫そのもの。舞台は京都の伏見稲荷。そして時代は現在から1985年ごろへとタイムスリップするファンタジー小説です。令和生まれのスコティッシュが、おニャン子、なめ猫などに憧れて、人情味溢れる昭和の猫たちと共に祇園のディスコで活躍します。時代が変われば猫事情も随分と変わるようです。その違いを楽しんでください。

――この作品が生まれたのはどんなきっかけだったのでしょうか。

創作の話題を人とすることは滅多にないのですが、京都と猫を取り入れた小説を考えていた時に、知り合いから猫が旅をする話はどう? とアイデアをもらいました。ちょうどその帰り道に伏見稲荷大社があり、よい機会だからと足を延ばして寄ってみました。十数年ぶりの伏見稲荷は京都在中の私の目から見てもとても神秘的で、猫が時を超える不思議な話を生み出してくれました。

内容はライトなのですが、修正回数は今までで一番多かったかもしれません

――ご執筆にあたって、苦労されたことや、当初の構想から変わった部分など、なにかエピソードがありましたらお聞かせください。

ファンタジーでありながら、猫の種類や行動を現実に近付けることに少し苦労しました。編集者さんが動物に詳しく、この猫だと外見と描写が一致しないなど意見をもらい、書き終えるギリギリまで猫種が決まりませんでした。時代背景もリアルと創作の兼ね合いが難しく、内容はライトなのですが、修正回数は今までで一番多かったかもしれません。その分、ラストの一文が自分でもじんわりと沁みます。

――本作は、特にどのような方にオススメの作品でしょうか? 読みどころなども含めて教えてください。

猫目線で京都観光やタイムスリップがしてみたい方にオススメです。おうちで猫を飼っている方は、猫になってお出かけするつもりで読んでみてください。主人公は普段モフモフされることに慣れている猫です。あざとポーズする時に猫が何を考えているか、飼い主のことがどんなに好きか、猫の気持ちが知りたい方はぜひ読んでみてください。

プロットがないので頓挫することも多く、一作出来上がれば今回は運がよかったなとホッとしています

――小説を書くうえで、ご自身にとっていちばん大切にしていることや拘っていることをお教えください。

今、自分が読みたいもの、表現したいものをテーマも方向性もなく書き始めます。そこに自分が昔、素敵だなと思ったもの、映画のワンシーンや、漫画のセリフ、歌や絵画、情景などを散りばめています。執筆は自分の趣味なのでとても楽しいのですが、プロットがないので頓挫することも多く、一作出来上がれば今回は運がよかったなとホッとしています。

――最後に読者に向けて、メッセージをお願いします。

猫たちと一緒に京都の町を冒険してみてください。ネタバレになりますが、私の書く小説はすべてハッピーエンドです。私自身が、そういうものを求めています。声を出して笑ったり、ギョッとしたり、時には肩をビクつかせたりと、読書で感情を揺さぶられるような物語をお届けしたいです。

Q:最近、嬉しかったこと、と言えばなんでしょうか?

三年ほど会っていない友人をお出かけに誘おうと思っていたら、向こうからお誘いがあったこと。

来月会うので楽しみです。

Q:ご自身は、どんな小説家だと思いますか?

楽観的な小説家だと思っています。多分、書き終わるだろうと思って書いています。

Q:おすすめの本を教えてください!

古い本ばかりですみません。おススメというより、自分が感銘を受けた本です。

■『センセイの鞄』川上弘美(文藝春秋)

最後のくだりでそれまでのすべてを色付かせるような、感情を揺さぶる本です。

■『鉄道員(ぽっぽや)』浅田次郎(集英社)

設定の潔さに驚かされ、小説を書く者として震えるほどの衝撃を受けました。

■『すべてがFになる』森博嗣(講談社)

本格的でありながら、どこかアニメチックな理系キャラクターミステリーです。登場人物の思考までが理系で自分では絶対に書けない。タイトルがとても好きです。


石田祥さん最新作『にゃんずトラベラー かわいい猫には旅をさせよ』

『にゃんずトラベラー かわいい猫には旅をさせよ』(石田祥) 実業之日本社
 発売:2024年12月06日 価格:825円(税込)

著者プロフィール

石田祥(イシダ・ショウ)

1975年、京都府生まれ。2014年に「トマトのために」で「第9回日本ラブストーリー大賞」大賞を受賞し、改題のうえ『トマトの先生』でデビュー。2023年刊行の『猫を処方いたします。』は「第11回京都本大賞」「第13回うつのみや大賞文庫部門」を受賞し、コミカライズが行われているほか、世界25か国から翻訳オファーが届き現在進行中。主な著書に「猫を処方いたします。」シリーズ、「ドッグカフェ・ワンノアール」シリーズ、『元カレの猫を、預かりまして。』『夜は不思議などうぶつえん』『火星より。応答せよ、妹』などがある。

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