バンド「DREAMS COME TRUE」(ドリカム)の大ファンで知られる、作家のいぬじゅんさんが、ドリカムの楽曲『LAT.43°N ~forty-three degrees north latitude~』(北緯43度)をもとに書きあげた小説『北上症候群』が刊行されました。

 2014年にある賞に入選した自作品を、8年間の時を経て、大幅に書き直し、感涙必至の物語に生まれ変わらせました。

 刊行にあたり、いぬじゅんさんにお話をうかがいました。

実際に深夜特急に乗り北海道へ

――『北上症候群』について、これから読む方や購入を検討されている方へ、内容をお教えいただけますでしょうか

 神戸に住む琴葉がある朝出社すると会社が倒産していた。

 札幌に住む遠距離恋愛中の恋人・海斗に電話をし不安をぶつけるが、彼の反応はなぜか歯切れが悪い。

 それは、最近再会したと聞く元カノのせいかもしれない。

 悩んだ琴葉は、衝動的に札幌へ向かう深夜特急のチケットを購入し、彼に会いに行くことにする。

 同じ深夜特急で出会う様々な人たちの悩みを知り、琴葉は自分自身を見つめ直していく。

 札幌駅に到着した時、琴葉が出した答えとは――。

――本作を書こうされたきっかけ、ストーリーの着想を得たきっかけなどをお聞かせください。

 DREAMS COME TRUE(以下ドリカム)がデビューして以来、周りの人が引くくらいの大ファンです。数ある曲のなかでも「LAT.43°N ~forty-three degrees north latitude~」はストーリー性があり、くり返し何度も聴いています。

 曲中の主人公は、離れた地で暮らす恋人に不安な思いを募らせ、別れを待っているように聞こえます。ソングノベルズ大賞が開催されることを聞き、この主人公に別の結末を贈りたい、と強く思ったことがきっかけです。

 物語の主人公になり切ろうと、実際に深夜特急に乗り北海道へ向かいました。

 車中でプロットを練り直したり、いろんな人に話を聞かせてもらいました。登場するエピソードのいくつかは実話が元となっています。(どうでもいいことですが、札幌駅前を出たとたん雪で足を滑らせ激しく転倒し、鼻血まみれになりました。近くにいる方たちが助けてくださいました)

小説の中だけでも旅気分を味わってもらえたら

――執筆時のエピソードを教えてください。また、2015年刊行時から加筆されたストーリーや、加筆修正をされたときの思いをお聞かせください。

 コンテストに応募したのは、小説家としてデビューしたての頃でした。

「ドリカムが好き」という勢いだけで完成させた作品でしたが、受賞後の編集作業は大変苦労しました。

 今思えば、時系列も登場人物の言動も一貫性がなく、編集部の方に一から執筆の基礎を学ばせてもらった記憶があります。

 今回、最初から書き直すという機会を実業之日本社様からいただきました。

 七年ぶりに見直すと、今だからこそわかることもたくさんありました。主人公がする『新しい私を探す旅』に、より説得力が出るように新たな登場人物を加えることにしました。

 その人物により新たな展開が生まれ、波のようにほかの登場人物の言動も変わっていきました。最終的にラストシーンを変えるほどの変化でしたが、よりいぬじゅんらしい作品になったと思っています。

――どのような方にオススメの作品でしょうか? また、今回の作品の読みどころもお教えください。

 私は旅行好きです。暇さえあればバックパックひとつ背負って海外を旅していました。コロナ禍で今は叶いませんが、小説の中だけでも旅気分を味わってもらえたら、と思います。

私の作品には、複数作品にまたがって登場するキャラクターがいます。ある作品で主役だった人が違う作品ではクラスメイトだったり、同僚だったり……。見る人が見ればわかるような仕掛けが好きなんです。

 今作では『健太』という登場人物がそれに当たります。「叶わない恋を叶える方法」(ステキブックス)に登場していた健太が、今回も個性豊かなキャラを発揮していますのでお楽しみいただきたいです。

 いぬじゅん作品初の解説を、中村航先生にお願いしました。昔から尊敬してやまない中村先生に書いていただけるなんて幸せです。

 まさに夢は叶う、DREAMS COME TRUEですね。

読みやすく、分かりやすくをモットーに

―― 小説を書くうえで、大切にされていることをお教えください。

 実は小説はあまり読みません。詩やエッセイはスラスラ読めても、小説だと数週間かけてようやく読み終わることが多いんです。

 執筆する上で、なるべく読みやすく、分かりやすくをモットーにしています。

「あっという間に読めた」と言ってもらえることが、一番うれしい感想なんです。

――最後に、いぬじゅんさんファンの方に向けて、メッセージをいただけますでしょうか。

 おかげさまで今年の三月でデビュー八周年を迎えることができます。いつも応援してくださる皆様のおかげです。

 本当にありがとうございます。

 いぬじゅんさんのドリカム好きは有名ですが、2014年にドリカムの楽曲をもとにしたコンクールで入選されているとは存じませんでした。

 当時はいぬじゅんさんがデビューして間もなかった時期とのこと。それから8年の間に数多くの作品を出され、人気作家となったいぬじゅんさん。8年間という歳月が、当時の入選作をどのように生まれ変わらせたのか大変興味深く思いました。愛と優しさに満ちた物語、勇気をいただきました。

Q:最近、嬉しかったこと、と言えばなんでしょうか?

 長年ドリカムのファンなのですが、先日のライブではじめての一列目、しかもど真ん中の席で参加できました。あまりにうれしすぎて、ライブ中ずっとドリカムを拝み続けていました。

Q:ご自身は、どんな小説家だと思われますか?

 タイトルをつけられない小説家。「北上症候群」は自分でつけることができましたが、他作品では却下されることの方が多いんです。タイトルセンスがないのかもしれません。

Q:おすすめの本を教えてください!

・『夜』赤川次郎

 小学生の頃、初めて読んだ大人が主人公の小説が「夜」でした。冒頭、主人公の女性が不倫しているシーンからはじまる、という衝撃は今でも忘れられません。赤川次郎先生の軽快なストーリー展開は今でもあこがれます。

・「つれづれノート」シリーズ(銀色夏生)

 今も続いているエッセイ集です。銀色夏生先生の考え方や行動にはいつも驚かされ、感銘を受けています。新刊が出るたびに必ず読んでいます。

・『検察側の証人』(アガサ・クリスティ)

 どんでん返しが好きになったのは、まぎれもなくこの作品の影響です。映画「情婦」の原作で、どちらも見るたびに「おおお」とうなってしまいます。

いぬじゅんさん『北上症候群』

『北上症候群』(いぬじゅん) 実業之日本社
 発売:2022年02月04日 価格:759円(税込)

著者プロフィール

いぬじゅん (イヌジュン)

 奈良県出身、静岡県浜松市在住。2014年『いつか、眠りにつく日』(スターツ出版)で第8回日本ケータイ小説大賞を受賞し作家デビュー。同作はシリーズ累計20万部を超えるベストセラーに。
 2019年『この冬、いなくなる君へ』(ポプラ社)で、第8回静岡書店大賞「映像化したい文庫部門」大賞受賞。他に『無人駅で君を待っている』(スターツ出版)、『叶わない恋を叶える方法』(ステキブックス)、『今、きみの瞳に映るのは。』(実業之日本社)、『この恋は、とどかない』(集英社)など人気作品多数。
 持ち味の〝どんでん返し×泣けるヒューマンファンタジー〟には根強いファンを持つ。

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