中学時代の友人関係のトラブルがトラウマとなって、自分を本当の気持ちを口に出せなくなってしまった女子高生・森沢和奏(もりさわわかな)は、その日、美術部の活動を終え帰宅の電車を待つホームで、幼馴染みの佐野翔悟(さのしょうご)と一緒になりました。
翔悟の、思ったことを躊躇せず口に出すマイペースさに苦手意識を感じ、いまではすっかり疎遠となり、同じクラスになった今年もいまだに挨拶を交わす程度で、気まずい時間を過ごすことになってしまった和奏。だから電車が滑り込んできたときには救われた気持ちだったかもしれません。乗り込んだその電車が数分後、自分の運命を大きく変えることなど思いもしないまま――。
十代を中心に、「青春」「恋愛」をテーマとした作品でエモい読書体験を提供する新たな文芸シリーズ「双葉文庫パステルNOVEL」の第2弾として、和泉あやさんの最新刊『色を忘れた世界で、君と明日を描いて』が発売されました。
事故に巻き込まれ、同じ1日をくりかえすことになってしまった女子高生が、そこから抜け出し未来へ進むために「過去」と向き合う青春ファンタジー作品を発表した和泉さんに、お話を伺いました。

美術部員だった娘が「自分らしい絵がわからない」と悩んでいたのを元に、和奏という「自分らしさ」に悩むキャラクターが生まれました
――今回の『色を忘れた世界で、君と明日を描いて』について、これから読む方へ、どのような作品かをお教えいただけますでしょうか。
主人公は、和奏という高校二年生の女の子です。
和奏は過去、自分の発したひと言が原因で、仲の良かった友人と仲違いしてしまい、それがトラウマとなって言いたいことを飲み込み、人の意見に合わせるようになってしまいます。
そうして言葉を飲み込むたびに自己嫌悪と後悔が生まれ、見失っていく自分らしさ。
今作は、そんな後悔まみれの和奏が事故をきっかけに苦手な幼馴染とタイムリープすることで、自分らしさを取り戻していく青春リライト物語です。
――この作品が生まれたのはどんなきっかけだったのでしょうか。
様々な作品を書くたびに「私らしい作品とはなんだろう」という疑問が芽生えるのですが、そこに加え、プロット作成当時、中学生で美術部員だった娘が「自分らしい絵がわからない」と悩んでいたのを元に、和奏という「自分らしさ」に悩むキャラクターが生まれました。
そして、私はファンタジックな世界観が好きで、以前もタイムリープのお話を書いたことがあるのですが、その時とても楽しかったので再チャレンジに至りました。
――ご執筆にあたって、苦労されたことや、当初の構想から変わった部分など、なにかエピソードがありましたらお聞かせください。
苦労というほどではないのですが、同じ日々を繰り返す中に変化を出していく描写は気を使いました。
また、作中に「キャンバスから色が消えていく」「視界の色が褪せていく」というタイムリミットに繋がる設定があるのですが、こちらは担当さんとアイデアを出し合って生まれたものです。
これが入ることで、緊迫感が加わり、読み応えがあるものになったと思います。
過去は変えられないけれど、未来をどう生きるかは選んでいける。変えていける。そんな前向きな気持ちになれる作品となっています
――本作は、特にどのような方にオススメの作品でしょうか? 読みどころなども含めて教えてください。
絶賛青春中の方はもちろん、大人の方も青春を振り返れる作品になっている……なっていればいいなと思います(笑)。
また、「言いたいことを飲み込む」「人に合わせてしまう」というのは、どの年代の友人・恋愛・人間関係にも通ずるかなと思います。
なので、学生さんはもちろん、大人の方も楽しんでいただける作品になっているのではないでしょうか。
――小説を書くうえで、ご自身にとっていちばん大切にしていることや拘っていることをお教えください。
常に読者様の心を意識しています。
作品の系統によって笑ってもらえているか、寄り添えているか、晴れやかな気持ちになってもらえているか。
そのうえで、自分も楽しんで書ける物語であることを心掛けています。
――最後に読者に向けて、メッセージをお願いします。
今作は同じ日々を繰り返す中で、主人公が気づきを得て、踏み出し、成長していく物語です。
ですが、実際の人生はやり直しのきかないもの。
過去は変えられないけれど、未来をどう生きるかは選んでいける。変えていける。
『色を忘れた世界で、君と明日を描いて』は、そんな前向きな気持ちになれる作品となっていますので、ぜひお手に取っていただけますと幸いです。

Q:最近、嬉しかったこと、と言えばなんでしょうか?
娘が受験で第一志望校に合格したことです!
本人の二年間の努力を見てきたので、合格の文字を見た時は涙が出ました。
ダメでも努力は無駄にならないと思っていますが、報われてよかったです。
Q:ご自身はどんな小説家だと思われますか?
チャレンジャーでしょうか(笑)。
小説や漫画、映画、ドラマなど、ジャンルにこだわらず好きなものを読んだり観たりしているのですが、自分で執筆するものも、ご縁があればあまりこだわらずにチャレンジさせてもらっています。
最近では漫画・ウェブトゥーン原作を担当していますが、勉強になり、楽しみながら執筆しています。
Q:おすすめの本を教えてください!
■『ラブレター』岩井俊二(KADOKAWA)
文章で号泣するというのを初めて体験したのが『ラブレター』でした。
寝る前に読んだため、翌日の目の腫れようといったら……。
『南総里見八犬伝』曲亭馬琴
小学生の頃、図書室で子供向けのものを見つけて読んだのがきっかけでハマりました。
それからは、映画でもアニメでもドラマでも、里見八犬伝と聞けば飛びつくくらい好きです。
※編集部註・写真の『ビギナーズクラッシックス 南総里見八犬伝』(KADOKWA)のほか、各社から刊行されています
■『ふしぎ遊戯』渡瀬悠宇(小学館)
漫画にハマるきっかけとなった作品です。
毎月雑誌を買って連載を追いかけていました。
CDブックも発売日にゲットし鬼リピート。
鬼宿から入り、柳宿に心を奪われ、ラストは朱雀箱推しでした。
和泉あやさん最新作『色を忘れた世界で、君と明日を描いて』

発売:2025年04月09日 価格:737円(税込)
著者プロフィール
和泉あや(イズミ・アヤ)
2013年に『恋の唄』で書籍デビュー。ケータイ小説や小説投稿サイトなどWebでの活動を続けながら、『桜涙〜キミとの約束〜』『きみと繰り返す、あの夏の世界』『君がいない世界は、すべての空をなくすから。』などの青春恋愛作品をはじめ、大人向け恋愛小説、異世界ファンタジーなど多彩なジャンルの小説書籍を発表。また作品のコミカライズのほか、現在はコミック『囚われ聖女は、ある日突然冷酷な敵国皇帝に求婚される』、WEBTOON『小さな皇子を拾ったら溺愛されました』などの原作も手掛けている。