裏社会を描いたノワール小説から、ピュアな純愛小説まで幅広い作風で人気の作家・新堂冬樹さん。今回は新堂さんの初の試みとして、ノワールな“黒新堂”作品と、ピュアな“白新堂”作品を、最高のバランスで組み合わせた、ハイブリッド新堂作品に挑まれたとのこと。
刊行にあたって、お話をお聞きしました。
白・黒 いいとこ取りしたハイブリッド新堂作品!
――『任侠ショコラティエ』について、これから読む方へ、内容をお教えいただけますでしょうか。
これまで、純愛とかピュアな世界観のものを「白新堂」、アンダーグラウンドとか官能的なものを「黒新堂」と、真逆なものをずっと書いてきたなかで、今回の『任侠ショコラティエ』は、いい意味で白新堂と黒新堂の両方の要素を持っている物語です。
これは中途半端に薄くしたということではなくて、思いっきり黒い部分、例えば喧嘩の格闘シーンとかは、メインキャストやその周りの敵キャラとか盛りだくさんに出てくるんですけども、その辺の描写はディープブラックと言われてるような黒新堂作品にも劣ってないどころか、部分的には勝っているところもあるぐらいの過激さになっています。
――本作を書こうとされたきっかけを教えていただけますでしょうか。
私は24年間かけて100冊近くの本を書いてきましたが、やっぱり何か新しいことへの挑戦をしたいんですね。アンダーグラウンドやノワール小説で、そこそこ名前が売れてきたときに、新興宗教の話を書いたり、『忘れ雪』という純愛小説を初めて書いたり、常に新しい挑戦をやってきた人間なので、今回も自分の中では結びつかない「スイーツ」というテーマで、そこに任侠を絡めて、書いてみました。
執筆にあたっては取材と称して、代官山、自由が丘、中目黒とか、そういうところのめずらしいボンボン・ショコラとかを、自分で巡ってかなり取材しました。公私混同した取材ですけどね。
これまでのトップ3に入る強烈なキャラクター 星咲直美
――ご執筆にあたって、苦労されたことや、当初の構想から変わった部分など、執筆時のエピソードをお聞かせください。
私はいつも自分が笑いながら、楽しみながら物語を書くタイプなんで、そのなかでの苦労をあえて言うならば、今回は白新堂と黒新堂がミックスした作品なので、そのバランスを間違えないようにすることに気を遣いました。
黒が悪い意味で強い描写になりすぎるとか、白が必要以上に優しい文章になっていたりすると、料理で例えたら、味が分離したり、喧嘩したり、反対に薄味になりすぎたりしないよう、白と黒の調味料がお互いに一番いい形で混ざり合って、最高の味になるための配分が、結構大変というか、気を遣いましたね。
当初の構想から変わった部分は、私はどちらかというと、編集者といろいろ話し合いながらやるので、微調整みたいなことはありましたね。やっぱり読者あっての物語なので。そんなに大きく変わった部分というのはなく、めちゃめちゃ下品なことや、めちゃめちゃエロいことを書きすぎていたら、もうちょっと和らげようかなとか、そういうのはありましたね。
――どのような方にオススメの作品でしょうか? また、本作の読みどころも教えてください。
主人公・星咲直美(ほしさき なおみ)というのは、女性のような名前をしてるのですが、見た目はライオンのように金髪の逆立った、アニメで言うと、ラオウ(『北斗の拳』)と範馬勇次郎(『グラップラー刃牙』)を足して2で割ったような、凶暴な百獣の王みたいな男ですね。これまでいろんな強烈なキャラを書いてきましたが、トップ3に入るぐらい強烈なキャラです。もしかしたら1番と言っちゃってもいいかもしれません。
性格も、これまでのトップ3に入るぐらい、とんでもない性格です。この直美っていうのは、破天荒っていうのを絵に描いたような男です。喧嘩の強さも、新堂作品では喧嘩の化け物がいっぱい出てきますけど、素手での対決で言うと間違いなく1、2位を争いますね、この直美というキャラクターが見どころです。笑えるところもいっぱいあります。
白も黒もいい具合に入っているので、コメディータッチのポップなものが好きな人が読んでもめちゃめちゃ面白いですし、かと言って黒いの大好きな黒新堂ファンが読んでも物足りないなっていうふうにもならないし、そういう意味では、白と黒のバランスがうまくいったので、いいとこ取りできます。どちらのファンにも楽しんでもらえる作品になってます。
プロットはほとんど書かない。取材も9割捨てる
――小説を書くうえで、いちばん大切にされていることをお教えください。
私は基本的にプロットを書かないんですよ。プロットを書かないのは、最初に決めていても、書いているうちに変わるからです。キャラとか性格とか、結末とか流れが。変わらないと面白くならないんですよ、どんどん変わるほうが面白くなるんです、私の場合は。だからまずは、プロットはほぼ書かないということ。
あとは、取材したことの90%ぐらいは捨てます。捨てるっていうか元々メモを取らないし、テープもあまり録りませんね。取材したことを使いたがる人がいるんですが、説明書きみたいになってしまって、なんかつまらないんですよね。読んでいる方が面倒くさくなってしまって。
だから、私の場合は100取材したうちの10ぐらいですかね。本当に印象に残ってることを、自然に出てくることを書かせてもらう。だから咀嚼して消化されたものが文に自然に出てくるっていう感じにするのがよいと思っています。
――最後に読者に向けて、メッセージをお願いします。
重複してしまうかもしれませんが、今回は初の試み、白と黒の一番いい部分を、いいとこ取りした作品になってるので、ディープブラック新堂ファンにも、ピュアホワイト新堂ファンにも楽しんでいただける作品になっております。そのハイブリッド新堂作品を、ぜひ堪能してください。
かつて「歌舞伎町の王」と呼ばれた伝説の元極道が、歌舞伎町でボンボンショコラの専門店「ちょこれーと屋さん」を営むという設定から、どういうこと!? と目が離せなくなります。
作家としてだけではなく、様々なビジネスをされているというお話が印象的でした。活動のすべてが取材となることで、作品世界のリアリティが増し、読者を引き付けるエネルギーが生み出されているのだと感じました。
黒い新堂作品と、白い新堂作品のいいとこ取りをした作品なので、初めて新堂さんの作品を読む人にもオススメできる作品です。
Q:最近、嬉しかったこと、と言えばなんでしょうか?
犬が大好きで、ずっと飼っているんですけれども、些細なことなんですが、血液検査とか年に1回やったときにどこも悪くないっていうことがやっぱり嬉しいですね。
前に飼っていた犬を悪性リンパ腫で亡くしています。人間の1日は犬にとっては1週間なので、犬は人間の7倍のスピードで年をとっていくんですよ。だから、1日1日ご飯を食べて元気に遊んで、ウンコオシッコして、よく寝て、ってこれが一番の幸せなんですよ。
Q:ご自身は、どんな作家だと思われますか?
私は作家と言っても、十代の頃からいろんなビジネスをやってきて、そっちの方でも成功しているというか、お金を稼いできた人間なんで、作家らしくない作家ですね。一言で言うと。ビジネスマンっていうか、とにかくいろんなことをやってきたんで、仕事っていう仕事を。
今もいろんなことやっています。例えば、今回挑もうと思っているのが、ペットに関するコミュニティを作って、犬好きのオンラインサロンとかをやろうと思ってます。
作家って、作家だけやっていると行き詰まるんですよ。だから、自分の場合はいろんな会社もやっているし、いろんなお店もやっています。そういうことをやっていると、たくさんの生きた情報が入ってきます。最近の女の子ってこんなこと考えているんだとか、最近の業界はこうなってるのかみたいな。それを専業作家さんは、わざわざ取材するわけじゃないすか。でも私の場合は、普段の活動が、生のフレッシュな取材になっているので、そういう特殊な作家だと思っています。
新堂冬樹さん最新作『任侠ショコラティエ』
発売:2022年05月19日 価格:1,980円(税込)
著者プロフィール
新堂冬樹(シンドウフユキ)
1966年大阪生まれ。98年『血塗られた神話』で第7回メフィスト賞を受賞し、デビュー。『僕の行く道』『百年恋人』『白い鴉』『君想曲』『紙のピアノ』『カリスマ』『無間地獄』『黒い太陽』『極限の婚約者たち』『誘拐ファミリー』など著書多数。感涙の純愛小説から裏社会を描いたノワールまで作風は幅広く、多くの読者の支持を得ている。