アルバイト青春小説『恋とポテトと夏休み』など「恋ポテ」シリーズ1~3巻(講談社)で第45回日本児童文芸家協会賞を受賞され、ますますご活躍中の神戸遥真(こうべ はるま)さんに、最新作『きみとホームで待ち合わせ』についてお話をお聞きしました。

胸がキュンとなる恋愛・青春ストーリーの名手である神戸さんに、作品について・創作について、語っていただきました。

『きみとホームで待ち合わせ』

高校生それぞれの目線で描かれる物語

――カバーイラストがとてもかわいらしいですね。ストーリーについてお聞かせください。

 ある冬の朝、教室に落ちていた匿名のラブレターから始まる、高校生たちの青春恋愛ストーリーです。

 引っ越してから居心地の悪さを感じていたり、自分とはタイプの異なる女の子がなぜか気になったり、片想い中だったり、失恋を引きずっていたり……。そんな高校生たちの目線で、それぞれの物語が描かれていきます。

 なお、今作では各章が千葉駅発の5つの路線と対応しています。例えば、1章は千葉駅の1・2番線、総武線沿線の西千葉が舞台のお話です。2章は3・4番線の内房線、3章は5・6番線の外房線……といった具合です。

千葉県を舞台に。生徒たちは千葉駅から房総半島へ散る!

――千葉県や千葉駅を舞台にされていますが、その経緯などをお聞かせください。

 もう2年以上前になりますが、講談社さんからお声がけいただいた際に、「千葉が舞台の恋愛ものはどうか」とご提案いただきました。それまでにも、恋愛ものや、私の出身の千葉が舞台のお話を書いていたからです。

 そこで企画を出し、よさそうと言ってもらえたのが、昨年全3巻が発売となった青春アルバイト小説「恋ポテ」シリーズと、今作『きみとホームで待ち合わせ』でした。千葉が舞台なら、いっそ千葉駅をモチーフにしたらどうかと思いついたものです。

 舞台が西千葉なのは、単純にモデルとしている私の出身校があるからです。高校最寄りのJR西千葉駅から下り方面へ帰る生徒は、必ず千葉駅で乗り換えをし、房総半島のあちこちに散っていく、という話をしたら担当さんが面白がってくれたのを覚えています。

作品の舞台となっている西千葉駅前

「恋ポテ」シリーズとクロスする世界観

――執筆時のエピソードを教えてください。

 最初、『きみとホームで待ち合わせ』は独立した作品として考えていました。ですが、前述の「恋ポテ」シリーズを先に執筆することになり、それならと世界観をクロスさせることにしました

 なので、今作はもちろん単独でも読めるのですが、「恋ポテ」シリーズ3巻『恋とポテトとクリスマス』の直後という時系列になっています。また、登場人物も今作で初登場のキャラもいますが、「恋ポテ」シリーズの主人公のクラスメイト、深田さんという女の子が全体の軸になっています。

 執筆時には千葉駅はもちろん、作中に登場するほかの駅や場所を回って取材しました。例えば千葉駅では電車の発車メロディがなかったり、ホームごとにベンチの柄が異なっていたりします。こういう細かいところも作品に反映しています。

「恋ポテ」シリーズ。時系列としては3巻の直後という設定

初のオムニバス形式! 千葉県の人に特におすすめ

――神戸さんのファンの方はもちろんですが、どんな方に読んでもらいたいですか? また、これまでの作品と異なるポイントがありましたらお聞かせください。

 やはり高校生の恋愛・青春ストーリーが好きな方でしょうか。なんでもない日常にある、感情の変化や成長などを楽しんでいただけたら。

 また、表紙も含めて全力で千葉押しなので、千葉駅周辺を知っている方には、馴染みのあるスポットだらけで面白いと思います!

 これまでの作品と最も大きく異なる点は、オムニバス形式の連作短編構成であることです。章ごとに視点人物が変わるタイプのオムニバス、すごく好きでずっとやりたかった構成なんですが、これまでなかなか機会がなく、ようやくできてとっても嬉しかったです。

 視点人物によって章の雰囲気も変わりますし、同じ出来事でも人によって捉え方や抱く感情が違ったりします。そういう1つのシーンを多角的に眺められるのって面白いですよね。

1章に登場する緑町公園

大切にしていること

――本作も含め、小説を書くうえでいちばん大切にしていることを教えてください。

 お話作りでは、とにかく胸キュンを大事にしています。恋愛に限らず、友だちや家族との関係でもいいんですが、何か胸が熱くなるような、感情が昂ぶるような瞬間を切り取って、お話に盛り込むことは常に意識しています。

 殺人事件も魔法のバトルもない、ごくごく普通の学校生活を切り取ったお話ですが、そんな日常にも感情が揺さぶられる瞬間ってたくさんありますよね。そういう瞬間を書いていきたいです。

 また、小説という媒体だからこそ、文章そのものにはこだわっています。読みやすい・わかりやすいことはもちろん、文章だからこそ味わえる面白さを大事にしたいです。

 そして、何より大切にしているのは、自分自身が楽しむこと! 自分が楽しめないもの、胸キュンできないものは書いていても辛いし、筆も乗りません。自分が好きなものや面白いもの、興味があるものは、今後も大事にしていきたいです。

読者の方へのメッセージ

 なかなか外出もままならず、自宅での時間が増える昨今だと思います。そんなとき、気持ちを救ってくれるのは小説に限らず、漫画、アニメ、映画、舞台、音楽などのエンタメだと痛感しました。エンタメは本当に偉大です。

 そんな自宅での楽しみに、よかったら私の作品も加えていただけますとありがたいです。


 教室に落ちていた「深田さんのことが好きです」と書かれた匿名のラブレターから物語が始まります。ドキドキしますね。

 そのラブレターが登場人物たちに影響を与えていく様子が、章ごとに視点人物を替えて描かれているので、この章の主人公の視点からはわからなかったことが、別の章の視点からだとわかるようになっていて、そうだったんだと納得したり、胸がキュンとしたり、思わず目頭が熱くなりました。

 いろんなキャラクターが登場することも魅力です。こういうタイプいたなと思いつつ、感情移入して読みました。ハラハラする展開もあって、とても楽しめました。

 カバーイラストもかわいくて、読みながら見返すと、より胸キュンすること間違いないです。心が潤って、若返った気持ちになりました。

 おすすめです!

Q:最近、嬉しかったことといえば?

 前述の「恋ポテ」シリーズで、第45回日本児童文芸家協会賞をいただいたことです。

 デビュー作は、新人賞への応募がきっかけで声をかけていただいての新作描き下ろし。そして別の版元で新人賞ももらったものの、こちらも受賞作は本にはならず。なので、これまで受賞作というものに、まったく縁がありませんでした。

 そんななか、作家業4年目にして初めてできた受賞作。本当に嬉しかったです。

「恋ポテ」シリーズ1~3巻(講談社)で第45回日本児童文芸家協会賞受賞

Q:ご自身は、どんな小説家だと思われますか?

 お友だちの作家さんは「ラノベ作家」「児童文学作家」などジャンルとセットでご自身のことを名乗っている方が多いのですが、私はというと児童文学、児童文庫、YA、ライト文芸、ケータイ小説と気がつけば色々なものを書いていて、時々自分が何をやっているのかわからなくなります。

 かといって、どれかに絞ろうという気持ちもなく、今後もチャンスがあれば色んなことに挑戦したいです。欲ばりな小説家なのかもしれません。

お仕事場の写真

Q:おすすめの本を教えてください!

 どれも中学~高校時代に読んだ本です。中学生の頃から小説を書いていたので、その後の作風に影響があったような、なかったような……?


新井素子『グリーン・レクイエム』(講談社文庫)
 小説という媒体で初めて胸キュンを覚えた作品。緑色の髪の少女との恋、ピアノの音色といったアイテムもすごく素敵で、ときめきました。また、独特の口語体の一人称に、こんな書き方があるのかと当時すごく衝撃でした。


森絵都『カラフル』(講談社)
 高校の図書室で出会った1冊。亡くなって自分が誰だかわからなくなった「ぼく」、天使といったファンタジーな設定ながらも、同世代の主人公の等身大の感情がとてもリアルで、この頃からYAジャンルの作品にハマっていきました。


山田詠美『蝶々の纏足・風葬の教室』(新潮文庫)
 中学時代、塾の国語のテストで『風葬の教室』が使われていたのがきっかけで読みました。自分をいじめていた相手を直接傷つけず、でも心の中で軽蔑し野ざらしにして葬っていく、というような心情描写がすごく印象的でした。胸の内ではなんでもできるし、それをこんな風に描けるのは小説だからこそなのだと思います。


神戸遥真さん最新作『きみとホームで待ち合わせ』

書影
『きみとホームで待ち合わせ』(神戸遥真) 講談社
 発売:2021年09月09日 価格:1,540円(税込)

著者プロフィール

著者近影

神戸遥真(こうべ はるま)

千葉県生まれ。第5回集英社みらい文庫大賞優秀賞受賞。
子ども向けから大人向けまで幅広く執筆。最近の著書に『片想い中の幼なじみと契約結婚してみます。』(メディアワークス文庫)、「この声とどけ!」「ウソカレ!?」シリーズ(集英社みらい文庫)、「ぼくのまつり縫い」シリーズ(偕成社)など。
『恋とポテトと夏休み』など「恋ポテ」シリーズ1~3巻(講談社)で第45回日本児童文芸家協会賞受賞。

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