バンドサウンドにヴァイオリンを加えた編成で奏でるRoclassick(ロックラシック。ロックとクラシックの融合)が人気を集めているバンド・BIGMAMA(ビッグママ)。

そのボーカリストであり、多くの楽曲で作詞・作曲を手がける金井政人(かないまさと)さんが、昨年BIGMAMAが発表した楽曲を原案とした絵本『誰もがみんなサンタクロース』(ステキブックス)を11月17日に発売します。

金井さんにとって、3冊目の絵本制作となる今作。執筆活動を並行するミュージシャンの中でも、「絵本」というひと味違ったアプローチの作品を発表する金井さんに、お話を伺ってみました。

(聞き手:amehal)


“羊を数えていく行為の裏側”について自分の中にアイデアが浮かんでしまった

おやすみなさい~Sweet Dreams~』文:金井政人、絵:Roko(TOブックス)

――これまで2作の絵本を執筆されてきましたが、そもそも「絵本」を制作しようと思ったのはなぜなんでしょうか? 

最初に作った絵本『おやすみなさい~Sweet Dreams~』は、BIGMAMAの『Sweet Dreams』という曲を作る過程で生まれました。

もともとその曲って、「ライブの終わりで、なんて言って終わったらいちばん素敵かなあ。どんな言葉だとグッとくるかなあ」と考えたときに、「Good Night,Sweet Dreams」(おやすみ)、と言って終わるのが素敵かなと思ったんです。ライブの終わりではあっても、きっとみんなはそのあと家に帰って日常に戻るんだろう。だけど1本のライブが終えたときに「おやすみ」って言って終われるくらい、完結できてしまうようなショウ、そしてそういう曲があったらと思って生まれた曲なんです。

それで「おやすみなさい」「Have A Good Nighe,Sweet Dreams」をテーマに曲を書いていく中で、羊を数えている情景が浮かんできました。

「羊が1匹、羊が2匹……」って、みんな眠るときに数えるわけじゃないですか。じゃあ、その羊たちはどこでなにをしているんだろうってことがすごく気になったんですよ。もしかしたらその羊たちは、眠れない本人のためになにかしてくれているのかもしれない。もしそうだとしたら……っていう物語が自分の中に生まれてきたんです。

それをアウトプットする方法が、自分の思う音楽の枠組みの中で収まらなかったんですね。

羊を数えることで自分のことを眠たくさせる行為の裏側で、なにが起こっていたのかっていうことをエンタテインメントにする。だったらそれは小さな子供から大人まで、広く楽しんでもらえるものがいいなあと考えたときに、絵本というのが表現の場としていちばんしっくりくるなあと思ったんですね。

だからなぜ絵本を作ろうと思ったかと言うなら、“羊を数えていく行為の裏側”について自分の中にアイデアが浮かんでしまったから、ですね。


自分の作るもので人が喜んでくれるのであれば、それは僕にとってはやったほうがいいこと

眠らぬ街のメリーゴーランド』文:金井政人、絵:mikimikimikky1016.(UK PROJECT)

――BIGMAMAの楽曲は、物語性があって世界観を大切にした楽曲が多いと思うのですが、それが歌詞という形に収まりきらない広がり方をした時には、楽曲としてだけではないクリエイティブの形を模索しながら制作されてるんですか?

僕は自分をミュージシャンだと思っていますけど、ありとあらゆる面でアーティストでありたいとも思っています。

自分の表現したいことの真ん中にはちゃんと音楽があって、それを表現する人間でありたいとは思っているんですが、僕が手がけていることを個々に見れば、「作曲」だとか「作詞」という音楽と切り離して成立させられるものもありますから、最終的には、自分の作るもので人が喜んでくれるのであれば、それは僕にとってはやったほうがいいことなんですね。

自分の思いついたこととか、これが素敵かもしれないと思ったことが、たったひとりかもしれないし、何百万人でも良いのですけれど、誰かの心を軽くしたり、安らげたり、弾ませたり、そんな瞬間ってきっとあってもおかしくないと思っていて。だから自分の心の内から出てくるものであったり、発見であったり、誰の真似でもなくて共感を生むかもしれないものが思い浮かんだときは、それは表現したい対象になるんですね。欲求として湧き上がってくるんです。

基本的に、真ん中に「音楽」があるんです。たとえば2作目の絵本『眠らぬ街のメリーゴーランド』では、メリーゴーランドの馬は背中に杭が刺さってメリーゴーランドに固定されてるんですけど、その杭がない状態と、後悔がないっていう意味の「悔いがない」と言葉が重なっちゃったんですよね。杭で留められている状態の馬と、その杭が外れて後悔がないっていうところまで駆け抜ける馬っていうテーマが、自分の中で表現欲求として湧いてしまったんですよ。

BIGMAMAの楽曲としての『Merry-Go-Round』の中でもそれは表現しきった手応えはあるんですけど、やや下心的なことで言えば、自分たちの音楽をもう少し広く届けたいな、まだ僕たちを知らない人に気づいて振り向いてもらいたいなという思いもあって。

だから今までの2作品の絵本を制作した発端というか動機みたいなものは、それを制作することはもしかしたら誰かにとって有意義な時間になるかもしれないという欲求が湧いてきたから、自分はミュージシャンだけどこれを絵本として作りたいというギアが入ったというか、舵を切る瞬間が今までの人生で2度あったということです。それで今回の『誰もがみんなサンタクロース』が3度目かな、と。

――BIGMAMAのオリジナリティって、ヴァイオリンがいるロックバンドっていうスタイルももちろんですが、金井さんの生み出す独創的な世界観も武器だなと思います。

「世界観」って、言われなくなったらおしまいという気もしますし、曲を作ったり歌詞を書いたり、本を書いたりするときに、それを持たせるのは自分の中では最低限のマナーだと思っています。そのときどきで自分なりのそのマナーを踏襲した提案ができてこそ、初めて「これをやりたいです」っていう挑戦権を得られるんだとは常々思っていて、その境界線の引き方というか、「こういうことをしたいです」って人に言うときの作法みたいなものが、この年齢になってわかってきている気がしています。

僕はいろいろなスペシャルな方たちと交わる職業で、それで言うと僕のフィジカルギフテッドなどごく一般的なものだし、幼少期から積み重ねられた物がないですから、ではどうすればいいかっていうと、最後の最後まで「頭使えよ」ってずっと自分に言い聞かせてますから。

ただ、アイデア+自分のポテンシャルを基に、周りを巻き込んでいくことで掛け算になることにロマンを感じてもいるんです。でも、そのうえで結果が出てくるのが「表現」だと考えているのですが、まだ自分が思い描いているところまで届く結果が出たものはないので、それに対するフラストレーションもあったりするんですが……。

根本的には自分のアイデアだったり音楽だったりで、人を楽しませたり、時に興奮させたりそれを和らげたり、そういうことができるんじゃないかなって、まだ自分を強く過信してるんだと思います。だから、言葉が適切かどうかわからないですけど、フラストレーションを感じるんだと思います。


プレゼントを渡しに行くことすら躊躇するようなときに、身近な人から身近な人への贈り物っていうのが1件でも増えればいいな

誰もがみんなサンタクロース』文:金井政人、絵:mikimikimikky1016.(ステキブックス)

――最新作の絵本『誰もがみんなサンタクロース』は、昨年リリースされたBIGMAMAの楽曲が原案になっています。今も終わったわけではないですが、2020年はコロナ禍の影響でいろいろと大変な年だったと思います。その最中にどんな思いで楽曲制作を行っていたのですか? 

自分自身もそうだし、バンド自体にも「常に明るい話題を更新していたい」という気持ちがありました。

ライブもできないし、リリースの裏側でもやっぱり思うようにいかないことがたくさんあるような中で、そういう状況だからこそいかにきっかけを作るかという、「きっかけ力」みたいなものが問われているようなところがあったんですね。

そういうときに僕が、「クリスマスにこういうアイデアがあって、こういう曲があって、こういうことが派生してくると思うんだ」っていう提案を出すことで、きちんとバンドが歩み出せるんじゃないかと思って。

冬の季節に合わせて、こういうテーマでこういうふうに作品を作りたいって言うことが、自分のバンドをポジティブに進めるためにまず必要だったということです。

あともうひとつは、結果としていま本を書いたり人と話したりしたことで思えたことなんですけど、「サンタクロース」って現象化していると思うんです。

昔は、赤い帽子と衣装で、もしゃもしゃした髭を生やして、トナカイの引くソリに乗ってプレゼントを届けてくれるあのおじさんのことを、サンタクロースって呼んでたと思うんです。

でもいまって、日本人の間や僕の周りにいる人たちの中で語られるサンタクロースって、プレゼントを贈る行為そのものとすり替わっている部分があると感じるんですね。クリスマスに、子供であったり恋人であったりする相手にプレゼントをあげるっていう行為こそが「サンタクロース」というか、その言葉が持ってる意味合いみたいなものが、「誰かにギフトを贈る」みたいなことに変わってきているような気がするんです。

バレンタイン・デーだってそうですよね。もともと「恋人たちの日」ではあるけれど、その由来は帝政ローマの時代の聖ウァレンティヌスの殉教からきているわけだし、欧米では恋人や家族など大切な人に贈り物をする日が、日本では女性が好きな男性にチョコレートをあげる日として広まっている。いまや好きかどうかの意味もなかったり。それで言うと、クリスマスも、誰かにプレゼントをあげる日と、少し意味合いが変化していると思うんです。

でもそれを見聞きして、ヘイトの気持ちがあるわけでは全くなくて、それに対して自分の中に浮かんできたのが「誰もがみんなサンタクロースになれる」っていう言葉だったんですよね。

というのもプレゼントを贈ると、贈ったほうも受け取ることができるっていうことを、年を重ねて感じるようになったんですよ。

日本のお年玉というカルチャーもそうですが、僕の年齢になると受け取ることよりあげることのほうが多くなってくる。子供のときには貰っていたものが今は渡すほうになってみて、渡すなりの喜びというか贈る側の嬉しさを感じる場面に出会えたときに、「それってとっても幸せなことなんだよ」っていうのを表現しておくのって、なんかいいかなって思ったんですよ。

たとえば小さな子供たちに、誰かになにかプレゼントする喜びとか、もっと些細なことで人になにかをしてあげるとか喜んでもらうっていうことが、お互いにとっての贈り物になるというようなことを知ってもらえたらいいなと考えたんです。

僕自身がもっと早く、受け取るだけじゃなく贈ることの喜びみたいなものを、子供のころから気づけて感じられていたら、いまよりも後悔の少ない人生を送れてきたんじゃないかという気持ちもあるので。

それで「サンタクロース」っていう言葉が、プレゼントを贈るっていう意味合いに変わってきたという変化を表現したいというのが、今回の欲求になってたりするんですよ。

プラスアルファとして、やっぱりコロナ禍でおそらくみなさんも2020年の年末ってかなり制約があったと思うんですよ。クリスマスパーティーどころか何人かで集まることもハードルが高くて、プレゼントを渡しに行くことすら躊躇するようなときに、身近な人から身近な人への贈り物っていうのが1件でも増えればいいな、音楽によってそれを導ける部分があるのならば、それは自分の中で表現したほうがいいなっていう……。

それらのことがそれぞれ動機として、マーブル状に入り交じっているような状況だったと思います。

だから「誰もがみんなサンタクロース」っていう言葉ができたのも、曲を出すタイミングも、そのときの空気感に呼ばれて決まったように感じています。


どうしたらワクワクしながら次のページをめくれるのか“自分の心の中の5歳児”と相談しました(笑)

誰もがみんなサンタクロース』文:金井政人、絵:mikimikimikky1016.(ステキブックス)

――その『誰もがみんなサンタクロース』を、今年絵本として刊行することになったわけですが、絵本として楽曲の世界観を広げる際に苦労したことや構想を超えて膨らんだ部分など、執筆時のエピソードはなにかありましたでしょうか?

今回、僕の中でもっともわかりやすく絵本のために浮かんだアイデアというのは、「煙突に角が引っかかって困るトナカイ」っていう、すごく部分的な話なんです。

『誰もがみんなサンタクロース』っていうからには、きっとサンタクロース自身は出てこないんじゃないかって最初に思ったんですね。出てくるとしても端役だろう、と。

「サンタクロースはどうしたんだろう? 風邪をひいたのかな、ケガをしたのかな?」っていう前提があって、じゃあ誰がサンタクロースの代わりをするんだろうと考えたときに、おそらくトナカイだろうけど、トナカイは煙突から入るときに角が引っかかるんじゃないか……って思ったのが、絵本を書くための動機であり、引き金になったのだと思います。

ものすごくどうでもいいことだとも思うんですけど、「トナカイの引くソリに乗って、サンタクロースが世界中にプレゼントを届ける」っていう通常のフォーマットから、「サンタクロースがいなくなったトナカイはどうするんだろう」っていう、思う通りにいかない方法を表現として考えたんですよね。

おそらく、自由自在には飛び回れなかったかもしれないし、目的地にたどり着いても煙突に角が引っかかって入れないっていうことを、最初に思いついたんです。

つまりは、そういう場面で誰とどう助け合うかみたいなことが「誰もがみんな」なんだろうなと思って。どういう登場人物が出てきて、どうしたらプレゼントを届けられるんだろうかというような、絵本ナイズドというのか、絵本にふさわしい表現を思いついてしまった、みたいなことだと思います。

自分の中で、絵本になるべきことが思いついてしまったから絵本になる、っていう感覚でしょうか。

そこから、助けてくれる相手探しなんですけど、それがほかの動物たちだっていうのは、ものの数秒で思いつきました。

絵本にするからには、どうしたらワクワクしながら次のページをめくれるのか“自分の心の中の5歳児”と相談しました(笑)。絵を描いてくれているmikiちゃん(mikimikimikky1016.さん)ともやりとりしながら。

自分の身の回りに、動物を素敵に描いてくれる友人(=mikimikimikky1016.さん)がいて、一緒に積み重ねていった作業の中で、アップグレードされたのがこの絵本ですね。


――絵本『誰もがみんなサンタクロース』制作の過程を伺えたので、今回はここまでにして、次回は具体的な内容についていろいろお伺いしたいと思います。

はい。引き続きよろしくお願いします。

後編 > たくさんの動物たちの耳が出てくるページが、いろんな意味で余白が生まれていて、すごく象徴的でいいなあと思っています


プロフィール

ヴァイオリンとバケツを含んだ5人編成のROCKバンド「BIGMAMA」のヴォーカルであり、ほぼ全楽曲の作詞・作曲を担当。BIGMAMAは2002年八王子にて結成し、2017年の初の武道館公演はソールドアウト。今日もどこかで楽器を鳴らしたり歌ったりしながら、たまに本を書いたりもする。

2021年11月17日(水)に3作目となる絵本『誰もがみんなサンタクロース』を発売。特設サイトにて絵本の試し読みもできます。

▶︎「誰もがみんなサンタクロース」特設サイト


最新シングル『誰もがみんなサンタクロース』

11月17日には本書と同時リリースでリアレンジされた『誰もがみんなサンタクロース』のデジタルシングルの配信が開始される。

・M1 誰もがみんなサンタクロース(acoustic ver)
・M2 Anyone can be Santa Claus (acoustic ver)
・M3 誰もがみんなサンタクロース(kids ver)

▶︎詳細はこちら


「BIGMAMA Christmas 2021 -360° acoustic Live-」

また12月23~25日の3日間、東京・クラブeX 品川プリンスホテルでクリスマスライブ「BIGMAMA Christmas 2021 -360° acoustic Live-」を開催予定(12月23日はFC限定)。

アコースティックセットにて、360°円形ステージでの演奏となる特別なライブ。BIGMAMAのライブを全方位からお楽しみいただけます。

・12月23日(木) クラブeX 品川プリンスホテル(東京) <BIGMAMA mobile FC限定リクエストライブ>
・12月24日(金) クラブeX 品川プリンスホテル(東京) <Christmas eve>
・12月25日(土) クラブeX 品川プリンスホテル(東京) <Christmas>

▶︎詳細はこちら

(Visited 1,731 times, 1 visits today)