今年の初夏にスタートし、「文芸・本のニュースサイト」として特集やインタビュー、気になる新刊書籍の情報をお届けしてきた本サイト「ナニヨモ」。
日々更新を続ける中で、今年はいままで以上に「文章表現」と「音楽表現」の関係が近づいているように感じました。
IT環境の充実がジャンルの垣根を取り払い、自分の想いを複数の表現手段で形にするアーティストやクリエイターが増え、音楽と文芸に親和性の高さを感じた彼らが積極的に自身の表現活動のひとつとして取り込みはじめているのではないでしょうか。
「ナニヨモ」でもその点に注目し、「音楽」を感じさせる文芸を多数取り上げてきました。今回は、今年インタビューや新刊としてご紹介したそんな記事の数々をまとめてみたいと思います。
■ 執筆活動を自己表現のひとつとするミュージシャンたち
いまでは執筆によって自身の内なる世界を表現し、それが高い評価を受けるミュージシャンは少なくありません。
しかし大槻ケンヂさんこそ、その先駆けとなったおひとりでしょう。筋肉少女帯として音楽活動をする傍ら、幼少時からの読書熱が高じて、自然に文筆に目覚めたという大槻さんがはじめての小説『新興宗教オモイデ教』を発表したのは1992年。たちまち、その文章の持つ表現力にも大きな注目を集まりました。
ミュージシャン×文芸の先駆け、筋肉少女帯”大槻ケンヂ”の原点に迫る(特集・10月13日掲載)
初めての小説『ふたご』で直木賞にノミネートされた藤崎彩織さん(SEKAI NO OWAR)や、『母影』で芥川賞にノミネートされた尾崎世界観さん(クリープハイプ)の例を出すまでもなく、音楽と同時に執筆活動にも自己表現を見出した若い才能は続々と現れています。
3作目となる小説『僕らは風に吹かれて』で、初めて音楽を直接的なテーマとしたWEAVERの河邉徹さん。コロナ禍に翻弄される新人バンドの姿を通して、昨年来の音楽業界のひとつのリアルを伝えてくれました。
またBIGMAMAの金井政人さんは、自らの楽曲『誰もがみんなサンタクロース』にインスパイアされ、「贈りものを贈る気持ち・贈られる気持ちを大切にしたい」という願いを絵本という形で上梓しました。
自著を”寄付つき商品”にした WEAVER 河邉徹さんに、反響や心境をお聞きしました『僕らは風に吹かれて』(特集・7月7日掲載)
絵本『誰もがみんなサンタクロース』BIGMAMAボーカル金井政人が語るクリエイティブの形 〜前編〜(新刊インタビュー・11月16日掲載)
絵本『誰もがみんなサンタクロース』BIGMAMAボーカル金井政人が語るクリエイティブの形 〜後編〜(新刊インタビュー・11月17日掲載)
前出の藤崎彩織さんは「文章を書いて、人に読んでもらいたい」という強い想いを込めたエッセイ集『ねじねじ録』を刊行。また満を持してデビュー小説『西の果てのミミック』を発表した渡會将士さんなど、ミュージシャンの執筆活動はどんどん広がっています。
さらに海外からも、自らもミュージシャンとして楽曲を制作しツアーを行うサラ・ピンスカーによる音楽をモチーフとしたSF小説『新しい時代への歌』が邦訳刊行されました。テロと感染病の影響で、観客を入れたライブなどは規制法によって禁じられた近未来を描き、あたかもコロナ禍の現在をモチーフにしたかのようなこの作品は、2019年に発表され、2020年度のネビュラ賞を受賞しました。
セカオワSaori「行き詰まり」「立ち尽くし」「酷く落ち込んでいた」日々の救いとは?『ねじねじ録』(ピックアップ・8月12日掲載)
200曲以上の詞を世に送り出してきたミュージシャンの鮮烈な作家デビュー!!『西の果てのミミック』(新刊情報・7月17日掲載)
音楽が彼女を動かす。熱狂が彼女を変える。近未来を手繰り寄せた音楽SF『新しい時代への歌』(新刊情報・9月14日掲載)
■ 文芸と音楽の融合から生まれる新たなエンタテインメント
文芸と音楽を融合させることで、ひとつのエンタテインメントを立体的に読者/オーディエンスに届ける試みも増えています。
三月のパンタシアはボーカリスト・みあさんが書き下ろす小説を軸として、それに連動する音楽を発表する活動で、いま最も注目を集める音楽ユニットのひとつです。今夏発表されたはじめての長編小説『さよならの空はあの青い花の輝きとよく似ていた』が大きな話題となりました。
物語性を大切に進んでいく 三月のパンタシアのボーカル・みあ × 加藤千恵 × 中村航(特集・10月27日掲載)
「小説を音楽にするユニット」として、2019年のデビュー以来日本にとどまらず世界各国から人気を集めているYOASOBI。今年も次々に大ヒット曲を送り出しましたが、その中には昨年行われた楽曲原作小説コンテストの大賞受賞作を楽曲化した『大正浪漫』もありました。進化を続けるYOASOBIは、すでに2022年の企画も進行中。4人の直木賞が書き下ろした新作小説の楽曲化にチャレンジします。
YOASOBIの楽曲原作! 100年の時を超える恋心『大正浪漫 YOASOBI『大正浪漫』原作小説』 (新刊情報・9月16日掲載)
YOASOBI、島本理生・辻村深月・宮部みゆき・森絵都“直木賞作家”4名とのコラボ企画始動。「はじめて」をモチーフに描く4つの小説を音楽に『はじめての』(ピックアップ・12月13日掲載)
いきものがかりの水野良樹さんが手がけた『OTOGIBANASHI』は、水野さんの実験的プロジェクト「HIROBA」から生まれた1冊。著名な5作家による書き下ろし小説とそこから生まれた5人の歌唱者による5つの楽曲を、本とCDに収めたひとつのパッケージ書籍として刊行されました。
またボカロPとして絶大な人気を誇るカンザキイオリさんは、第2弾となる小説『親愛なるあなたへ』を発表。書き下ろされた楽曲はボカロ曲と、今年から本格化したセルフボーカル曲が共に動画配信され、高い再生数を誇っています。
今年映画公開されたデビュー作『明け方の若者たち』に続く小説第2作として、川谷絵音氏が率いるバンド・indigo la ENDとのコラボレーション小説『夜行秘密』を発表したカツセマサヒコさん。indigo la ENDのアルバム『夜行秘密』の収録楽曲を14編の小説として書き下ろしました。
ミュージシャンである水野良樹が贈る文芸と音楽の融合の形!『OTOGIBANASHI』(ピックアップ・10月20日掲載)
11万部突破のベストセラーとなった小説『あの夏が飽和する。』を超える傑作誕生。ファン待望! カンザキイオリ最新小説発売決定『親愛なるあなたへ』(ピックアップ・11月8日掲載)
カツセマサヒコ×indigo la END――異色コラボレーションが実現!! 音楽と小説の交差点で、新次元の感動が生まれる(ピックアップ・7月2日掲載)
●
ミュージシャンによる文筆活動、小説の楽曲化、楽曲のノベライズ――さまざまに広がる文芸と音楽のクロスオーバーが、2022年にはどんなエンタテインメントを生み、どんな新しい楽しみをもたらしてくれるのか、2022年も「ナニヨモ」は注目していきたいと思います。
年末のご挨拶
ナニヨモをいつもお読みいただき、ありがとうございます。
今年(2021年)の6月にスタートして、平日はほぼ毎日、新刊情報、ピックアップ、特集記事、著者インタビュー、コラムなどを掲載することができました。いつも読んでくださる皆様のおかげです。
2022年もコンテンツの充実を図り、本と文芸を盛り上げていきたいと思いますので、引き続き、応援よろしくお願いいたします!