柊サナカさんの最新作『天国からの宅配便』は、依頼人の死後に届けものをするというサービス「天国宅配便」を描いた物語。

 心温まる感動の物語です。刊行にあたり、柊サナカさんにお話をうかがいました。

大切な人への、最後の贈り物

――『天国からの宅配便』について、これから読む方や購入を検討されている方へ、内容を教えてください。

 ある日、亡くなったはずの人から宅配便が届いたら、どうでしょう。その人が、どんなものを自分に遺したのか……。

 とはいえ、ファンタジー系の話ではありません。人生の最後に、誰かに何かを伝えたいと思った依頼人が、生前に「天国宅配便」にある荷物を託す。

 亡くなったあと、その荷物を所定の日に宅配するというのが「天国宅配便」の仕事です。中に何が入っているのか、どうぞ『天国からの宅配便』の登場人物と一緒に、開けてみてください。

――本作を描こうとされたきっかけを教えていただけますでしょうか。

 学生時代に電話帳の配達という、一風変わった短期アルバイトをしたことがあります。いろんなお家に配達に行くのが、結構楽しかったです。たった五日のアルバイトでしたが、妙に記憶に残っていました。

 わたしは部屋も散らかしがちなのですが、頭の中も散らかっていて、本来きちんとしまわれているはずの記憶の棚もごちゃごちゃになっています。たまに、その棚がなだれみたいに崩れます。

「配達楽しかった」が、あるときふっと「天国」というキーワードの隣になり、「天国からなんか届いたら面白いかな」となって、そこから次々エピソードが生まれました。

書いていくうちに手ごたえを感じました

――ご執筆にあたって、苦労されたことなど、執筆時のエピソードがございましたらお聞かせください。

 当初は、わたしが今まで得意としてきたお仕事系、配達人視点からの、ライトミステリー連作短編を構想していました。頭の中で全話のエピソードや会話もだいたいイメージできていました。ところが、担当編集者は、受取人視点にしましょう、と言います。そうなれば、一からエピソードを練り直さなければなりません。

 わたしは幸い、わりに筆が速くて、書くのも大好きなタイプなので、「それは無理」とは言いません。迷ったらAバージョンとBバージョンを両方書いてどちらも提出します。配達人目線と、受取人目線で両バージョン書こうと思ったわたしは、まず担当編集者の推す受取人視点で書き始めました。自分の想定していなかった方向性なので、おっかなびっくりでしたが、書いていくうちに自分でも(これだ……)と手ごたえを感じました。

 だいたい和牛一頭分書いて、読者の皆様に提供できるのはその中でも上カルビ分くらいしかなかったりします。でもその分美味しくなりました! ぜひ読んでいただければと思います。

――どのような方にオススメの作品でしょうか?

 それはもう、何か届いたら中が気になってすぐ開けたくなる人にオススメしたいところですが、日常の中で、(この中は何だろう?)と箱を開いていくようなワクワク感を求めている方にもぜひ読んでいただきたいです。

 今までの読者のみなさまにはもちろん、柊作品が初めての方にも広く読んでいただける作品になったと思います。

登場人物と一緒に、荷物の中身を見てほしい

――小説を書くうえで、いちばん大切にされていることや、こだわっていることをお教えください。

 わたしは頭の中の自分劇場で上映しながら物語を見て(同時に書いて)いるのですが、この物語を読んだ方の頭の中劇場でも上映してもらえたらいいな、と思いつつ書いています。もっと解像度高く脳内までお届けできるように精進します。

――最後に読者に向けて、メッセージをお願いします!

「天国宅配便」の荷物には、それぞれ意外な、あるものが入っています。登場人物と一緒に、ぜひ荷物を開けて中身を見ていただきたいです。

『天国からの宅配便』というタイトルに、ファンタジーのお話かと思いましたが、そうではなく、登場人物たちのとてもリアルで切実な問題に、深く引き込まれました。それぞれのお話で、荷物を開けて涙しました。

 人生の最後に、誰かに何かを伝ることができる「天国宅配便」が本当にあったら、自分ならどうするだろう。自分の死後に生きつづける人たちに何かを残せるようになりたい。悔いのないように生きたい。そういう気持ちにさせてくれる素敵な作品でした。おすすめです。

Q:最近、嬉しかったこと、と言えばなんでしょうか?

 最近、着生蘭(洋蘭)の栽培にはまっていて、執筆の合間に霧吹きで水をやったり眺めたりしていました。次々に咲き出して嬉しいです。じっと力を蓄えていて一気に咲くのは、小説を書くことと似ているような気もします(小説もたくさん花開きますように!)。

Q:ご自身は、どんな小説家だと思われますか?

 お話を考えるのと、書くのが好きな作家、というと、まあ作家全員がそうだと思うんですが、原稿の息抜きに自分が読む用のショートショートを書いたりして、たまに読み返してはニヤニヤしています。もう五十話は超えているような……。

Q:おすすめの本を教えてください!

 人生で影響を受けた三冊と言うと、やはり村上龍『コインロッカー・ベイビーズ』(講談社)です。

 高校時代に読んですごく衝撃的で、酸欠になりそうだったのをよく覚えています。今でも名シーンをわたしがその場で見たことのように思い出せます。

・『コインロッカー・ベイビーズ』村上龍 講談社

 わたしは韓国で7年ほど赴任していましたが、引っ越しがとにかく多く、すぐ移動しなければならなかったりして、手持ちの荷物はなるべく持たないように厳選していました。本は重いので、絶対に何度も読み返す本だけ手元に残して、あとは実家に送っていました。

 その中の一冊が江戸川乱歩『人間椅子』(春陽堂)です。(『パノラマ島奇談』も『D坂の殺人事件』も好きですが、一冊なら『人間椅子』)を)オチも何もかもわかっているんですが、また最初から読みたくなります。そして同じところでゾッとするのです。

・『人間椅子』江戸川乱歩 春陽堂


 最近読んだ本の中では、真藤順丈『宝島』(講談社)がすごくて、最初は(変わった語り口だな………)と思っているうちに巻き込まれ、読み終わったら痩せていました。本読んで痩せるわけないじゃないかと思うでしょうが、ものすごいエネルギーで読みながら精神が走ったり戦ったり泣いたりしてもう大変、そのくらい小説世界に没頭しました。『墓頭』も好きです。

・『宝島』真藤順丈 講談社

柊サナカさん最新作『天国からの宅配便』

『天国からの宅配便』(柊サナカ) 双葉社
 発売:2022年02月17日 価格:1,650円(税込)

著者プロフィール

著者近影

柊サナカ (ヒイラギ サナカ)

 1974年、香川県生まれ。日本語教師として7年間の海外勤務を経て、2013年「このミステリーがすごい!」大賞の隠し玉として『婚活島戦記』でデビュー。他の著書に『人生写真館の奇跡』「谷中レトロカメラ店の謎日和」シリーズ、などがある。

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