近年話題の自動運転技術をテーマに、現役のソフトウェアエンジニアでもある安野貴博さんが描いたSF小説『サーキット・スイッチャー』が発売されました(第9回ハヤカワSFコンテスト優秀賞受賞作)。
まるで1本のサスペンス映画を観ているようなスリリングな展開に、社会性、時代性、AI・データサイエンスなどの技術をふんだんに盛り込み、リアルにまとめ上げたエンタテインメント小説。
あの小島秀夫監督もTwitterで称賛した本作。著者の安野貴博さんに、作品を書かれたきっかけなどをお聞きしました!
AI技術のエンジニアとしての気づき・経験をもとに
――『サーキット・スイッチャー』について、これから読む方や購入を検討されている方へ、内容をお教えいただけますでしょうか。
舞台は人の手を一切介さない”完全自動運転車”が急速に普及した2029年の日本です。自動運転アルゴリズムを開発する企業の代表兼エンジニアの主人公が、ある日仕事場の自動運転車内で襲われ拘束されます。
謎の襲撃犯は、「坂本は殺人犯である」と宣言し尋問を始め、その様子を動画配信サイトを通じて世界中に中継しはじめます。そんな極限状況の中で、様々な人たちが事態解決のために知恵を絞る……、というあらすじとなっています。
自動運転やAIなどの一見むずかしいテーマを扱ってはいますが、予備知識がない方でも楽しんでいただけるのではないかと思います。
――本作を描こうとされたきっかけ、自動運転をモチーフにされた理由をお教えください。
私はAI技術に関するエンジニアなのですが、実際にコードを書く中で、技術的な問題解決の枠におさまらない、難解な意思決定が求められていると感じたことがきっかけです。
複雑なソフトウェアの構造の中に隠されがちな、フェアネスに関する問題は、今まさに言及するに値するテーマだと思いました。
また、自動運転はわかりやすく、インパクトが大きいAI技術応用の代表例だと思っています。20年代の大きな社会変化のドライバーになるのではないでしょうか? そんな自動運転技術は上記テーマの具体的な実装先として、これ以上ないほどいいモチーフだと思っています。
余談ですが、作中のあるネタの由来は、私が実際に経験したソフトウェアの障害対応がネタもとになっています。障害対応はなかなか大変な作業で、つらい記憶しか残っていませんが、このような形で昇華できて個人的には満足しています。
人工知能に興味がある方、エンジニアの方へも
――ご執筆にあたって苦労した点、執筆時のエピソードがございましたらお聞かせください。
兼業作家として、アルゴリズム系のスタートアップの仕事もしながら執筆をしていたので、なかなか忙しかったのが大変でした。
通勤電車の中でスマートフォンで書いたり、休日も首都高が見えるカフェにずっと籠もりながら執筆をしていたりしました。時間はかかりましたが、満足いくクオリティまでなんとかたどり着けたと感じています。
――どのような方にオススメの作品でしょうか?
人工知能のことがよくわからないけど興味がある! という方におすすめの作品です。
また、ソフトウェアエンジニアの方には、技術的な面での咀嚼もしながら楽しんでいただけると嬉しいなと思います。
作品に新しいビジョンやチャレンジを
―― 小説を書くうえで、いちばん大切にされていることや、こだわっていることをお教えください。
個人的には、作品の中に新しいビジョンやチャレンジが埋め込まれていること等、こだわりポイントや目標はあるのですが、一番は読み終わった人に、読んでよかったなあと思ってもらえることだと思っています。
――最後に読者に向けて、メッセージをいただけますでしょうか。
少しでも気になった方は「サーキット・スイッチャー」を手にとっていただけると嬉しいです!
人工知能の分野でソフトウェアエンジニアとして活動されている安野貴博さんにしか書けない、広く深い知識と問題意識に裏打ちされた、貴重な内容だと思いました。
スピード感のあるストーリー展開に、気が緩むことなくページをめくりつつも、登場人物たちの立場や考え方の対立関係から、本書の核心に迫っていくなかで、何度も立ち止まって考えるところもありました。
ソフトウェアエンジニアは必読。引き込まれて一晩で読み切ってしまいました。読んでよかったです!(まだ興奮しています)
Q:最近、嬉しかったこと、と言えばなんでしょうか?
小島秀夫監督に自作を読んでいただけたこと。昔から大ファンだったので、めちゃくちゃ嬉しかったです。
Q:ご自身は、どんな小説家だと思われますか?
現役のソフトウェアエンジニア、アントレプレナーということで、技術と社会について興味があるタイプの小説家だと思います。まだまだ駆け出しですが、これからがんばりたいです。
Q:おすすめの本を教えてください!
・『あなたの人生の物語』テッド・チャン
・『火星の人』 アンディ・ウィアー
・『虐殺器官』 伊藤計劃
安野貴博さん最新作『サーキット・スイッチャー』
発売:2022年01月19日 価格:1,870円(税込)
著者プロフィール
安野貴博 (アンノ タカヒロ)
1990年生まれ、東京都出身。東京大学工学部卒。ソフトウェアエンジニア。2019年、「コンティニュアス・インテグレーション」で第6回日経星新一賞一般部門優秀賞(JBCCホールディングス賞)受賞。
2021年、第9回ハヤカワSFコンテストに投じた本作で優秀賞を受賞し、デビュー。