『愛じゃないならこれは何』(集英社)

■前編はこちら

恋愛って、基本、健康にあんまりよくなかったりするんで。主観として(斜線堂)

中村航(以下・中村):各話のタイトルもオシャレですよね。
斜線堂有紀(以下・斜線堂):ありがとうございます。そうおっしゃっていただけるとうれしいです。でもそんなこと言ったら、中村作品のタイトルもオシャレです。
中村:「健康で文化的な最低限度の恋愛」なんて、素晴らしいです。
斜線堂:恋愛って、基本、健康にあんまりよくなかったりするんで。主観として。
中村:この作品もすごく好きで、主人公が好きな男性に合わせて山登りをして、健康を害するんですけど。普通は山登りしたら健康になるものなんですよ、斜線堂さん(笑)。
斜線堂:そ……うですね、やっぱりアウトドアはいい、っていう(笑)。
中村:身体が弱すぎるんですよ、この主人公(笑)。でもそれくらい大きな男女間の断絶があるのに好きだという。これはどういう体験がベースになってるんですか?
斜線堂:これは周りともよく話すんですけど、好きな人ができたりするとある程度(相手に)合わせる部分があるよなあって思っていて。
中村:はい、合わせますよねえ。
斜線堂:友人がマッチングアプリで恋人を作ったんですね。アプリで知り合ったからもちろん趣味が合うし一緒にいて楽しくて、すごく理想の恋人なんです。でも、その子の別の趣味がラーメン屋さん巡りだったんですけど、「ラーメン屋に行くな」っていうタイプの男性だったんですね。健康に悪いからっていう理由で。ほかのところはすごくいいんだけどその一点だけが合わない、「だから、ラーメン食べるのやめた」っていうことになってしまって。私はそのとき正直「別れろ!」って思ったんですけど。
中村:でも健康にはなるんじゃない(笑)?
斜線堂:そう、健康になるし、その一点だけが不一致なんだったら、つきあっていたほうが幸せなんだろうと思うんですけど。でもそれを私が、すごく「嫌だ」って言ったら、周りの友人が「いや、そこで別れるのは、ない。そこだけ我慢すればいいならいいじゃん」みたいな感じになっていって。
中村:でも、(友人は)ラーメン愛してたんだよねえ。
斜線堂:そう、「ラーメン、愛してたじゃん!」って思ってたんですけど。でも確かに、恋愛するってなるとそうなるのかな、みたいな。一部は自分を変えなきゃいけないのかな。そういえば自分も結構変えたりするタイプだな、この趣味をはじめたりしたな……っていうのを思い出して、身につまされて書いた小説です。
中村:たとえば、好きな人が聴いてる音楽に、興味が湧いて聴いたりするじゃないですか。好きな本とか。そういうのに影響されるのは、すごくいいじゃないですか。
斜線堂:うん。
中村:問題は、それが山登りだった場合ですよね。
斜線堂:そうなんです。
中村:「この山登ろうかな、それとも、あの山登るかな~」ってならないじゃないですか。ちょっと……まあ1回くらいなら、山登ってもいいけど(笑)。でも、「走ろう」とか言われたら、僕はいやですね(笑)。
斜線堂:嫌ですねえ(笑)。友達の話だと、私は友達が彼氏に合わせて週2でフットサルはじめたときも嫌だったんですけど。「フットサル? フットサルをやるの?」みたいな。
中村:(友達も)楽しかったんじゃないですか、でもそれは?
斜線堂:「楽しいの?」って言ったら「わからん」みたいなことを言われたんですけど。
中村:「わからん」(笑)?
斜線堂:ボールがなんか端っこのほうにあるなあって見てたって。「え、どこでやるの?」って聞いたら、「駅ビルの屋上にあるんだよ」って。フットサルってそんなところでやるんだってはじめて知って。「フットサルをはじめてから、駅に行きづらくなった」とかも言ってて。フットサルチームの人と会う率が高くなっちゃったから、駅ビルで買い物しづらくなったって言われて、もうそれも含めて「すごい嫌じゃん」って思ったんですけど。でも彼氏とはうまくやってるんですよね。
中村:なんか惹かれる原因が、自分とは逆だから惹かれるっていうような話もあるじゃないですか。
斜線堂:そうですね。でも「フットサル楽しいフリをするな!」って思ったんですよね。
中村:楽しみを、根底から見出せない人間もいるんだぞっていうことを(笑)。
斜線堂:そうですね。この主人公もやっぱり登山全然楽しくないし、サッカーも「なんもわからん!」っていう。
中村:そこがおもしろかったですね。どれぐらい自分に合わないかを語ってる文章が、めちゃめちゃおもしろかったです(笑)。
斜線堂:そうなんですよね。私の担当さんに山登りが結構好きな人がいて、山に登ると体験談とかを話してくれたり写真を送ってくれるんですけど、なんか雪山で本当に大変な目に遭ってるのとかを見ると、すごく嫌で。仮に、これ「一緒にやろう」って言われたらすごくやだろうなって想像してしまう、みたいな(笑)。それでも、やっぱり私、つきあってる相手がやってる趣味とか、音楽とかたしかに聴くところはあるなあっていうのはあるし。
中村:うん、知りたいですからね。甘噛みでいきたいですね。
斜線堂:甘噛みで! そうなんです(笑)。
中村:1回、編集者さんに「ダムで働く人たちの話を書きませんか?」って言われたんですよ。
斜線堂:ダム?
中村:それで、「ああ、おもしろそうですね」って、僕もわりと気軽に言ったんですけど、「書くんだとしたら、冬の間は電車も車も通らなくなるダムに3か月くらい行って書くんだ」って言われて(笑)。
斜線堂:3か月も!? ほんとに、なにを勧めてるんですか!?
中村:1回行ったら戻ってこれないらしいんですよ、そのダムは(笑)。
斜線堂:試されてますね(笑)。
中村:ダムは行かなかったんですけど、行ったら変わっていたかもしれない。今日、集英社の、僕の担当の方も今日来てくれてるんですけど、入社したばっかりのころは文化系だったと思うんだけど、何年か経ったころにね、「走ってからきました!」って、飲み会に走ってやってきて、ウーロン茶しか飲まないし、「変わってしまったな」って思って(笑)。
斜線堂:ああ~、変わっちゃいましたねえ。
中村:今日しばらくぶりに会ったら、さらにグッドシェイプで精悍になられて、僕が知っていた色白の君はどこへ行ったんだって、今日驚いたところですよ。
斜線堂:インドア青年ではなくなっていた、っていう。
中村:なんかでも、逆にいままで一切そういうことやらなかった方が……たとえば作家の角田光代さんって全然スポーツとかしてなそうなんだけど、いまはフルマラソンしたり。多分、そういう人のほうが、やったことないからなのか、ハマってやっていけるのかもしれない。感心しちゃいますけどね。
斜線堂:ああ~、なるほど。
中村:僕はもう、中学校のときにいっぱい走ったから、もういいやってなっちゃうんですけどね。
斜線堂:中学生のときには走ってたんですか?
中村:中学のときは走ってました。サッカーやってたんですよ。
斜線堂:ああ、サッカー。
中村:わりと十代のころとかはスポーツしてましたね、僕は。いまはもう、ちょっとダメですけどねえ。……いやでも「健康で文化的な~」は、話としてもすごくおもしろかったし、ちょっと声を上げて笑うようなところもありましたしね。伝わってきました、そういうサッカーとか山登りとかを憎んでらっしゃる気持ちが
(一同爆笑)
斜線堂:そうですねえ、登山は好きじゃないけど、サッカーはそこまで憎んではないです(笑)。
中村:やられたことはないんですか、登山とか? ちょっと高尾山登ってみよう、とか。
斜線堂:登山はやったことないですね、まだ。友人と旅行に行ったときも、なぜかツアーコンダクターさんが山に登らせようとしてきたので、私だけ麓で待っていました。7人で行って6人が山に登ってるのに、ひとりだけ麓にいたっていうくらい山嫌いで。
中村:山に登ろうって勧める人が嫌なんじゃないですか(笑)?
斜線堂:かもしれない。「登らせようとしてくるな!」って思う。
中村:「絶対きれいだから」とか「絶対、行ったら楽しい」とか。
斜線堂:ああ、言ってくる言ってくる。それで、実際に下りてきたときに「きれいだったよ」とか言って画像を見せてきたんですよ。で、「ふ~ん」って(笑)。もう、ふ~ん、だったんですよ。「そりゃそうでしょう、高いところですから」みたいな。
中村:でも、そうですよね。子供のころとか登山しましたけど、子供だから景色とかになんにも思わなかったですからね。「どうせ下りてくるのに、なぜ登るんだろう?」って(笑)。
斜線堂:それは、すごくわかるんですよ。なのでサッカーなら、まだ……。でも、昔つきあっていた人にスポーツバーに連れていかれたことがあって、スポーツバーは正直そんなに好きじゃないんですよ。観戦するのは楽しかったんですけど、シュートが入ったときに(居合わせたお客さん同士で)肩組まなきゃいけないっていうのがものすごく嫌で。でもやったんですよ、そのときは。私、ユニフォーム持ってなかったんですけど、「ユニフォーム持ってないのに肩組まされるんだ」って思って、すごいショックを受けたんですよ。
中村:行ってよかったなとかは思わないんですか?
斜線堂:いや、思わなかったですよ(笑)。私はオムそばかなんかを食べてたんですけど、「オムそば食べるのをやめてまでコレやるんだ?」みたいな(笑)。
(一同爆笑)
斜線堂:そのことしか覚えてないんです。
中村:なんか、作中でもちょくちょく挟まれるその蘊蓄と言うか、断定がおもしろくて。みなさんご存じですか? スポーツバーでおいしい食べ物は丼物だそうなんですよ。心に残りましたね。なんで丼物が旨いんでしたっけ? 書いてありましたよね?
斜線堂:いや、理由は書いてなかったかな。その人とはスポーツバーに何回か行って、でも結局言い出せなかったんですよ、「スポーツバーがすごく嫌いだ!」ってことが。言えなくって、私はご飯を食べることにシフトしようって思って……。
中村:だから、スポーツバーで旨いものは丼物ってことがわかったんですね?
斜線堂:そのときいろいろ食べたけど、丼物がいちばんおいしいです。それは実体験も入ってます。理由もあるし実体験も。
中村:そういう断定がめちゃめちゃおもしろかったです。説得力もあって。
……あ、ありました。こういうスポーツバーの丼物は、来る人が体力あってガッツリ食べたがるから、意外においしいっていう話でした。「なるほど!」と思いました。
斜線堂:そう。わりとみんな丼物食べがち。

僕が書いてる恋愛小説って、わりと「カップル小説」ですね。ふたりがどこかに向かって「旅」をするようなものが、僕のは多いです。(中村)

――「健康で文化的な~」は、女性読者からはリアクションが多かった一編です。
中村:そうですよね。わかりやすいですもんね。だから無自覚に合わせてもらって気づかない男が多いとか、(自分が)合わせようと作ったりとかすることが多いんでしょうね。この小説のように骨折とかまで行っちゃうのはアレですけど、モヤモヤしながら(相手に合わせた)新しいことをしたりしてるんでしょうね。
――男性は、わりと気づかないうちにそういうことをさせがちなのかもしれない。
中村:そうですね。……でも気づかないってあるのかなあ……あるかもなあ(笑)。ある程度クレバーな女性なら、サッカーのことなんにも知らなくても、「東京のどこそこのチームのなんとかっていう選手がこうだから」って、調べれば言えますもんね。
斜線堂:意外とファスト動画とかで出てくるんですよ。「5分で俄かから脱却できる」とか。あの動画がなんのためにあるのかまったくわからないんですけど、私はこういうことかなって思って、そこを膨らませてこれができました。
中村:なるほど。実際「俄かから脱しなければいけないし」っていう場面が多いんでしょうね。好きな人以外でも友だち相手だったり、上司……転勤したらそこがすごくチームのサポーターが多かったりして会社で話すことがないからとか。会社の喫煙室で話に交じらなきゃとか。だからそういう動画があるって、いいことですね。
斜線堂:そうなんですよね。入り口がね、どこから入ったらいいのかわからないときに、そこを救ってくれるんです、それが。
中村:斜線堂さんは、なにか急ごしらえで身につけたこととかあるんですか?
斜線堂:このゲームをはじめなきゃいけないとかいうときに、とりあえず強いジョブを調べたり、「あ、じゃあこの武器を拾ったらいいんだな」とか、素人感をなるべく出さないようにするみたいなことをやったことがあります。
中村:……でも、考えてみたら自分もいっぱいありますわ!
斜線堂:いっぱいあるんですよ、ほんと。
中村:誰かと会うってなったときに、その人の作った作品やコンテンツを調べるとか。「被」もあります、編集者とか仕事する相手から。だから「調べられてる」立場のときもありますね。
斜線堂:たしかに、インタビューを受けるときとか、「趣味の話を振ってくれてるな」「私の好きなゲームの話をしてくれるな」っていうときに、これは調べてくれてるなって思いますね。
中村:これはありがたい話ですよね(笑)。
斜線堂:そう、ありがたい。「私も好きなんですよ」って言ってくださって、どんなに救われることか。感謝の気持ちを忘れないようにしたいですね。ほんとに好きかわからなくても(笑)。
中村:そう、だからさっきも『バンドリ!』とか好きだって言っていただいてうれしいんですけど、そういうこと言うのってわりと簡単じゃないですか。でも『花園電気ギター!!!』とか言われると、「あ、ホンモノが現れた!」って(爆笑)。小説家でそういう方とお会いしたのははじめてですね。
斜線堂:え? そうなんですか? 私はツイッターにスクショめちゃめちゃ上げています。
中村:あ、そうなんですね。
斜線堂:だから、どちらかというとそっちのほうでめちゃくちゃ緊張していたというか(笑)。
――ふだん、斜線堂先生のコミュニティっていうのはミステリ作家さんとしてお話しするっていうことが多いので。
中村:ああ、そうですよね。なんか僕ね、(斜線堂先生は)男性だと思ってました、最初。
斜線堂:そうなんですね。でも、よく言われます。
中村:「ミステリ界の新星!」みたいな。「斜線堂」っていうのが男性っぽいんですかね?
斜線堂:ああ、なんか角ばってますもんね……って、なんか人のこと言ってる人みたいですね(笑)。いやでも、それはあると思います。
――ふだん書かれるのはミステリと言われるジャンルが多い斜線堂先生が、恋愛というジャンルに踏み込んだのは今回がはじめてで、ミステリを書くときと恋愛を書くときってどういう違いがあるのかなっていうのを、この際だからお話ししていただければなって思います。
斜線堂:いちばん大きいのは、ミステリって終わり方がはっきりしていて、謎を探偵役が解いたら物語として決着がつくんですけど、恋愛小説って人間関係に決着がつくとは限らないですよね。だからどこを落としどころにするかっていうのが明確に定められないことが多くて、そこがいちばん難しいし、違いのあるところだと思うんですよね。私、中村先生の作品だと『僕の好きな人が、よく眠れますように』がすごく好きなんですけれど。読まれてない方のためにぼやかして言うと、ラストが「ここで終わるのか?」っていうところで終わっているんですけど、でもそれがすごくスッキリしているんですね。ここで終わってもたしかにいいけれど、その先を書くことも全然できるっていう、すごく深みのあるラストになっていて。ここからサスペンスを展開していくことも、ラブストーリーとして突き進んでいくこともいくらでもできる。でもここで終わらせるっていうことができるのが、恋愛小説だと思うんですよ。
中村:なるほど、そうですね。
斜線堂:中村先生的には、恋愛小説ってどのようなものだと思われますか?
中村:あんまり……ジャンルで括るような感じでもないと思うんですよね。恋愛の要素が多ければ、まあ恋愛小説なんでしょうけど。
斜線堂:でもどうなんでしょうね。青春小説っていうのもあるだろうし。
中村:ああ、そうですよね。青春小説とか恋愛小説……難しいですね。いわゆる恋愛小説だと、やっぱりその……攻防戦なんじゃないですかね
斜線堂:攻防戦?
中村:男女の、将棋みたいな攻防戦なんじゃないですかね。「こう置いたらこう来るか」っていうようなのを描くのが、恋愛小説なのかなあってことを、思ったり……。
斜線堂:ああでも、中村先生の言葉がしっくりくるというか……。『絶対、最強の恋のうた』で、つきあっているふたりが、このままだと試験とか生活に影響が出るから、会う頻度を決めたりするじゃないですか。
中村:はい。
斜線堂:あれって攻防戦だと思いますね。恋愛って、いろいろ人間を変えてしまうものだと思っているので、その恋愛に人間が対抗しているんですよ、理性的に。それが結構、逆に愛を際立たせてると思うんですけど。防衛戦もときどきはあるんですよ。自分がいままで大事にしてきたものを変えまいという強い意思を感じるというか。あれがいちばん理想的な恋愛ではある思うんですよね。恋愛って身体に悪いと思っているので、私は。
中村:恋愛は身体に悪い。名言ですね。
斜線堂:身体に悪いです、全体的に。
中村:なんか、恋愛っていろんな形があって、そのうちのひとつを書くだけでも、ミステリ要素とかも含まれてちゃんと小説になるっていうか……。だから、誰かの恋愛話を聞いて、どこか終着駅は作らなきゃいけないんですけど、それを書くだけで恋愛小説になるなあって思ったことありますよ。「これも恋愛だよね」「あ、これだって恋愛だよね」みたいなことなので、結局。そういう意味で今回の『愛じゃないなら~』は「これも紛うかたなき、恋愛です」っていう作品が5編並んでいると思いますねえ。
斜線堂:それはもう、タイトルも含めて含めて、冥利に尽きる感じが。
中村:そう考えてみると、僕の小説も「ある人の、あるときの」、あるひとつの恋愛を書いただけっていうことかもしれないですね。
斜線堂:中村作品は、描かれる幸福のディテールが好きなんです。「あっ、カップルがつきあったときの幸福って、これなんだよな」っていう、生感があるのがすごく好きなんですよね。他愛もないやりとりなんですけど、そこにすべての幸せが詰まっていて。トルストイの『アンナ・カレーニナ』では、「不幸にはバリエーションがあるけど幸せは一通り」みたいなことを言うんですけど、中村作品の幸せはこんなにバリエーションが豊かなんですよ。で、共感性が高いっていう。これってなかなか書けないですよね。不幸な展開っていろいろ書くことができるんですけど、幸せな恋愛の形をバリエーションを変えて書くっていうのは、すごい達人芸なんですよ。人間をちゃんと書けてないとできないことだなあって思います。
中村:ありがとうございます(照笑)。
斜線堂:だから好きなんですよね。幸せなんですよね。『あのとき始まったことのすべて』で、再会したふたりが居酒屋のメニューを端から読み上げていくっていうのがすごく刺さってしまって、仲良くなる男女ってこういう、本当に謎なことが異常に楽しいんですよね。端から読み上げていくだけで幸せなんですよ。そういう、「ああ、刺さるなあ」っていうことをバリエーション豊かに書けるっていうのが、筆力なんだろうなあっていうのがあるんですよ、私の中に。ああいう発想って、どこからくるんですか?
中村:ええ~っ!? ……それは、僕が素敵な恋愛をしてきてるからじゃないですか(爆笑)?
斜線堂:ええ~っ!? ここでそんな回答を(爆笑)!?
中村:(笑)。でも、いま例を挙げてもらって思ったのは、僕が書いてる恋愛小説って、わりと「カップル小説」ですね。ふたりがどこかに向かって「旅」をするようなものが、僕のは多いです。
斜線堂:そうですね。
中村:1対1で向き合って、近づいたり離れたりっていうイメージの恋愛小説も世の中にはすごく多いと思うんですけど、わりと僕は、ふたりが旅をするというか、その中でちょっと近寄ったり並んだりすることが多いんだなっていうのは、いま思いました。『愛じゃないなら~』は、向き合うというより、もうその、片方が思い込むというか(笑)。
斜線堂:そうですね。
中村:でも、好きって思う気持ちっていうか、パワーがすごいですよね、みなさん。恋に落ちる瞬間とかもすごい電撃的だし。一生に1回くらいはこういうことがある、みたいなことは、実感としてあるんですか?
斜線堂:あると思って私は書いているんですよね。私がチョロいだけかもしれないっていうのも、一瞬過りましたけど(笑)。
中村:いや、でも僕もチョロいですよ(笑)。
斜線堂:ですよね(笑)。いや、人間ってみんな基本的にチョロいから。
中村:だいたいチョロいですよね。……チョロくない人もいるのかなあ?
斜線堂:いるのかな? いるとは思うんですけど、9割5分くらいはチョロいし、その瞬間に結構電撃的になってると思う。
中村:……そうか。
斜線堂:そうなのかもしれない。いや、わかんないですよ。チョロくないかもしれない。いまこのトークショーを見てる人たちの中には、もしかしたら。
中村:いや、でもチョロい瞬間があるんですよね、きっと。
斜線堂:そう、チョロい瞬間があるはずなんですよ。
中村:弱ってるときとか。わかんないですけど。ほんとに、「昨日までこうだったのに」っていうのが、恋愛なのかもしれないですね。
斜線堂:そう、ですよね。

【斜線堂有紀プロフィール】
1993年生まれ。大学在学中の2016年に「第23回電撃小説大賞」のメディアワークス文庫賞を受賞、翌2017年に受賞作『キネマ探偵カレイドミステリー』でデビュー。2021年に『楽園とは探偵の不在なり』が「第21回本格ミステリ大賞」候補に挙がり注目を集める。その他の作品に『死体埋め部の悔恨と青春』『私が大好きな小説家を殺すまで』『コールミー・バイ・ノーネーム』などがある。和ロック音楽プロジェクト「神神化身」で原作・脚本を担当し、書き下ろし小説書籍『神神化身 壱 春惜月の回想』も刊行された。近著に『廃遊園地の殺人』『池袋シャーロック、最初で最後の事件』(電子書籍のみ)など。
Twitter|https://twitter.com/syasendou

【中村航プロフィール】
1969年生まれ。2002年『リレキショ』にて「第39回文藝賞」を受賞し小説家デビュー。続く『夏休み』『ぐるぐるまわるすべり台』は芥川賞候補となる。ベストセラーとなった『100回泣くこと』ほか、『デビクロくんの恋と魔法』『トリガール!』など、映像化作品多数。アプリゲームがユーザー数全世界1000万人を突破したメディアミックスプロジェクト『BanG Dream! バンドリ!』のストーリー原案・作詞など、小説作品以外も幅広く手掛けている。近著に『広告の会社、作りました』など。
中村航公式サイト|https://www.nakamurakou.com/
Twitter|https://twitter.com/nkkou

■後編に続く

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