2004年の結成以来、4度にわたり『キングオブコント』のファイナリストとなるなど、注目を集め続けるコントユニット「THE GEESE(ザ・ギース)」。テレビ・ライブ等で活躍する、ザ・ギース・高佐一慈(たかさ・くにやす)さんが、新たに文芸の世界にも活動の場を広げます!

 3月3日に刊行されるはじめての短編小説集『かなしみの向こう側』(ステキブックス)は、THE GEESEだけでは表現しきれなかった高佐さんの内なる世界を垣間見せてくれる1冊です。

「ナニヨモ」では、今回の出版のきっかけを作った小説家・中村航さんによる高佐さんへのインタビューを敢行し、さらなる内面を探ってみたいと思います!!

(聞き手・中村航)

この記事は全3回の【後編】です。
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「ほんとに本になるんだ」っていう、その……ちょっとフワフワした気持ち

中村航(以下・中村):最初はすごく難産で1行も書けなかったんだけど、その後はスラスラ行ったっていうように見えますけど……。

高佐一慈(以下・高佐):いやでも、それも1作書き上がるごとに毎回またゼロになる、リセットされるというか……。

中村:書いていく中で、これは苦労したとか、エピソードはありますか?

高佐:ええと、書き出すときですね。1行目。5作品、全部そうですけど。1作品書き終わって、中村さんから「よかったです」とか返答を聞けて、「ああ、よかった」ってホッとして、次に書くときにまたあれこれ考えて、そこから好きな本を読んだりして……。

中村:どういう本を読まれたんですか?

高佐:いっぱいあります。今村夏子さんの本とか、あと村田沙耶香さんの本も読みまして。あとは前田司郎さんも。

中村:それは執筆中だからその本を選んだ、みたいなことなんですか?

高佐:いや、もともと好きで読んでたものなんですけど、いざ自分が書くとなったときに読み方が変わってきたので。「ここで改行してるのか」とか「こうやって展開してるのか」とか、ほんとに細かいことなんですけど。ふだんバーッとアイデアを書き出してる紙があるんですけど、それに自分の中で勝手に分析して、段落分けして書いていったりとか。

中村:読んだものについてですか?

高佐:はい。どうやって小説を構築しているのかなって思って、自分なりに書き出して分析して。今回、「小説の書き方」みたいな、いわゆるHow to本は読まずにいこうと思って、そういう感じで自分なりの分析みたいなことをしてたんですけど、結局3作目か4作目のときに村田喜代子さんという方が出されている『名文を書かない文章講座』っていう本があって……。今村夏子さんも、はじめて小説を書くときにその本を読んだっていうのをなにかの記事で見たので、じゃあそれを買って読もうと思って、結局読んだりしました。あとは……内田百閒とか……。

中村:内田百閒は、なんか近しいワールドを感じましたねえ。

高佐:いやそんな、もう畏れ多いですけど。内田百閒は、名前は知ってたんですけどちゃんと読んだことがなくって。ちょっと僕は、夢みたいなちょっと不思議な話が好きなので、「かなしみの向こう側」でそれまで4作書いて、「ああ、やっぱりこういうのが好きなんだ」って書きながら自分自身で発見することになったので、じゃあちょっと読んでみようかなと思って。最後の「愛のある家庭教師」を書く前にそれは読みましたね。

中村:なるほど。執筆中に読むっていうのは、僕も昔よくやってました。自分の原稿ばかり読んでると、文章を暗記するくらいになって、なにがいいのかわからなくなってきて直せなくなっちゃうんですね。だから一旦リセットするために。他の小説を読むと、忘れられるというか自分の小説から離れられるんです。そこでまた刺激とか、発見がありますし。

高佐:でもそれを、好きでおもしろいと思って僕も読んでるんで、おもしろいがゆえに毎回「こんなの書けないよ」ってなっちゃうんですよ。当たり前の話なんですけど。

中村:ああ、それもわかりますねえ。

高佐:それで、一回ドン底まで落ちちゃうんですよ。「あ、もうダメだ」ってなって。でもダメと言ってても、「○作目のほうどんな感じですか?」って、こう……来るので(笑)、「ああ~、早く書かないと」って思って。

中村:そんな、なんか鬼のような人みたいに(笑)。

高佐:そんなつもりはまったくないんですけど(笑)。僕が勝手に悩んでるだけなんですけど。それで、「もう、下手でもなんでもいいから書こう」って思って、精神ボロボロになって書きはじめるっていうのが、毎回の恒例になってました(笑)。

(「下手でもなんでもいいから書こう」と思った高佐)

中村:そんなに追いこんでたように、みなさんに思われると私も心外なんですけど、ときどきちょっと、「どうですか?」っていうくらいに聞いただけです(笑)

高佐:ああ、すいません(笑)。

中村:でも最後のほうは、ちょっと感じてました。ちょっともう、「これ以上書かせたらダメなんじゃないか」って(笑)。でも「あと1本あと1本」みたいな感じで、最後のほうは(笑)。本の終わりが見えてきたんですよ。それまでのもそれぞれ面白かったんですけど、1~3作目までは、終わりが見えなかったんです。でも、4作目の「かなしみの向こう側」ができたときに「表題作ができた!」って思ったんですよね。タイトルもそれでいける。だけど、感覚的で説明しづらいんですけど、「どうしても、あと1個だけ要るな」って思ったんです。「かなしみの~」はそれまででいちばん長いもので、なんか高佐さんにもやり遂げた感があったというか、「もういいだろう」っていうのが若干見えた(笑)。

高佐:いやあ、ほんとにそうでした(笑)。

中村:「最後、あと1個、お願い」っていう、そのクレクレ感だけは、ちょっと出したかもしれない(笑)。

高佐:いやあ、僕も、「うわあ、嘘ぉ」って思いましたけど……。でも、最後のは短くていいっていうのがあったので、なんか肩の力抜いて書けました、あれは。

中村:だけどもう、これから書くとしたら、最初から肩の力抜いて書けるんじゃないですかね。僕も打ち合わせのときに「こんな話はどうですか?」っていっぱいお話して、高佐さんもそのときに「あ、それいいですね。だったらこういうのもいいかもしれない」とか話し合って別れて、で、全然違う話が来るっていうのが最初のころのパターンで(爆笑)。

高佐:ああ、たしかに。打ち合わせして、いざ書きはじめて全然上手くいかなかったからボツにしたっていうのも、結構やっぱりあるので。それで、「全然違う話が来た」って思われたんだと思います。

中村:なるほど。でもどうですか? わりと悩まれるタイプのようですが、書き終えてみて。

高佐:……どうですかねえ。なんか、「ほんとに本になるんだ」っていう、その……ちょっとフワフワした気持ちと、苦しかったのもありますけど書いてて楽しかった時間もありますし。

中村:まわりの反応は、なにかありましたか?

高佐:まわりはまだ、大竹マネージャーと事務所の数人くらいしか読んでないです。

中村:大竹マネージャーはいかがでしたか?

高佐:……どこまでほんとかわかんないですけど、「この作品とこの作品が特におもしろかったです」っていうことと……。

中村:ちなみにどの作品ですか?

高佐:「天然コンタクトレンズを巡る旅」と「愛のある家庭教師」です。で、「この話を受けたときも、実際に高佐さんが書いてみて、ダメだったらそれはもうそれまでって思ってたけど、よかったから、今後も書き続けていくべきです」みたいな、強い言葉で……。

中村:おおっ!

高佐:「書いていったほうがいいと思います」っていうよりも、大竹マネージャーの中では、「これはもう、書き続けていく使命があります」みたいなことを言われて。それは、もちろん僕は嬉しいんですけど、ただやっぱりすごい猜疑心があるというか、中村さんもおもしろいと言ってくださるんですけど、「ほんとなのかな?」っていうのは心の隅にずっと持ってますね、はい。

中村:いや僕、あれっすよ、思ったことしか言わないですよ(笑)。

高佐:いやあ、そう……であるならば、できるかも……。

中村:もちろん読み手にはいろんな人がいるんですけど、高佐さんの小説は新しいと思ったし、おもしろいかおもしろくないかで言うと、少なくとも僕には刺さってるので。

高佐:ああ、それはありがとうございます。

中村:あと、「こいつは絶対おもしろがるだろうな」っていう人に読ませたら、やっぱり「すげぇおもしろい」って言ってくれて。

高佐:ええ~!

中村:全員が全員、同じ反応ではないかもしれないですけど、おもしろいって思う人はいっぱいいますよ。だからそういう人に読んでもらえるといいですよね。

高佐:ああ、読んでもらいたいですねえ! 読んでもらいたいっていう気持ちが強くなってきました。

「スーツで海の中に入ることも、もうないだろうな」って、そこの好奇心が勝ったのかもしれない

中村:でも、ほんとに感謝しているのはもちろん書いてもらったこともなんですけど……。

高佐:いやいやいや、こちらのほうこそ感謝しています。

中村:「表紙の写真を撮りに行こう!」って(笑)、寒い中、衣装も自前で……。なんか、僕も、「そこまでやることないのに」って思ったんですけど、海の中で、ねえ……。

高佐:体育座りしました(笑)。

(読んでもらいたいっていう気持ちが強くなってきた高佐)

中村:高佐さんが海の中で体育座りされてて、僕も海に入ってレフ板を構えて光を当ててたんですけど(笑)。

高佐:中村さん自ら(笑)。

中村:高佐さん、ガタガタ震えてましたよね。

高佐:いや、寒かったですよね、あの日は。

中村:ですよねえ。カメラマンも別にそんな……誰が言うともなく、「海の中、入るでしょ?」みたいな空気が醸成されて。それまでにもいっぱい写真撮ったのに、なんかもう、最後に海に入るのが前提みたいになってましたよね。

高佐:あのとき、みんなおかしかったですよね、なんか。

中村:高佐さんも、特に嫌がることもなく……。

高佐:いやまあ、表紙なので、はい。

中村:「入りましょう」みたいな。しかもご自身のスーツで!

高佐:はい、僕のスーツで。「スーツで海の中に入ることも、もうないだろうな」って、そこの好奇心が勝ったのかもしれない。

中村:あ、好奇心で入っていただいたんですね。

高佐:いやいやいや、はい(笑)。家に帰って洗濯しようと思ったら、すごい砂が出てきたんで、コインランドリーに行って洗いましたけど(笑)。

中村:すみません(笑)。

高佐:コインランドリーに申し訳ないなって思いながらも。でも、こちらこそほんとに感謝しています。こうやって機会を与えてもらえて、書くことができて。

中村:いえいえ、とんでもない。なんかでも……ほんとに面白いので、読んでほしい人としては、THE GEESEのコントが好きな人はもうばっちりだと思うし……でもわりともう、多くの人におススメだと思うんですけどねえ。誰が読んでもおもしろさはわかるんじゃないかなと思います。

高佐:あんまり……そうですね、世代は選ばない感じかも……しれない……かな?

中村:若い人にも読んでもらって、上の世代の人もちょっと読んでほしいですね。

高佐:なんかちょっと気持ち悪い感じとか、不思議な話が好きな人には、読んでもらえたらなというのは思っています。

「見ちゃいけないけど見たい」ことってあったりするじゃないですか。

中村:あと、すいません、テーマ的にはちょっと戻っちゃうかもしれないんですけど、コントを作るときと小説執筆の違いっていうのはなにか感じましたか?

高佐:まあ、コントはやっぱりメインが「笑い」なので、小説では「これはおもしろいけれど、笑いにはならないからちょっと排除しよう」みたいなことはなかったですね。僕はちょっと薄気味悪かったり、ちょっと怖かったり狂気の部分があったりっていうのが好きなので。

中村:「おもしろい」っていう言葉は幅が広くて、いろんな「おもしろい」がありますからね。

高佐:なんか、「見ちゃいけないけど見たい」ことってあったりするじゃないですか。そういうおもしろさというか。

中村:それって、THE GEESEのコントにもちょっとあったりしますよね。

高佐:ああ、やっぱり好きだから、そういうのは出ちゃってるのかもしれませんけど。

中村:でも、ちょっとねえ、「クスクス笑う」みたいなのがないと、お笑いでは採用されないところを、小説だとクスクスがいらないですね。

高佐:そうですね、はい。「かなしみの向こう側」でも、習字教室のシーンがあって、そこに「万引き」って口紅で書いて見せる、みたいな……。

中村:あそこは小説史に残る衝撃的なシーンだと思います。

高佐:いやいや(笑)。なんかちょっと怖いじゃないですか。コントだと、たぶん違うなってなると思うので……そういう怖い部分をも書けるのが、小説なのかなっていう。

中村:僕はおもしろい小説の話をするときに「小爆発がある小説」っていう言い方をよくするんですけど、小爆発ってそういう「日常からの逸脱」だったり「踏み越える瞬間」だったりすると思うんですけど……。「かなしみの向こう側」の習字教室のシーンがまさに逸脱したシーンで。「なんでこんなこと思いつくんだろう!?」ってマジで……(笑)。ほんとに震えましたね。ちょっとみなさんに読んでほしいです。

高佐:(爆笑)。「あいつはなんで、あんなことをしたんだろう?」って。

中村:もう一回、ここで言っときます。小説史に残るシークエンスです、あれは。

高佐:そんなそんな……(笑)。

中村:小説では、コントに描けないことも書けるっていうことですね。

高佐:そういうのが今回は書けたっていう、そして僕はそういうのが好きだっていう感じです。

中村:でも、あれを意識して引き出せたら、すごい武器になると思います。これはちょっと、第2作も楽しみになってきましたね!

高佐:いやあ、でもまだ結果が出ていないので。第1作目の。それを踏まえたうえで、で。

中村:結果ってなんですか? 反響とかそういうのですか?

高佐:……とか、まあ売り上げとかじゃないですかねえ。

中村:いや、売り上げなんかは気にしなくていいんですよ。

高佐:すごいことを言いますね、中村さん。

中村:大事なのは、やっぱりあの書道教室のシーンみたいなものを、あと何シーン世界に残していくかっていうことなので、ちょっと第2作も楽しみにしたいですね。……売り上げもまあ、頑張りましょう(笑)。THE GEESEのファンって日本に何千人、いや何万人くらいいるんですかね?

高佐:いや、何万って(笑)。

中村:その方たちには二冊ずつ買ってほしい(笑)。

高佐:まあとにかく、なんですかね……ほのぼのしたような、誰もが読んで幸せになるような話ではないですけれども……。

中村:そうかなあ?

高佐:ハッピーエンドっていうよりもバッドエンドのほうが多いような気もしますけれども、そういうのが好きな方はちょっと読んでもらえたらなと思いますね。

中村:普段触れないものに触れたいという好奇心を持った人にも。楽しみに読んでいただければと思いますね。えーっと、『キングオブコント』には今年も?

高佐:今年も出場します。

中村:じゃあ今年の『キングオブコント』の時期に、優勝に合わせて第2作を出せたら!

高佐:もう1年もないですけど……(笑)。

(そしてキングオブコントまで、一年を切った)

中村:ちなみに、また書くとしたらどんなものを書きたいとかはありますか?

高佐:えーっ!? ……でも「玉依存」のときかなあ、ハッピーエンドで終わらせようって最初思って書いてたんですけど、そうならなかったんですよ。どの小説も「ザ・ハッピーエンド」って感じで終わってるのはたぶんひとつもないんで、ちゃんと「その先に希望があるハッピーエンド」で終わる作品には、ちょっと取り組んでみたいなとは思いました。……もしかしたら、そういうのは書けないのかもしれませんけど。

中村:長さとかもあるのかもしれないですね。短い小説だとわりとスパッと終わって、あんまりきれいにハッピーエンドではなく、ちょっと余韻を持って終わっても全然いいんですけど、長編ってなると、厚い本を最後まで読んでいって、最後に「終わった」っていう印象にするならハッピーエンドでないと、というのはあるかも。気持ちよく終わるようなほうがよかったりするのかもしれませんね。

高佐:たしかに。そうかもしれませんね。「玉依存」も、あの先を書こうと思えば書けたかもしれないですけど、あの設定ではもうあそこが限界だなっていう……。それでスパッと終わらせたんです。だから、長くても長いのに耐えうる設定を思いついて、なおかつハッピーエンドにできればなあっていう感じですかね。

中村:そうかもしれないですね。それはこれからの高佐さんの執筆活動に期待していただくということで。じゃあ最後に、読者の方にひと言。どんなことでもいいのでメッセージをください。

高佐:僕のことを知ってくれてる方にはもちろん読んでもらいたいですし、願わくばまったく著者のことを知らないけど「手に取って読んでみておもしろかった」っていうのが、なによりの喜びなので、そういう方たちにもこの本が届いてほしいなと思います。

(写真:吉田明広 照明:中村航)


高佐一慈(たかさ くにやす)プロフィール

 1980年、北海道・函館市出身。2004年3月、尾関高文とともにお笑いコンビ「THE GEESE」(ザ・ギース)を結成。コントを基盤とし、多岐にわたって活動中。キングオブコント2008・2015・2018・2020ファイナリスト。特技はパントマイム、ハープ。

■THE GEESEオフィシャルHP|https://thegeese.jp/


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