2020年に史上最年少となる18歳で「第15回小説現代長編新人賞」を受賞し、昨年その受賞作『檸檬先生』でデビューした珠川こおりさん。
音や文字などに、目に見える「色」を感じる「共感覚」を持つ少年と少女を、彼らの感覚を追体験させてくれるような色彩表現で描いてみせた『檸檬先生』は、10代~20代の強い支持を受け、瞬く間に増刷を重ねました。
その珠川さんの新作『マーブル』が7月27日に発売されました。
姉弟というとても近しい「他人」の視点で、他者とのかかわり方、境界を引くことの難しさを、デビュー作で見せてくれた瑞々しい感性で切なく、温かく描いた作品となっています。
受賞後第1作を刊行したばかりの珠川さんにお話を伺ってみました。
他者には自分の気持ちのすべてを共有できるのではない
――『マーブル』について、これから読む方や購入を検討されている方へ、内容を教えてください。
『マーブル』は、弟の幸せを願うばかりに空回りしてしまう姉をストーリーの軸にした「多様性」がテーマのお話です。様々な色が混ざり合いながら存在する、境界の曖昧さと調和の意味からタイトルをマーブルにしました。自分と相手の前提が違うことに気付ける、新しい視点も持てるような話になっているといいなと思います。
――本作を描こうと思われたきっかけを教えていただけますでしょうか。
他者と分かり合うことの難しさを痛感したのがきっかけです。友達だと思っていた人に裏切られたような気分になったり、一方、自分自身も自分を偽って他人と接している部分があったり、他者には自分の気持ちのすべてを共有できるのではないという意識がありました。歩み寄れるように、少しでも分かり合いたい、そんなお話を書きたいと思ったのが原点です。
この話が絶対に正しいわけではないということ
――ご執筆にあたって、苦労されたことなど、執筆時のエピソードがございましたらお聞かせください。
私にとっては、登場人物の茂果や穂垂、朗もみんな他人でもあるという点が執筆するうえで大変でした。異性愛者の茂果の気持ちも、自由に趣味を謳歌し漫画やアニメを愛する穂垂の気持ちも、バイ(セクシャル)の朗の気持ちも、完全に理解できるわけではないので、多くの人の話や意見を聞いて集めて、キャラクター像を固めるようにしました。
――今回の作品の読みどころ、注目すべきポイントとなる部分などをお教えください。
私自身が多様性を認めてほしいと思いながら書いたので、物語もそのメッセージ性が強くなってしまっていますが、あくまでそれは私の意見です。この話が絶対に正しいわけではないということ、多種多様な人がそれぞれの考えを持っていい、という前提があると思います。
自分の作品を愛すると言うと自己愛が強い感じになってしまいますが……
――小説を書くうえで、いちばん大切にされていることや、こだわっていることをお教えください。
拘りは、様々なモチーフを使うこと。本作でいうとはちみつとか、ゴーヤとか、ただ描写するのではなくて、なにかしら意味を持っていると面白いかなと思っています。あとは、自分の好きな話を書くことです。自分の作品を愛すると言うと自己愛が強い感じになってしまいますが、その分熱量があってより良い作品になります。
――最後に読者に向けて、メッセージをお願いします!
テーマがすごくセンシティブであることに加えて、特に茂果が無自覚で他人に配慮できないところがあって、不快に感じる人も多いかもしれません。読みづらい部分もある拙作ですが、全体としては軽快でポップに書きましたので、楽しんでいただけたら幸いです。
Q:最近、嬉しかったこと、と言えばなんでしょうか?
ピアノのコンサートのチケットを当てたことです。先着順のチケットで、半ばあきらめていたのですが、入手できて本当にうれしいです。早くコンサートに行きたくて楽しみで仕方ありません。
Q:ご自身は、どんな小説家だと思われますか?
自己中心的で視界が狭くなってしまうところがあるので、編集者さんたちに支えられています。
Q:おすすめの本を教えてください!
『ピンクとグレー』加藤シゲアキ(KADOKAWA)
『教科書で覚えた名詩』(文藝春秋)
『文体練習』レーモン・クノー(朝日出版社)
『ピンクとグレー』(加藤シゲアキ・著)は私の大好きな作品で、何度も読み返しています。すごくどきどきする話です。それと、幼いときからずっと読んでいるのは『教科書でおぼえた名詩』(文藝春秋・編)です。当時は素読をしたり、実際教科書で学んだり自分で好きな詩を探してみたり、とても身近な本です。オススメとは少し違いますが『文体練習』(レーモン・クノー・著)という本を読んでみたいと思っています。
珠川こおりさん最新作『マーブル』
発売:2022年07月27日 価格:1,485円(税込)
著者プロフィール
珠川こおり (タマガワ コオリ)
2002年、東京都生まれ。2020年に「第15回小説現代長編新人賞」を受賞。2021年に受賞作でありデビュー作となる『檸檬先生』を刊行。