ジャパニーズホラーの新鋭・芦花公園さん。WEB小説として大きくバズったデビュー作からまだ1年あまりながら、早くも4冊目の著書『とらすの子』が発売されました。

東京を中心に起こりはじめた不可解な連続殺人事件。その中心に、虐げられた人たちが集う「とらすの会」と、類まれな美貌を持つ「マレ様」の存在があることを掴んだフリーライターの美羽は、とらすの会に接触を試みるが――。

静謐な文章が読み手をより深い恐怖へと突き落とすこの最新作についてお話を伺いました。

良い人が誰にとっても良い人とは限らない

――『とらすの子』について、これから読む方へ、どんな物語かお教えいただけますでしょうか。

良い人が悪い人を救済しようとする話です。

人間を多面的に見るということもテーマかもしれません。良い人が誰にとっても良い人とは限らないし、悪い人も誰かの救いになっている、というような。

――本作を描こうとされたきっかけを教えていただけますでしょうか。

私の作品にはどれもキリスト教的要素があるのですが、キリスト教的要素のあるホラーで外せないのが悪魔の存在です。いずれ悪魔そのものを扱ったホラーを書きたいとは思いますが、現在はまだ悪魔そのものを恐怖の対象にできる土壌が整っていないと思います。その土壌を作るために書いた作品です。

それと、所謂カルト教団にいる人は、自分がその中にいるときはカルトなんて思いもしないし、安心できる居場所なのだろうなと思ったので書いた作品でもあります。拙作『異端の祝祭』ではカルトは恐ろしいものだよ、という側面を強調して書いたつもりですが、今作は安心という側面にスポットを当てています(カルト教団を肯定するものではありません)。

もう少しバンバン人が残酷に死んでいく予定でしたが……

――ご執筆にあたって、苦労されたことや、当初の構想から変わった部分など、執筆時のエピソードをお聞かせください。

角川ホラー文庫から刊行した『漆黒の慕情』と同時並行で書いたものなのですが、『漆黒の慕情』の主人公が超越的な美形でして、今作『とらすの子』にも同じくらいの美形が出てきますから、書き分けに苦労しました。一緒に書いているとどうしても表現などが被ってしまうので……。

当初から変わった点としては、死人の数とゴア描写ですね。もう少しバンバン人が残酷に死んでいく予定でしたが、よくよく考えたら私はスプラッターが特別好きなわけではなかったので、もう少し静かな感じに落ち着きました。

※ゴア描写=血しぶきが飛び散る残虐場描写(編集部註)

――どのような方にオススメの作品でしょうか? また、本作の読みどころも教えてください。

今回、やや誇張はしましたが、「よくいる嫌な人」を沢山書きました。

直接的に嫌な人と接するのは勘弁だけと、その嫌な部分には興味がある人などに読んでほしいと思います。

ジャパニーズホラーの土壌に悪魔の種を蒔いていきたい

――小説を書くうえで、いちばん大切にされていることをお教えください。

これは前の質問の答えとも被るのですが、私は常々「ホラーはキリスト教的要素が入ると怖くなくなる、醒める」という状況をなんとか覆したいと思っています。

これは私がクリスチャンなことも関係があると思うのですが。今後そういう要素のない作品も書きたいとは思っていますが、着々とジャパニーズホラーの土壌に悪魔の種を蒔いていきたいです。

――最後に読者に向けて、メッセージをお願いします。

読んでいる間中ずっと嫌な気持ちでいてほしいし、少なくとも三日間は嫌な気持ちを引き摺ってほしいなと思って書いた『とらすの子』をぜひ楽しんでいただきたいです。

他人の死を願う。その忌まわしい願望を現実にしてくれる、美しき異形であるマレ様にのめり込んでいく人々の、その心酔していく様に恐怖を感じました。

マレ様に縋り続けることになんの疑いも持たず、心の安寧を保とうとするとらすの会の人々は、やがてマレ様がもたらしてくれるものを盲信し続けることがすべてになってしまいます。あたかも、とらすの会に居続けるために、憎しみをぶつける相手を探すかのように。

そこに疑問を持ってしまったり、現実の中のささやかな希望に目を向けてしまえば、待っているのは――。

ホラー作品のため、あまり書いてしまうとこれから読むみなさんの興を削ぐことになってしまいますが、そういう哀れさも描かれた物語でした。

マレ様の出自を追う、ミステリ的な味わいも楽しめる作品になっています。

Q:最近、嬉しかったこと、と言えばなんでしょうか?

ファンレターを貰ったことですね。便箋からしてとてもセンスがいいんです。何か黒い模様、花かな? と思ったら蠅でした。

Q:ご自身は、どんな小説家だと思われますか?

未だ自分のことを小説家だと思っていません。よく考えたらデビューして一年経っているんですが、気持ちはWEBで趣味で書いているときと何も変わらないので、自分の本の話をしている人がいると新鮮に嬉しいです。なんで私の書いたもの読んでるの? みたいな。

Q:おすすめの本を教えてください!

オールタイムベストは『蛇棺葬』(三津田信三)です。これより面白い本を知りません。深い知識に担保された伝承は創作であるはずですが、創作ということを忘れさせる恐ろしい仕上がりです。

『首ざぶとん』(朱雀門出)は読んでいる間は愉快ですらあるのに後々思い出すと足元がふらつくような感覚の小説。頭のおかしい人に一方的に話しかけられているような嫌な気分を味わえます。

『壜の中の手記』(ジェラルド・カーシュ)は理想とする幻想怪奇短編集です。恐怖とは違いますが、不気味で、ユーモラスで、人間の弱さが哀しい、そんな小説です。

■『蛇棺葬』三津田信三(講談社)

■『首ざぶとん』朱雀門出(KADOKAWA)

■『壜の中の手記』ジェラルド・カーシュ(晶文社)


芦花公園さん最新作『とらすの子』

『とらすの子』(芦花公園) 東京創元社
 発売:2022年07月29日 価格:1,760円(税込)

著者プロフィール

芦花公園(ロカコウエン)

東京都出身。2018年頃からWEBでの小説発表をはじめる。そのなかの1編である「ほねがらみ——某所怪談レポート」が大きな注目を集め、2021年に『ほねがらみ』でデビュー。その他の著書に『異端の祝祭』『漆黒の墓情』がある。

 

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