中村航さんの文庫新刊『いつかこの失恋を、幸せにかえるために』の主人公・なつきは「失恋したての女の子」。中村さんが、いつか小説にしようと温めていたモチーフなのだそうです。
出口の見えない就活のさなか、きっと心の支えのように楽しみにしていたであろう北海道旅行当日に彼氏にドタキャンされ、スマホのメッセージだけで別れを告げられたなつき。まさにどん底の気分からはじまる女子大生のロードノベルである本作について、中村さんにお話を伺いました。
世界中から「NO」を突きつけられたような気持ちのまま旅立った彼女は、旅の中でなにを見つけ、その心はどこへ向かうのでしょうか……?
いろんな人に失恋の話を聞いて、失恋エピソードハンターみたいになってましたね
――今回の『いつかこの失恋を、幸せにかえるために』について、これから読む方へ、内容をお教えいただけますでしょうか。
『#失恋したて』という書籍が文庫化することになり改題し、改稿などをした作品です。一言で言うと、失恋した就活中の女子が旅をする小説、です。失恋っていろいろあると思うのですが、この世にある失恋のすべてを、この本に詰めこみました(笑)。
――この作品が生まれたきっかけを教えていただけますでしょうか。
失恋したての女の子、という日本語のフレーズが、ずっと自分の中にありました。いつか作品にできたら、って思って、機会を窺っていた感じです。
そろそろ作品にするぞ、ってなった後は、男女問わず、いろんな人に失恋の話を聞いて、失恋エピソードハンターみたいになってましたね。「今までで一番の失恋ってどんなだった?」って訊いたら、結構みんな教えてくれて、感謝してます。
最初の主人公が叫ぶシーンを思い描いたところで、全体像が見えました
――今回の作品のご執筆にあたって、苦労されたことや、当初の構想から変わった部分など、執筆時のエピソードをお聞かせください。
どんな話にでもできるテーマだったので、最初はストーリーや舞台をしぼるのに迷いました。北海道の話にしよう、就活中の主人公にしよう、と絞り込んでいって、冒頭の主人公が叫ぶシーンを思い描いたところで、全体像が見えました。
そこからは自分が実際に見たり聞いたりした話で、膨らませていってます。途中に出てくるいろんな人の失恋エピソードは、全て実際に聞いた話ですし。あと、初めて取材費というものを出版社に出してもらったので、実際に北海道に取材旅行に行ってきました。幸福駅に行くとだけ決めて、そこからはレンタカーを借りて、ほぼノープランの旅。要は主人公と同じことをしてみようと。オンネトーやラワンブキに感激して、といったところなど、そのまま書いてます。旅の最後のほうにDJ親方という人が出てきますが、彼も実在します。DJ親方、とてもステキな方です。
――どのような方にオススメの作品でしょうか? また、本作の読みどころも教えてください。
失恋って、形は違っても、誰でも何か思い起こすものがあるんじゃないでしょうか。なので誰でも共感したり、何かを考えるきっかけになったりできる小説なんじゃないかな、って思います。全ての元失恋者にオススメしたいです。
喪失から救済へ、一周回れる小説です
――小説を書くうえで、いちばん大切にされていることをお教えください。
リアリティ、です。
――最後に読者に向けて、メッセージをお願いします。
喪失から救済へ、一周回れる小説です。気軽に旅をする気分で、ぜひ読んでみてください!
Q:最近、嬉しかったこと、と言えばなんでしょうか?
好きな人が優しかった。
Q:ご自身は、どんな小説家だと思われますか?
などという冗談が好きな小説家。
Q:おすすめの本を教えてください!
■『きらきらひかる』江國香織(新潮社)
■『哀愁の街に霧が降るのだ』椎名誠(小学館)
■『羊をめぐる冒険』村上春樹(講談社)
小説を書き始めたころ、何度も読んでいた本のうちの三つです。
中村航さん最新刊『いつかこの失恋を、幸せにかえるために』
発売:2022年11月22日 価格:792円(税込)
著者プロフィール
中村航(ナカムラ・コウ)
1969年生まれ。2002年『リレキショ』にて「第39回文藝賞」を受賞し小説家デビュー。続く『夏休み』『ぐるぐるまわるすべり台』は芥川賞候補となる。ベストセラーとなった『100回泣くこと』ほか、『デビクロくんの恋と魔法』『トリガール!』など映像化作品多数。アプリゲームがユーザー数全世界1000万人を突破したメディアミックスプロジェクト『BanG Dream! バンドリ!』のストーリー原案・作詞など、小説作品以外も幅広く手掛けている。近著に『広告の会社、作りました』など。