昨年発表された、君嶋彼方さんのデビュー作『君の顔では泣けない』は、アクシデントで入れ替わってしまった男女の物語でした。

「入れ替わり」と言えば、有名なエンタメ作品をいくらでも思い浮かべることのできる、現代ファンタジーの定番――そんな先入観を大きく覆すその作品は、入れ替わりが生み出すであろう現実が、豊かな想像力で確かな手触りを持って描かれた小説でした。

その君嶋さんが、発売されたばかりの待望の新作『夜がうたた寝してる間に』で選んだモチーフは超常的な「特殊能力」。しかしそこには、能力者としての強さや輝きとは違った、等身大の少年の傷つき悩む姿が、やはりデビュー作と同様のリアリティを持って描かれています。

2作目にして早くも「君嶋彼方ならでは」の魅力を放ちはじめている期待の作家にお話を伺いました。

あくまで日常の中に溶け込み、そのこと(超能力)で悩む普通の人々の物語を描いてみたいな、と思い……

――『夜がうたた寝してる間に』について、これから読む方へ、内容をお教えいただけますでしょうか。

「特殊能力を持った人間」が時折生まれるという設定の世界で、その中で能力を持ってしまった高校生が、そのことに悩み苦しみ、そして成長する物語です。 

――本作を描こうとされたきっかけを教えていただけますでしょうか。

元々「超能力」という設定のある物語は好きでした。ただその力で闘ったり問題を解決したりするのではなく、あくまで日常の中に溶け込み、そのことで悩む普通の人々の物語を描いてみたいな、と思いこの作品を書き上げました。 

時間の止まった世界というのを、読者の方にどれだけ鮮明に頭に思い浮かべてもらえるか

――ご執筆にあたって、苦労されたことや、当初の構想から変わった部分など、執筆時のエピソードをお聞かせください。

苦労した部分はやはり主人公・旭の力である「時間を止める」ということに対する描写です。時間の止まった世界というのを、読者の方にどれだけ鮮明に頭に思い浮かべてもらえるか、そこを悩みつつ執筆しました。旭の体験している世界を、読者の方にも体験していただけたのなら幸いです。

――どのような方にオススメの作品でしょうか? また、本作の読みどころも教えてください。

この物語は高校生という若い世代が主人公の物語ですが、彼らと同世代の方々だけでなく、かつてその世代を経験してきた方々にもきっと楽しめる物語になっているのではないかと思います。

登場人物を架空にし過ぎないことを心がけています

――小説を書くうえで、いちばん大切にされていることをお教えください。

登場人物を架空にし過ぎないことを心がけています。今回のように特殊な設定であっても、キャラクターに血が通っているようにきちんと見えるよう、描写に気を付けています。

――最後に読者に向けて、メッセージをお願いします。

特殊な能力を持った彼らですが、どこかきっと似ている部分があるはずです。それを見つけ、共感し、一緒に物語を体験していただけたら嬉しいです。

Q:最近、嬉しかったこと、と言えばなんでしょうか?

今作が2作目ということで不安でいっぱいだったのですが、「面白かった」という感想を戴くたびにほっとしたと同時にとても嬉しかったです。

Q:ご自身は、どんな小説家だと思われますか?

現在まだ模索中です。「この人にしかこれは書けない」と言われるような小説家になりたいです。

Q:おすすめの本を教えてください!

『ブルーもしくはブルー』山本文緒(KADOKAWA)

特殊設定をもとに登場人物を描く、というのは『夜がうたた寝してる間に』と似ている部分があるかもしれません。この本をきっかけに、読書という沼にどっぷり浸かっていくことになりました。

『ラッシュライフ』伊坂幸太郎(新潮社)

張り巡らされた伏線と巧みなストーリーテリングに唸らされました。小説に対し初めて大きな驚きを覚えた作品でもあります。

『家族八景』筒井康隆(新潮社)

超能力をテーマにしているものの中で、一番好きな作品です。話の面白さや読みやすさはもとより、心情描写が真に迫るものがあり、何度読み返しても圧倒されます。


君嶋彼方さん最新作『夜がうたた寝してる間に』

『夜がうたた寝してる間に』(君嶋彼方) KADOKAWA
 発売:2022年08月26日 価格:1,650円(税込)

著者プロフィール

著者近影(撮影:中林香)

君嶋彼方(キミジマ・カナタ)

1989年、東京都出身。2021年に「水平線は回転する」で「第12回小説野性時代新人賞」を受賞し、同作を改題した『君の顔では泣けない』でデビュー。

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