「ミステリ界の名コンビ」を尋ねられたら、あなたは誰を思い浮かべますか? ホームズ&ワトソン、ポアロ&ヘイスティングス、明智小五郎&小林少年、もっと最近ならご令嬢刑事とその執事? 名コンビが活躍する作品は、事件を解決に導くなかで協力したり、時に反発したりする2人の姿が物語に起伏を生み、読者を引き込んでいきますよね。

今年1月に刊行された『ドールハウスの惨劇』で、新たに「ミステリ界の名コンビ」に名を連ねたのが、鎌倉の名門高校に通う滝蓮司と卯月麗一。”学内便利屋”というのんびりした設定とは裏腹の、思わぬ凄惨な事件に立ち向かうことになる彼らの姿がミステリファンからの大きな注目を集めました。

デビューしたばかりの名コンビに、早くも次の出番が! シリーズ第2弾となる『怪物のゆりかご』では、SNSに流れる血塗れの少年による告発動画をきっかけに、蓮司と麗一が新たな事件に巻き込まれます!

発売されたばかりの新作について、そして高校生探偵たちの誕生の経緯などを、作者の遠坂八重さんに伺ってみました。

高校生が立ち向かうにはあまりにヘビーな事件の真相を明らかにするべく、学内便利屋コンビが奔走します

――今回の『怪物のゆりかご』について、これから読む方へ、どのような作品かをお教えいただけますでしょうか。

<めぐりめぐる悪因悪果>をテーマに執筆しました。

知っている人の知らない顔、嘘につぐ嘘とその代償、無自覚な加害者と消えない罪、さまざまな闇と思惑が入り混じったミステリーです。

高校生が立ち向かうにはあまりにヘビーな事件の真相を明らかにするべく、前作に引き続き学内便利屋コンビが奔走します。

謎をとりまく複雑な人間模様と高校生探偵ふたりの活躍にご注目ください。

――この作品が生まれたのはどんなきっかけだったのでしょうか。

かっこいい変人(ホームズ役)と常識人の相棒(ワトソン役)という王道から着想を得て生まれました。

麗一のキャラクター造形は、シャーロック・ホームズと石坂浩二さん演じる金田一耕助の影響が大きいです。彼が風変りな分、蓮司は明るく優しい普通の高校生を意識しました。

前作も今作もクセのあるキャラが多いので、蓮司の普通っぽさに救われています。

『ドールハウスの惨劇』

鎌倉にある名門・冬汪高校2年生の滝蓮司は、眉目秀麗だが変人の同級生・卯月麗一とともに「たこ糸研究会」の名で、生徒や教師から依頼を受け、思ってもみない方法で解決を図る学内便利屋として活動している。ある日、学内の超絶美少女・藤宮美耶から受けた依頼が、ふたりを特異な家族にまつわる、おぞましい事件に巻き込んでいく――。本年1月に刊行された遠坂さんのデビュー作でもあるシリーズ第1弾です。

せめて物語の世界では、加害者に制裁が与えられ被害者には救済がもたらされてほしいという想いから……

――ご執筆にあたって、苦労されたことや、当初の構想から変わった部分など、なにかエピソードがありましたらお聞かせください。

現実で不条理な事件を耳にすることが多く、せめて物語の世界では、加害者に制裁が与えられ被害者には救済がもたらされてほしいという想いから、ストーリーラインが生まれました。

凄惨な事件とあの結末から、被害者たちにどうすれば希望をもたらすことができるだろうか、というのは最後まで非常に悩みました。

物語の性質上、みんながみんな完全に救われてハッピー!ということにはならなかったので、登場人物一人ひとりのこれからを想像してしまうと、書き終えた今でも苦しいところがあります。

――本作は、特にどのような方にオススメの作品でしょうか? 読みどころなども含めて教えてください。

シリアス×コミカル、ゆるい日常×戦慄の非日常、学内便利屋の高校生探偵×凄惨な事件、ギャップに魅力を感じる方に、おすすめさせていただきたいです。

また、ストーリーは重いのですが文体は軽いタッチで読みやすいので、普段あまり小説を読まない方にもお手にとっていただけたら嬉しいなと思っております。

頭のなかで大まかな展開を考えて、あとは気のまま思いのままにバーッと書いていくタイプです

――小説を書くうえで、いちばん大切にされていることをお教えください。

キャラクターの意思を最大限尊重することを大切にしております。

ミステリーとしてはあまりよくないかもしれませんが、今までしっかりしたプロットを考えたことはなく、頭のなかで大まかな展開を考えて、あとは気のまま思いのままにバーッと書いていくタイプです。するとそのうちキャラクターが勝手に動き出して、私が思い描いていた道すじを脱線したりすっとばしたり、立ち止まったり逆走したり……ということが頻繁に起きるのですが、とくに軌道修正せず彼ら(彼女ら)の行く道を追走していったんは書き通します。

そのあと読み返して、どうしても冗長になってしまう、物語として整合がとれなくなってしまう、というところを修正して完成させていきます。

――最後に読者に向けて、メッセージをお願いします。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

またお会いできたら嬉しいです!

Q:最近、嬉しかったこと、と言えばなんでしょうか?

熱々のおかゆに細かく刻んだ生の大根をサッと混ぜ込んで食べたら、すごくおいしかったことです。

おかゆ1にたいして大根おおむね0.5の割合です。仕上げにめんつゆを垂らします。

Q:ご自身は、どんな小説家だと思われますか?

デビュー一年目ですので、まだまだ成長が見込める小説家だと思っております。これからもいろんなものを吸収して勉強して、精進してまいりたいと考えております。

Q:おすすめの本を教えてください!

■『伊豆の踊子』川端康成(新潮社)

息をのむほど儚く美しい情景と人びとのゆくえに心が洗われます。一人旅の折、湯上りに広縁などに腰かけて夜風にあたりながら読みますと、いっそう旅情がかき立てられて幸福に満たされます。とくに『温泉宿』が好きです。

■『ハーモニー』伊藤計劃(早川書房)

読了後、とてつもない喪失感に襲われてしばらく放心状態に陥ります。放心から立ち直ったあとは、心地よい余韻が残ります。

『こんなに壮大な世界を生み出せるなんて』と強い衝撃を受けて、小説家を目指すきっかけとなった作品です。

■『HUNTER ✕ HUNTER』冨樫義博(集英社)

世代なのですが、子供のころ読んだことがなく、最近になってはじめて読みました。あまりのおもしろさに興奮して寝つけなくなりました。最新刊まで読み終えると、またすぐ一巻から読み返したくなる……のループに陥り瞬く間に時が過ぎ去ります。


遠坂八重さん最新作『怪物のゆりかご』

『怪物のゆりかご』(遠坂八重) 祥伝社
 発売:2023年09月08日 価格:1,980円(税込)

著者プロフィール

遠坂八重(トオサカ・ヤエ)

神奈川県出身。2022年に『ドールハウスの惨劇』 で「第 25 回ボイルドエッグズ新人賞」を受賞し、本年同作でデビュー。本書『怪物のゆりかご』がデビュー第2作となる。

(Visited 219 times, 1 visits today)