「音楽を読んでみた、小説を聴いてみた」をテーマにした新プロジェクト【オトトモジ】。近年、さまざまな形で小説と音楽を融合させた新しい形のエンタメが登場し、人気を集めているのはみなさんもご存じだと思いますが、この【オトトモジ】も、ひとつの世界を小説と音楽で表現し、立体的に楽しむエンタテインメントです。

その第1弾として刊行されたのが、清水セイカさんの『生贄たちの午後』。タワーマンションの住人女性の間で起こるマウントの取り合いに翻弄される平凡な主婦を描いた、ドメスティックサスペンスとなっています。

人間のエゴがむき出しになっていく物語から汲み取った「偽善」をテーマに、「夜更かしさんは白昼夢を見る」の作詞・作曲を務めるAyatoさんが制作した同名の楽曲によって、より深みを与えられた本作について、清水さんにお話を伺ってみました。

タワーマンションという閉鎖的な空間を舞台に、登場人物各々の「視点の違い」から生まれるサスペンスストーリーです

――今回の『生贄たちの午後』について、これから読む方へ、どのような作品かをお教えいただけますでしょうか。

視点が違えば表裏も違い、些細なきっかけで正義が悪に変わってしまうというのは、現実でもSNSでも意外と多いのではと思います。

主人公の福田優里は平凡で、どこにでもいるような普通の主婦として描いています。そんな彼女にも「正義」がありますが、それが本人も気付かないうちに「悪」として捉えられてしまう。本作はタワーマンションという閉鎖的な空間を舞台に、登場人物各々の「視点の違い」から生まれるサスペンスストーリーです。

そしてぜひ、同名で発表されたAyatoさんの楽曲も併せて聴いていただけると、より世界観に没入出来る新しい楽しみ方が出来ると思います。

――この作品が生まれたのはどんなきっかけだったのでしょうか。

私はSNSを使う際、どちらかというと自分が投稿するよりも色んな方の投稿を見て回る方が好きなのですが、たまにヒートアップしているコメント欄のやり取りを第三者視点で見ていると、「これって、どっちが良いとか悪いとかの話じゃないよね」と思うことがあるんです。そういう立場や思想の違いで、思わぬ誤解を生んでしまったりするよな、と考えたのがきっかけです。

Ayatoさんは、私以上に作品のテーマを深く理解してくださっていると、感動しました

――ご執筆にあたって、苦労されたことや、当初の構想から変わった部分など、なにかエピソードがありましたらお聞かせください。

主人公はあくまで普通の人として書いているのですが、要所要所で『ん? 何かおかしくない?』と思わせるような微妙に嫌な部分を表現するのに、苦労しました。またラストに向けて視点が変わるのですが、そこを盛り上がりのポイントとする為に前後のストーリーが説明ばかりの退屈なものにならないよう、何度か修正を繰り返しました。

――さきほどお話に出たように、本作は小説の世界観を題材に音楽を制作する【オトトモジ】プロジェクトの作品として、「夜更かしさんは白昼夢を見る」のAyatoさんによる同名楽曲が発表されていますが、ご自身の小説をイメージした楽曲が作られた感想、また楽曲についての感想などをお聞かせください。

お話をいただいた当初はあまりに光栄なことで上手くイメージが出来ず、Ayatoさんが作られた既存の曲を何度も聴いては「本当に素敵だな」といちファンとしての立ち位置でした。その後『生贄たちの午後』を聴かせていただき、私以上に作品のテーマを深く理解してくださっていると、感動しました。グサグサと胸に刺さるような言葉選びで、物語を書く立場としても学ばせていただく部分がとても多かったです。

思考の違いから生まれる人間の闇を表現したくて、試行錯誤を繰り返しました

――本作は、特にどのような方にオススメの作品でしょうか? 読みどころなども含めて教えてください。

タワーマンションが舞台のサスペンスストーリーではありますが、主人公は本当に普通の主婦ですし、割と身近で起こり得るようなトラブルを散りばめたので、こういったジャンルが苦手な方にもさらっと読んでいただけるのではないかと思います。

クライマックスに向かうにつれ「なぜそうなるのか?」と疑問に思う方も多くいらっしゃるかもしれませんが、その人物だからこその視点や考え方、微妙なすれ違いが大きな歪みを生んでしまうことの怖さなどを意識して読んでいただけたら嬉しいです。

――最後に読者に向けて、メッセージをお願いします。

本作は、私が初めて挑戦したジャンルの物語です。自分がよかれと思ってしている行動でも、ふとした瞬間大きなトラブルの火種となり、取り返しのつかない事態を呼び起こす。

特に、SNSなどで気軽に交流が出来るようになった今の社会で、何気ない投稿が思わぬ方向に受け取られてしまった経験のある方も、いらっしゃるのではないでしょうか。

『生贄たちの午後』では、そういった思考の違いから生まれる人間の闇を表現したくて、試行錯誤を繰り返しました。

ある意味で、後味の悪い読後感かもしれませんが「人って怖い」というゾクゾク感を、独創的で素晴らしい楽曲と共によりリアルに感じていただけたら嬉しいなと思います。

Q:最近、嬉しかったこと、と言えばなんでしょうか?

パッと思いついたのが、普段あまり本を読まない息子が私の作品を初めて完読してくれたことです。

Q:ご自身は、どんな小説家だと思われますか?

書きたい欲は強いのですが、それをきちんとプロットとして組み立てることが苦手です。当初のアイディアとストーリーの流れがカチッと嵌ればよいのですが、バラバラになってしまうことも多く、自分でももったいないなと感じています。もっと安定して、自分の目指す物語をきちんと完結させられる小説家になりたいです(願望になってしまった)。

Q:おすすめの本を教えてください!

■『青い天使』倉橋燿子(講談社)

子供の頃倉橋燿子先生の「青い天使」がとても好きでした。主人公のチナには、読んでいて辛くなるような試練がいくつも訪れるのですが、持ち前の強さと優しさで自分の手で幸せを掴み取っていく彼女に勇気をもらいました。ドキドキ、ハラハラ、キュンキュン、涙など、たくさんの感情が詰まった読み応え抜群の素敵な児童作品です。

■『ハリー・ポッターと賢者の石』J・K・ローリング(静山社)

「ハリー・ポッター」シリーズにもどハマりしました。分厚い本と辞書を片手に、分からない言葉は調べたり、難しい表現はメモをとって次の日先生に聞いたりしていました。非日常にどっぷり没入出来るあの世界観が本当に大好きです。主人公ハリーのような階段下の狭い部屋に憧れて、一時期押し入れを棲家にしていたことがあります(笑)。

■『博士の愛した数式』小川洋子(新潮社)

初めて読んだ日から十年以上経っても強く心に残っているのが、小川洋子さんの『博士の愛した数式』です。設定の奇抜さと独特の優しい世界観、博士の台詞のひとつひとつが胸に沁みて、いつ読んでも温かい気持ちになれる大好きな作品です。主人公の息子であるルートと博士の関係性にもほっこりして、何度も泣かされました。


清水セイカさん著作『生贄たちの午後』

『生贄たちの午後』(清水セイカ) 双葉社
 発売:2023年08月08日 価格:1,650円(税込)

著者プロフィール

清水セイカ(シミズ・セイカ)

小説投稿サイトで2019年より発表していた『悪魔はそこに居る』が、2021年にコミカライズ(作画:でじおとでじこレッド)され話題を集め、本年配信ドラマとして実写化された。コミカライズ原作はほかに『宿無しイケメン拾いました』(作画:柊木Mel)がある。小説家としても2021年に初の書籍『キャラ変! ドS男子になったら超絶毒舌女子と仲良くなった件』を刊行。その他の著書に『逆行した元悪役令嬢、性格の悪さは直さず処刑エンド回避します!』があり、本年8月に2巻が発売されたばかり。

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