品川駅を起点に、東京の都心部を走る「JR山手線」。2020年に49年ぶりの新駅開業となった高輪ゲートウェイ駅を含めた30の駅を擁し、乗降客数世界一と言われる新宿駅や、若者の街・原宿駅や渋谷駅、かつての電気街いまやオタクの聖地・秋葉原駅、北の玄関口と言われる上野駅、そして日本の列車網の中心・東京駅などを内回り・外回りで環状運行して繋ぐ都民の足です。

その、おそらく日本でいちばん有名な鉄道路線・山手線を、その駅数と同じ30話の物語で描いた柊サナカさんの新刊『一駅一話! 山手線全30駅のショートミステリー』(宝島社文庫)が発売されました。

1周のなかでビジネス街から商業地域、湾岸地区、情緒あふれる下町、高級住宅地……と、東京の持つさまざまな顔を見せてくれる山手線と同様に、ミステリから恋愛モノ、ファンタジーやホラーなどあらゆるジャンルを詰め込んだ楽しい1冊を発表した柊さんに、お話を伺いました!

『一駅一話! 山手線全30駅のショートミステリー』(宝島社文庫)

ありとあらゆるジャンル、喜怒哀楽全部そろった全部乗せの一冊に仕上げました

――今回の『一駅一話! 山手線全30駅のショートミステリー』について、これから読む方へ、どのような作品かをお教えいただけますでしょうか。

山手線に乗って次の駅までで一話読める、ミステリー、恋愛、SF、ファンタジー、ホラー、時代小説等々、ありとあらゆるジャンル、喜怒哀楽全部そろった全部乗せの一冊に仕上げました。柊サナカによる全話書下ろし、30話+ボーナストラックの大容量となっております。そういえば最近読書から離れているな……という方にも自信をもっておすすめしたいです。

――この作品が生まれたのはどんなきっかけだったのでしょうか。

わたしは執筆の傍ら、息抜きとして趣味でも小説を書いています。特に趣味で書くときに好きなのがショートショートのスタイルで、普段書いていないようなジャンルにも挑戦します。担当編集者と打ち合わせの時に、短い話を書くのが好きなら、山手線の駅で一話ずつ書いてみるのはどうかという話になりました。内心(えー、山手線の話だけで30話は無理では……)と思いつつ、「やります!」と元気よく返事して、一日一話のペースで書き続け、この『一駅一話! 山手線全30駅のショートミステリー』が完成しました。

山手線に乗っては降り、乗っては降りして一つ一つの駅を巡ったのもよい思い出です

――ご執筆にあたって、苦労されたことや、当初の構想から変わった部分など、なにかエピソードがありましたらお聞かせください。

田舎で育ったので、電車といえば多くても1時間に4本程度で、乗り遅れたら待たなければならないので大急ぎ、という感覚でしたが、上京してあまりに山手線が頻繁に来るので不安になりました。今回の執筆で、山手線に乗っては降り、乗っては降りして一つ一つの駅を巡ったのもよい思い出です。

ちなみに、最後の駅の話はわたしの心の叫びが詰まっていますので、ぜひお読みいただければと思います。

――本作は、特にどのような方にオススメの作品でしょうか? 読みどころなども含めて教えてください。

3分あれば別の世界にお連れしますので、忙しい方、最近本を読んでいない方にもぜひ読んでいただきたいですね。

各話短いですが、ただ短いだけじゃなくて、必ず驚いたりぐっとくるような、ひねった話作りをしました。

宝島社では毎年、テーマごとのショートショートアンソロジーのシリーズが出版されています。デビュー直後で書き始めの年は、4話出して全ボツということも……。そこから少しずつ書き方のコツを得ました。ですので、ショートショートのキャリアは10年近くあります。過去に書いた話の中には、NHKワールドで朗読ドラマになった話もあり、様々な劇団により演じられた話もあります。

そんな経験を積んできた中での、今回の『一駅一話! 山手線全30駅のショートミステリー』は、全部新作の書下ろし、真に面白いものだけを選定しました。一話ずつ読んで三十日間楽しんでくださってもいいですし、すき間時間のお供にもぜひ。

読者の方と一緒にほっこりしたりムッとしたり笑ったりできたらいいなと思っています

――小説を書くうえで、いちばん大切にされていることをお教えください。

今回の『一駅一話! 山手線全30駅のショートミステリー』もそうなのですが、真ん中に自分の感情の揺れを据えて、そこから話を展開させるようにしています。電車の中って、考えてみれば、狭い空間に知らない人といるわけで、けっこういろいろなことが起こりますよね? 読者の方と一緒にほっこりしたりムッとしたり笑ったりできたらいいなと思っています。

――最後に読者に向けて、メッセージをお願いします。

恥ずかしながら、我が子らは小説をあまり読みません。毎日名作を読み聞かせして育て、そこら中に本が積まれている本だらけの我が家でさえそうなのです。そんな、読書から離れている人たちにも(本って面白いな……)と思えるような一冊を書きたいとずっと思っていました。今回の『一駅一話! 山手線全30駅のショートミステリー』が、いろんな人に届きますように。

Q:最近、嬉しかったこと、と言えばなんでしょうか?

『人生写真館の奇跡』(宝島社)が海外23か国で展開されて、それだけでも嬉しいのですが、いろいろな国の人が自分のカメラの写真付きでメッセージをくれたりして、楽しいです。

Q:ご自身は、どんな小説家だと思われますか?

新しい話を頭の中の脳内劇場で上演して、それを見るのが好きです。この脳内の映画を、面白く読者の皆様の脳内にもお届けできるようにと思いつつ書いています。

Q:おすすめの本を教えてください!

では最近読んで大好きになった本を三冊。

■『テスカトリポカ』佐藤究(KADOKAWA)

日本のヤクザならまだ命乞いを聞いてもらえそうな、情緒の通じる雰囲気がありますが、もう絶対に何のお話も聞いてもらえないであろう南米ナルコ(麻薬密売人)の恐ろしさよ。ジャンルはクライムサスペンスで、読みながら震えるようなすさまじい展開がある一方で、今までの読書人生の中でも屈指のうつくしいシーンがあります。ところどころぐっときて泣きました。アステカ文明にも興味がわいて、「古代メキシコーマヤ、アステカ、テオティワカン」展を見に行くほど大好きな一冊に。

■『方舟』夕木春央(講談社)

わたしは今まで何の恐怖症もないと思っていました。先日、石造りの巨大なピラミッド迷路に入ったとき、迷っているうちにだんだん息苦しくなって冷や汗が出て、具合が悪くなりました。閉所、特に自分で自由に出られないようなところは本当に苦手です。『方舟』を読んだ時には、その閉塞感が蘇ってきて、息を浅くしながら読みました。閉所ダメな人ほど楽しめると思います。どこかの地下に閉所が苦手な人だけを集めて閉じ込め、『方舟』読書会をしたいです。

■『橘外男日本怪談集 蒲団』橘外男(中央公論新社)

怖い話を読むことによって、命をヒンヤリさせるのが好きです。世の中の怪談には、あまりに鮮やかなオチが付いているものがあり、それはそれで怖いのですが、怖さに奇妙な余白があるものは、よけいに怖くありませんか? この表題作「蒲団」は、今キーボードを打って“蒲団”と漢字を出しただけで、ぞくっとするくらいに湿度のある怖さがありました。


柊サナカさん最新作『一駅一話! 山手線全30駅のショートミステリー』

『一駅一話! 山手線全30駅のショートミステリー』(柊サナカ) 宝島社文庫
 発売:2023年11月07日 価格:790円(税込)

著者プロフィール

柊サナカ(ヒイラギ・サナカ)

1974年、香川県生まれ。応募作品が「第11回『このミステリーがすごい!』大賞」にて「隠し玉」として選ばれ、2013年に『婚活島戦記』でデビュー。その他の著書に『人生写真館の奇跡』『古着屋・黒猫亭のつれづれ着物事件帖』「谷中レトロカメラ店の謎日和」シリーズ、「機械式時計王子」シリーズ、「二丁目のガンスミス」シリーズ、「天国からの宅配便」シリーズ、『お銀ちゃんの明治舶来たべもの帖』、『ひまわり公民館よろず相談所』などがある。

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