「『最後の晩餐』にはなにを食べたい?」――テレビ番組でタレントがそう訊ねられていたり、友達とそんな話をしたことがある人もいるでしょう。

大好物? いままで食べたことのない高級料理? それとも「家庭の味」? なんと答えるにしても、本当に「人生最後の一食」の心構えをして答える人は少ないのかもしれません。でも発売されたばかりの本作『余命100食』のヒロイン・咲村梨依には、あと100回の食事しか残されていないのです。

とある事情で無気力に生きている室崎凍夜は、「残り100回食事をしたら死ぬ」という奇病に冒された梨依と出会い、彼女の食事の旅につきあうことになります。一食食べ終えるごとに寿命が近づくことになるのに、常に楽しく味わい完食する梨依の姿に、やがて凍夜は……。

残された命の期限が食事の回数で決まっているというユニークな設定の物語を生み出した湊さんにお話を伺いました。

『余命100食』著:湊祥 イラスト:かない

もし自分があと100回しか食事ができなかったとしたら、何を、誰と食べるのか

――今回の『余命100食』について、これから読む方へ、どのような作品かをお教えいただけますでしょうか。

100回食事をしたら死ぬという奇病にかかったヒロイン・梨依と、事故で命に関わる重傷を負ったことがきっかけで無気力になってしまった主人公・凍夜による、期限付きの恋のお話です。

もし自分があと100回しか食事ができなかったとしたら、何を、誰と食べるのか。何気ない時間を大好きな人たちと過ごす大切さを感じ取っていただければと思います。

――この作品が生まれたのはどんなきっかけだったのでしょうか。

ユニークとおっしゃっていただけて嬉しいです! ありがとうございます。

余命間近の美しいヒロインとの恋を描いた物語は、多くの名だたる作家様がたくさんの素晴らしい作品をすでに世に送り出しています。そんな中で誰かに私の作品を手に取ってもらうためには、まずは引きのあるタイトルが重要だと考えました。中身にどんなに思いを込めても、まずは読んでもらわないと始まりませんからね。

だから余命ものを書くと決めた時に、「余命○○」というシンプルなタイトルにしたいなと思いました。「余命10年」や「余命3000文字」などの近年ヒットした作品のタイトルがとても印象深かったためです。

そこで何気なく家でぼんやりしている時に「余命100食」というフレーズが浮かんだんですよね。「あ、なんか面白そうなタイトルだぞ」と我ながら思いました(笑)。念のためWeb検索をしたところ、余命のカウントダウンに食事を扱っている作品は見つからなったため、これでいこうと決断しました。
思えば、タイトルが内容よりも先に生まれた作品は初めてです。いつもタイトルは最後につけるので。

なるべく絶食すればいいのでは? 食事をせずに点滴を打ってもらえば? 我ながらツッコミどころが多い病だなと……

――ご執筆にあたって、苦労されたことや、当初の構想から変わった部分など、なにかエピソードがありましたらお聞かせください。

「余命100食」という病の設定を固めるのがなかなか難しかったです。食事をしなければ余命が減らないのなら、なるべく絶食すればいいのでは? とか、食事をせずに点滴を打ってもらえば? など、我ながらツッコミどころが多い病だなと……。

しかしこの物語を書こうと決めた時に浮かんだヒロイン像が、「あー、おいしかった!」と余命の間近まで食事を楽しむ、明るく強い女の子でした。だから「摂食嚥下の食事を規則的に取らないと激しい腹痛に襲われる」「食事さえとっていれば、余命が尽きるまで健康体である」など、今際の際までヒロインがおいしい物を食べていても不自然にならない設定に少しずつ固めていきました。

しかしポプラ社さんで受賞した際の講評に「おやつはカウントに入るの?」とツッコミがあり、それについては抜けていたなと反省しました。書籍版にはおやつについてもしっかり言及しています。

――本作は、特にどのような方にオススメの作品でしょうか? 読みどころなども含めて教えてください。

余命何か月、余命何年、と宣告された場合でも、それはおおよその余命であって数日や数か月ずれることも珍しくは無いですし、はっきりと何月何日の何時に死ぬ、とは決まっていません。

しかし余命100食の場合、100回食事をしたら死ぬ病、というわけでヒロインの命がいつ尽きるのかが明確になっています。

その設定を踏まえて物語を作り上げたので、そこに注目して読んでいただければと思います。

また、それまで他人に興味がなく、自分のことしか考えていなかった主人公の凍夜が、誰かとの食事を楽しむことに生きがいを見出している梨依の心に触れて、どんどん変わっていきます。彼が一大奮起するシーンも見どころのひとつです。

「私はこういったジャンルの物語しか書けない」などとは思い込まず、さまざまな物語にチャレンジしたい

――小説を書くうえで、いちばん大切にされていることをお教えください。

小説は娯楽のひとつであり、生きていく上で読書は必須ではありません。だからこそ、わざわざ私の作品のために貴重な時間を使って読んでくれた方に、感動や気づき、温かさなど、なんでもいいので、「読んでよかった」と感じてもらえる何かを置いていけるような、そんな物語を書きたいと常に思っています。

――最後に読者に向けて、メッセージをお願いします。

最近は大人の女性向けの、恋愛要素多めのキャラクター文芸を多く書いていたので、老若男女楽しめるようにと考えながら書いた『余命100食』は、私の挑戦作でした。自分なりに大変いい物語になったと自負しておりますし、ポプラ社小説新人賞でも、僭越ながらピュアフル部門賞を受賞いたしました。

今後も、「私はこういったジャンルの物語しか書けない」などとは思い込まず、さまざまな物語にチャレンジしたいなと考えておりますので、温かく見守っていただけたら幸いです。

Q:最近、嬉しかったこと、と言えばなんでしょうか?

去年友人とライブに行ってからAdoさんの大ファンになりました。今年の日本武道館のライブにも参戦したのですが、そのライブがAbemaTVで配信された際に、めちゃめちゃノリノリでライブを楽しんでいる私と友人の姿が映っていまして……。その時、副音声でライブの解説をしていたAdoさん本人が「あはは、ありがとうございます」と言ってくれたんです! 
推しの視界に入った上に言葉をかけていただけたなんて、最高に嬉しかったです。

Q:ご自身は、どんな小説家だと思われますか?

なかなか難しい質問ですね。全然考えたことが無く、改めて考えてみても思いつきませんでした。まだ模索中みたいです。

とにかく書くのが楽しくて、ひたすら楽しいままにいろいろ書いているので、あまり自分を小説家だと思っていないのかもしれません。

だって、小説家さんって基本的に天才ばかりじゃないですか……。書店に置かれた自著の周りを見ても、天才小説家さんの作品ばかりで。そんな皆さんの知識量や文章力に圧倒されては、しょっちゅう自信を無くしています。10冊出したら、重版したら、いつか自信が出るのかなあと昔は思っていましたが、それらを経た今でも全然自信なんて無いです。

いつか小説家らしい自信が芽生えるのでしょうか!? 精神の安定のためにもそろそろ芽生えて欲しいところです!

Q:おすすめの本を教えてください!

■『羊をめぐる冒険』村上春樹(講談社)

村上春樹さんの作品はたくさん読んでいるのですが、初期の頃のお話が私は好きで、特に鼠三部作のひとつである『羊をめぐる冒険』が一番好きです。ファンタジーと現実の狭間にあるような世界への没入体験ができます。

■『トマシーナ』ポール・ギャリコ(東京創元社)

『猫語の教科書』『ジェニイ』などを執筆し、この方は本当に猫が好きなんだろうなあと思わずにはいられないイタリアの作家、ポール・ギャリコさんの猫小説です。前半は猫好きにはちょっと辛いですが、終盤のどんでん返しに救われます。そしてトマシーナがとにかくマイペースで、猫らしくてかわいいです。1957年の作品らしいのですが、やっぱり今も昔も猫のかわいさは変わりませんね。

■『ワールドトリガー』葦原大介(集英社)

今のところ、人生で一番好きな漫画です。キャラクターがすごく多いのですが、全員に個性があって超魅力的です。独自の設定や用語が多いのですが、すべてを理解した上で何度も読みたくなります。もう何回読み返したか分かりません。独特のセリフ回しや雰囲気もたまらないです。葦原大介さんと言えば、『賢い犬リリエンタール』も超名作です。


湊祥さん最新作『余命100食』

『余命100食』(湊祥) ポプラ社
 発売:2023年12月05日 価格:814円(税込)

著者プロフィール

湊祥(ミナト・ショウ)

宮城県出身。2019年に「一生に一度の恋」小説コンテスト最優秀賞受賞作『あの時からずっと、君は俺の好きな人。』でデビュー。『鬼の生贄花嫁と甘い契りを』が人気を集めシリーズ化、現在までに4作が発表されているほかコミカライズも行われている。2020年には『あやかし猫の花嫁様』で「第三回キャラ文芸大賞」奨励賞を、2023年には本作で「第12回ポプラ社小説新人賞ピュアフル部門賞を受賞している。その他の著書に『何度記憶をなくしても、きみに好きと伝えるよ。』『杜の都であやかし保護猫カフェ』『ずっとキミしか見えてない』『縁結びの神様に求婚されています 潮月神社の甘味帖』『君がすべてを忘れても、この恋だけは消えないように。』、近著に『魔女は謎解き好きなパン屋さん 吉祥寺ハモニカ横丁の幸せな味』などがあるほか、12月末には『鬼の生贄花嫁と甘い契りを』の続刊が刊行予定。

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