国会初日、所信表明演説の最中に首相が突然倒れ、救急隊員になりすましたテロリストによって衆院本会議場が占拠されてしまった!

その場でテロリストによる与党議員への尋問が始められる。最新のポリグラフを駆使した科学鑑定結果が全世界生中継で公開され、ネット投票を募って下される判決。それはまさに国民裁判だった。――発売されたばかりの沢村鐵さんの最新作『処刑国会』は、「暴走する正義」を描いた政治エンターテインメント小説です。

裏金問題、特定団体との癒着、原発問題……現実でも耳馴染みのある、政治が抱える闇の数々で追求を受ける議員たちの姿が、切実さを伴って迫ってきます。

エンターテインメントの力を借りて、現実社会の暗部を炙り出す沢村さんにお話を伺ってみました。

私たちの住んでいる国はどんどんどんどん、歪んで、壊れて、とんでもないところへ向かっている気がしました

――今回の『処刑国会』について、これから読む方へ、どのような作品かをお教えいただけますでしょうか。

テロリストグループが国会に乗り込んで、嘘発見機を設置して大物議員の嘘を次々暴きます。それをもとに、国中から一般の人たちにネット投票をしてもらって、議員の刑も決めてしまいます。死刑の場合は速やかに処刑。……と言うと相当物騒な話に聞こえますが、まったく一筋縄で行く物語ではありません。決して後悔はさせませんので、どうか物語の門をくぐってみてください。

――この作品が生まれたのはどんなきっかけだったのでしょうか。

毎日ニュースを見ていると、私たちの住んでいる国はどんどんどんどん、歪んで、壊れて、とんでもないところへ向かっている気がしました。そう感じているのは私だけではないようで、私が尊敬する人ほど懸命に警鐘を鳴らしています。ところが、大多数の人たちはそれをスルーして、素知らぬふりを決め込んでいるように見えます。

私は素知らぬふりはできません。

気がついたら、この物語が生まれていました。

構えず気楽に読んでいただければ嬉しいです。「楽しそうなデスゲームじゃん!」でいいんです

――ご執筆にあたって、苦労されたことや、当初の構想から変わった部分など、なにかエピソードがありましたらお聞かせください。

日々、社会状況が悪くなっていくのでいささか焦りました。私の中にもともとあった迷いと相まって、シノプシスは二転三転しました。ただ、大きな転換点を越えてからは道が定まりました。

最後にたどり着いた物語の形には満足しています。最善を尽くせたと思います。

――本作は、特にどのような方にオススメの作品でしょうか? 読みどころなども含めて教えてください。

読者を選びません。「万人の夢」を実現した物語だと思っているので(笑)。

ぜひどなたでも、構えず気楽に読んでいただければ嬉しいです。それがエンターテインメントの良いところ。「楽しそうなデスゲームじゃん!」でいいんです。

ただ、読み終わった後に、確かな何かが心に残ってくれたら。そう願っています。

普遍的なもの。長くこの世に残る価値があるもの。そんな物語を目指して精進しているつもりです

――小説を書くうえで、ご自身にとっていちばん大切にしていることや拘っていることをお教えください。

普遍的なもの。長くこの世に残る価値があるもの。そんな物語を目指して精進しているつもりです。ちょっとマジメすぎますかね?

でも、小説界の片隅に、いつのまにかひょこっと現れた身分です。どこのものとも知れない私は、雑草魂だけを誇りに物語を紡いでおります。沢村鐵がまだ本を出せる日々、一日一日が奇蹟です。ひとえに読者のみなさんがいてくださるから。お陰様です!

――最後に読者に向けて、メッセージをお願いします。

『処刑国会』をひとたび読んでいただけたならあなたは仲間です。革命の志士です。

読み終わったその日から、あなたは革命のために行動を起こすでしょう。

その結果、社会はひっくり返る。……これはそういう本です。

エンターテインメントとして楽しみつつ、国家転覆も楽しみましょう!

私はみなさんに期待しています(笑)。

Q:最近、嬉しかったこと、と言えばなんでしょうか?

ずいぶん若い読者の方から、直接連絡をいただいたことです。

警察小説の書き手として世の中に認知されるようになりましたが、それ以前は、主に若い人たちに向けて不思議な話を書いていました。『封じられた街』(ポプラ社)などのいわゆるダークファンタジーです。

小学生の頃に、それらの本の愛読者になってくれた方が最近、新社会人になったタイミングでわざわざ連絡をくださったのです。当時どれだけ夢中になったかを熱を込めて伝えてくださり、沢村の他の作品も読んでみようと思っている。縁のなかった警察小説にも挑んでみる、と言ってくれました。

こういう人たちに届けるために物語を書いているんだと思いました。

歳を重ねても忘れないでいてくれる。世代が離れていても関係ない。だれかの心に長く残るものを、届けられた。

沢村がこの世からいなくなった後も、いくつもの物語がだれかの心に留まり続ける。もしかすると、ずっと。

これ以上望むことがあるでしょうか。

Q:ご自身はどんな小説家だと思われますか?

沢村鐵とは本来はジャンルレスな書き手ですが、青春小説家として世に出、ダークファンタジーを経て、いまは警察小説が多くなっています。ただ、「これは警察小説じゃない」と言われることが多いです。実はそれが嬉しいです(笑)。

できるならこの世のすべてを描きたいです。

ただただ、みなさんの心に留まる物語になれ、と祈りながら、紡ぎ続けるだけだと思っています。

Q:おすすめの本を教えてください!

■『銀河鉄道の夜』宮沢賢治(新潮社、ほか)

まずは宮沢賢治先生の本です。知らない人はいませんが、案外読まれていない気がします。まだ読んだことがない人がいたらぜひ。

私にとっては、絶対に一生手の届かない、輝く星のような存在です。

どの作品でも構いませんが、あえて選ぶなら……やはり『銀河鉄道の夜』でしょうか。

■『釜石の風』照井翠(コールサック社)

そして、照井翠さんの『釜石の風』。

私と同郷、岩手出身の俳人の方です。

高校の国語の教師を長く務められ、東日本大震災当時、私の母校である岩手県立釜石高校で被災。一ヶ月間、体育館と合宿所で生活されたそうです。
その後、震災を反映した句集を多く発表。とても評価されています。

紹介するこの『釜石の風』はエッセイ集で、俳句に縁遠い人でも手に取りやすいと思います。

私はこの本を平静に読むことができません。当時、故郷に住んでいなかった私の代わりに、照井さんがすべてを見てくださった……そんな勝手な思いを抱いています。とにかく多くの人に読んでほしい。私の故郷がどのように傷つき、どのように再生しようとしてきたか知っていただきたいです。

ここまで故郷を愛し、活写していただいた照井さんに満身の感謝と敬意を捧げます。

■『へんな星たち 天体物理学が挑んだ10の恒星』鳴沢真也(講談社)

もう一冊は、いま執筆中の新作のために集めた資料の中から。

『へんな星たち 天体物理学が挑んだ10の恒星』。

著者の鳴沢さんは天文学者です。宇宙に実在する「へんな星」を詳しく紹介してくれます。

ありえない形をした星、明るすぎる星、姿の見えない星……。

想像を超えるものばかりで、楽しくて仕方ありません。

もともと宇宙が大好きなのですが、私にSFを書くことは許されておりませんので、次も警察小説です(笑)。

それがどう、宇宙とからんでくるのか? どうか楽しみにしていただければ!


沢村鐵さん最新作『処刑国会』

『処刑国会』(沢村鐵) 双葉社
 発売:2024年08月07日 価格:990円(税込)

著者プロフィール

沢村鐵(サワムラ・テツ)

1970年、岩手県出身。2000年に『雨の鎮魂歌(レクイエム)』でデビュー。主な作品に「警視庁墨田署刑事課特命担当・一柳美結」シリーズ、「クラン」シリーズ、「極夜」シリーズ、「世界警察」シリーズ、『封じられた街』『十方暮の町』『ノヴェリストの季節』『ミッドナイト・サン 』『あの世とこの世を季節は巡る』『はざまにある部屋』『謎掛鬼 警視庁捜査一課・小野瀬遥の黄昏事件簿』などがある。

ウェブサイト:〈沢村鐵のフィラメント〉

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